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初対決

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「へぇ~~ま、やってみましょうか」

「み~~」

 幸乃がそうのんきにしゃべり、シェルリがそれに答えて鳴く、2人は夕食のため繁華街へ向かった。

 繁華街は街の中心部にあった。
 酒屋や飲食店が立ち並び、酒の入ったジョッキを片手に今日の成果を自慢する者、儲け話に話しを咲かせる者、中には酒に入り浸りで大声を上げる者もいて賑やかで活気がありどの店も今日のクエストの話しや自慢話などでにぎやかだった

「ここの店がいいです、安くて料理もそれなりにいいですし」

 ベルが繁華街を5分ほど歩いて指し示したその店は「speroスぺロ」という店だった。

 店はアンティークな小物が置いてありきれいな店でバー形式とお見合い形式の席があり、お見合い式の席に2人は腰かけた。

 そして2人は店に入り、茶色い豆を煮たものとラム肉を焼いたもの、サラダとライムギのパンを2人は頼んだ。

「そう言えば幸乃さんは魔法は使ったことありますか?」

 ベルは表情を全く変えずに問いかける。ベルの質問に幸乃は気付いた、自分は魔法がよくわからない事に。

「そう言えばそうだったわね、私魔法とかほとんどわかっていないし……」

「とりあえず今夜は特訓です、私が教えます。とりあえずある程度戦えるところまで」


「じゃああたし経験豊富なベルちゃんにたっぷりリードされちゃお~」

 そう言って両手をほほに置いて半ばおふざけで答える。

 その後、食事が来て2人は食事を平らげる。

「うん、おいしいねこれ」

 料理はおいしかった。
 特にラム肉は程よく脂が乗っていておいしく花のチップを使っているせいかどこか華やかな香りがした。





 夜、食事を済ませた後教会に戻った、そして休憩を済ませると近くの湖のほとりに立つ。

「では、魔法の指導をします」

 ベルはそう言って目をつぶる、そして何かを念じるような素振りをする、すると……

 スッ!!

「おおお、すごーーーい!」

 驚愕の表情を見せる幸乃。

「清廉なる力、悠久の時より目覚め邪悪を切り裂く閃光となれ、聖剣アルテミス!!」

 そう叫ぶとベルの手には自分の身長ほどの長さのある洋刀が突然現れていた。
「これが魔道兵器マギガ・デバイスです、これはその者の魂の具現化とされています」

「では幸乃さんもやってみてください、コツは自分の魂を両手に出現させるように意識する事です」

「まぁ、よくわからないけど意識してやってみるわ」
 幸乃がそう言葉を返し目をつぶる、そして両手を胸の前に置きその手に自分の魂を出現させるよう念じてみる、すると──

 彼女の脳裏に言葉が浮かぶ、幸乃はその言葉を叫ぶ。

 天をかける力、守護の想いに共鳴しその輝きで光を与えよ・聖剣
アグラヴェイン。

 ドン!!
「おお!!」

 思わず驚きの声を上げる幸乃、彼女の両手には突然青と水色を基調とした剣のようなものが握られていた。

「それがあなたの兵器のようですね、見たところ遠距離攻撃も出来そうですね。」


「マリン・バスター」

 言われた通り幸乃は湖のほうに向かって剣を振る、自身の兵器から何かを出すように意識しながら……すると──

 ドォォォォォン!!

 自身の兵器から丸の形をした水の塊のようなものが発射される。

「すっげーーーーー」

 驚愕する幸乃。

「それともう1つ念じてほしいものがあります、自分の魔力を全身に憑依させるように意識してください」

 ベルのその言葉を聞いて念じてみる。
(自分の魔力の憑依ね……)

 シュウゥゥゥゥゥゥ

 すると全身が薄く水色に光り始める。

「すごい!!何これ?」

 幸乃が思わず声に出す。

「オーラと言います、これの特性ですが……」

 スッ
 そう言ってベルは自信に剣を振り上げると。

 スパッ
 幸乃の右腕を切りつける。

「痛っ!!ってあれ?」

 右腕に痛みを覚える幸乃、しかし腕は切断はおろか傷一つついていなかった。

「オーラを身につけている限りは攻撃を受けても出血はしません、戦闘時は必ずオーラを付けてください」

「あ、はい」
 ベルのその言葉に唖然として返事をする幸乃


「では、実践をやってみましょう、かかってきてください」
 ベルはそう言い放つと両手で剣を握りしめ、構える。

「お、早速実践か、いっくよーー」

 すると幸乃はシェルリをちらりと見て足に力を込めて間合いを詰めていく。
 シェルリはそれを見てカメラを回し始める。

 スッ

「おおおっ」

 幸乃は驚いて声を出す、その間合いの詰める速度は通常の人間が走ってつめる速度をはるかに凌駕していた、音速に近いくらいに……

(やっぱりね、あの力の込め方なら足に力を込めれば速い速度で接近出来るんじゃなかって思ってやってみた、予想通り、やっぱ私天才!!)

 幸乃は魔法の使い方を教わった時と初めて魔法を使ったカラテのパフォーマンスの時を思い出し脳裏に閃いていた、この力を足に込めれば圧倒的な加速で敵に奇襲できるのではないかと。

 そしてベルに急接近し、自身の剣を振りかざす……
 ベルは誰にも聞こえないような小声でささやく。

「教えてもないのに魔力を使って通常より圧倒的な早さで間合いを詰める発想に至ったセンスやその発想力は流石です、ですが……」

 ベルは振りかざした剣を何ごともなかったように剣で防ぎそのまま体を反転、無防備となった幸乃の体の中央に蹴りを入れ幸乃を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた幸乃は3メートルほど吹き飛びすぐに立ち直ろうとするが……

 スッ

 何かに気付いた幸乃はその気配のもと、自身ののど元を見る、
 そこには幸乃ののど元にベルが剣を突き付けている姿があった。
 そして話しかける。

「所詮は付け焼刃ですね」

「まだまだ、もう一回」

 そう言いながら幸乃は立ち上がり5メートルほど後ずさりし距離を取る。

「マリン・バスター!! 」

 さっき教わった魔力を伴った攻撃を放っていく。
 接近戦では勝てないと見て遠距離からの攻撃を試みる。

(そうきましたか、ですが甘いです)

 スパッ!スパッ!

 ベルはその魔力の玉の砲撃を見きったように切り捨てる。
 そして今度は幸乃に接近、攻撃を仕掛ける。
 幸乃はさっきの戦いで実力差を感じ、守りに徹しようとするが……

 カァァァァン

 圧倒的な実力差を覆せず幸乃の剣はベルの剣術によって空中に弾き飛ばされ、再びベルの剣は幸乃ののど元へ。

「魔力は相当あるようです、ただ経験がまだです、もっと鍛錬しないと使い物になりませんね」

「そうですよね~~」

「剣術を教えます、幸乃さんならすぐに覚えられるでしょう」

 ベルの言葉にショックを受けてうつむき始める幸乃。
 しかしその言葉に飛びつくように反応し始める。

 2時間ほどベルは幸乃に最低限の剣術を教えた、攻撃の仕方、防御術、カウンターの方法。
 何度か実戦形式になりながら幸乃は出来る限りの事を吸収した。


「ハァハァ、もうダメ~~」

 疲れ果てて倒れこむ幸乃。
 実践では全く勝てる気はしなかった。

 立ち向かってはじき返されたところをカウンターをくらい。
 攻められればそのまま押し切られる。

 実力の差は圧倒的だった。
 訓練が終わり倒れこむ幸乃にベルが目の前まで接近、隣で体育座りになり話し始める。

「見たところ、飲み込みは素晴らしいです、このまま訓練を続ければ外でも戦えるようにはなるでしょう」

「ま、褒め言葉として受け取っておくね……」

 倒れ込んだまま幸乃は答える。
 そして2人は川で体を洗い、いつもの教会に礼拝堂のベンチに戻り就寝した。
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