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エンド・オブ・ザ・ノースランド

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 天窓から差し込んだ陽光が幸乃の身体を照らす。

 窓を見ると地面には雪が積もっていて赤レンガの家屋や大理石の建物、古代風の城壁などが垣間見えた。どうやら窓から見た高さから建物の2階にいるのだと予想する。
 やや狭い2人用の個室で高級感のある調度品と、アンティークなランプの照明、赤いじゅうたんの部屋。

「ここは、どこ?」

 幸乃がゆっくりと身を起こす、周囲を見ると自分がベッドに寝ていたのが確認できる。

(ベルたちが運んでくれたのかな?)

 幸乃が記憶をたどる。さっきまで冥王と激戦を繰り広げていた、そして力を使い尽くして倒れていたはずだった。
 恐らく倒れていた自分を送ってくれたのだろう──。

 そう考えているとコンコンと誰かがドアをノックをしてくる、そしてゆっくりと扉を開けると。

「幸乃さん──」

 ベルだった、意識を取り戻した幸乃を見た瞬間ベルの瞳からうっすらと涙がぽろぽろと浮かべ始める。

「やっと起きたんですね、幸乃さん倒れていた時真っ青で、それで何とかおぶって移動したんですけど、2週間近くずっと幸乃さん目を覚まさなくって心配でした、もう目を覚まさなくなっちゃうんじゃないかって──」

 いつもとは違いたどたどしい口調でベルは訴える。ベルはエンド・オブ・ザ・ノースランドからここザバイカルまで、そしてこの部屋でずっと幸乃につきっきりで看病をしていた。
 ミリートは極度の魔力使用の影響による身体の消耗だと判断したがそれでも心配は消えなかった。

「みんな幸乃さんを心配しています、ちょっと呼んできますね」

「じゃあ私の行く、っておっとっと!!」

 幸乃がそう言ってベッドから立ち上がろうとするとうまく膝に力が入らずつまづいてしまう。 ベルが幸乃の身体を押さえてベッドに戻す。

「無理は禁物ですよ、待っててくださいね」

 そう言ってベルはこの場を去る、そして5分後──。

「幸乃さん、起きたんですね!!」

 聞きなれた甘ったるい声、リルカの声。

「やはりそうだろうな、貴様がこんなところでくたばるわけがないからな」

 次はミリートの声、彼の声に戸惑いはなかった。幸乃は必ず目を覚ますと思っていたからである。しかし今日来たのはそれだけではなかった。

「幸乃さん、久しぶりです」

 小奇麗な格好をした金髪のロングヘアーの少女がそこにいた、幸乃はその人物の名を叫ぶ。

「シャレーちゃん!!」

 その後にヴェラッティ、そしてなんとあの人物がいた。

「奈美さん、何でここに!!??」

「やっほー、幸乃、やったみたいね」


 幸乃達が最後の旅に行くと聞いた瞬間奈美もヴェラッティにシャレーのもとに移動、そしてこの地へ向けて出発していたのだった。

「って言っても街の復興もあったから出遅れる形になっちゃったんだけどね──」

 みんなとしてはすぐにでも出発したかったのだがフィテアトルの街もギルガスの攻撃で一部の地域が被害を受けおりその復旧作業が必要だった。なので出発が遅れフィテアトルの次の街ザバイカルに着いたころにはすでに幸乃達が冥王を倒したという知らせが届いてしまったのであった。

「そういえばここはどこ?」

 幸乃は質問するとリルカが答える。

「ここはザバイカルの教会です」

 リルカが答える。ここは北の地方の中心地、幸乃達がフィテアトルの次に訪れたザバイカルだった。ここより北の街は小さい街ばかりで医療設備が整っていなかった、そのためこのザバイカルまで移動して何とか到着。病院を探しているうちにヴェラッティとかち合った。

 そして医者を探し教会に頼んで意識のない幸乃をベッドに寝かせていたのだった。

「おめでとう、幸乃」




 そして奈美はさらに話を続ける。これからのことを──

「幸乃、じゃあこの世界、それから仲間たちと別れる事なるけどいいね?」

「そっか、私帰らなきゃいけないんだった」

 奈美の言葉に幸乃ははっと反応する。今までは勇者になるために必死でそれしか考えていなかった。 そして晴れて勇者になってようやく思い出した、この世界と別れなければならないことを──


「そう言えばそうでしたね、冥王を倒して幸乃さんは立派な勇者になりました。 だから向こうの世界へ行ってしまう、どこかさみしいですね──」

 ベルが寂しそうに窓の外を眺めながらしゃべる。

「でも、幸乃だってやらなきゃいけないこといっぱいあるし、みんな待っているんだよ──」

「え、どんな仕事があるの?」

 奈美の言葉に幸乃が反応する、幸乃は再び思い出す、これからこの世界を離れなくてはならないという事を──
 そして幸乃の問いに奈美が答える。

「エベレストへ登山をしたりアマゾンへ行って動物を探したり東南アジアのジャングルへ行ってドッキリをしたり──、それはもう肉体派アイドルとして!!」

「ちょ、ちょっとそれおかしいよね、なんかバラエティ番組みたいになってない」

 幸乃が奈美の言葉を遮るようにすぐに反応する。

「冗談冗談、それはほんの一部だけ。ちゃんとアイドルとしての仕事も与えるから──」

 奈美はそう言って幸乃を安心させる、そして微笑を浮かべてさらに話を続ける。

「でも、もし帰ってくればあんたは局のスターとして、それなりの待遇が待っているんだけどなーー」

 奈美が残念そうな口調で言葉を返す、なにを隠そう今回のことで幸乃はこのテレビ局HEBの有名人になった。
 これを放送した番組「モザイクは夜」でも最後の方は幸乃のコーナーは常に最高視聴率であったらしい。
 幸乃達が必死に戦っている様子は視聴者達にも大好評だったようで局の顔としてもっと多くの仕事を振ろうとする予定だったのだ。

「まあ~~、幸乃がそこまで残りたいんだったら無理矢理残す必要もないしねー。 でも本当にいいの?夢がかなうんだよ?」

「う、う~~ん」
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