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二つの王国編
第70話 嫌われ役
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その言葉にこの場にいる全員がはっとした表情になる。
亜人達の顰蹙を買うことを避けるため、あえてペタンを遠ざけたってことか。
確かに世の中は綺麗ごとばかりでは回らない。
時にはこういうことをしなければいけないことも確かだ。
「不信感が、王に向かってはいけないの。あそこで私が言い放てば、彼らの不信感は私へ向かう。それでいいの。泥をかぶるなら私。あなたが、手を汚すべき時じゃない」
「そして、作戦が成功して、家臣たちがこの作戦に好反応を示したら、あなたを全面的に出す」
「なるほど、それはすごいな。罪悪感もすごいが……」
それは分かる。なんていうか、悪いことは彼女に押し付けてしまうみたいだもんね。
「その心意気は素直に褒めたいわ。けれど、現実は違うの」
センドラーはその言葉に表情を柔らかくしつつも、しっかりと言葉を返していく。
その言葉自体は、嬉しいのだろう。
「貴方はこの国の権威。もしこの策の評判が良くなかったら、あなたと王国そのものの権威が落ち、亜人達はあなたを信用しなくなってしまう。
汚れるのは、私だけで十分。評判が悪かったら私の責任。良かったらあなたの成果。この出来事で罪悪感を感じるなら、それは他の人たちに尽くしたり、困っていることを救ったりすることで解消してちょうだい」
その言葉にペタンは、考え込む。
センドラーは駆け引き的なことは、とても上手だ。こういった、国をまとめるために必要な裏技みたいなことは特に──。
「しかし、お前だって相当な身分何だろう? 大丈夫か?」
「私ぃ? 別にかまわないわ。これくらいたっくさんやってきたものぉ。今更って感じよ」
センドラーの言葉に、私は思わず苦笑いしてしまう。
確かに正論だ。今まで政争争いで、この位の事はリムランドでたくさんしてきた。
背中にある傷が一つ増えるだけ。特に気にする事じゃない。
ペタンのように、人の上に立つ立場で自分の印象を気にしなければならない立場ではない。
だから、安心して泥をかぶることができる私が、悪役になった。それだけだ。
「それともう一つ、お願いがあるわ」
「なんだ?」
「この国が安定することは、私達ラストピアの利益につながる。その上でお願いしたいの」
「言ってみろ」
「国家の権力の象徴と、実際の運営権限を分けてほしいのよ。その方が、確実にこの国は安定する」
センドラーは自信をもってそう伝える。
確か、私もリムランドで教わったことがある。
私達王族というのは、この国の権威の象徴。一刻をまとめるには、そういった権威があった方がまとまりやすい。
しかし、その権力者一人ですべてを把握するなんてできないし、判断ミスだってある。
そう言った時に、ペタンが行ったものということになると、彼の権威自信が傷ついてしまう。
あなたが運営に口を出すにしても、必ず運営権限、つまり行政官を噛ませてほしいとのことだ。
「貴方は、熱意もある、それに政策を決めるにあたっての冷静さや知識もかなりいい線をしている。だから、自分で政策を決めたり方向性を決めたりもしている。けれど、それには欠点があるの」
センドラーがごくりと息を呑んで、さらに言葉を進める。
「これだと、もし失敗したら、大きく権威が落ちてしまうわ。間違いなく造反組が出て来る。今回のガルフの件のようにね──」
「それは、あり得るな……」
ペタンの表情が、険しいものになる。隣にいたフォッシュがティーカップを机において、話に入る。
「それでは、どうすればいいんですか?」
「さっきと同じ。私が一時的につく。成功するかわからないものは、私がやったことにする。もちろんあなた達の話はきちっと聞く。それで行こうと思うの。いいわね」
「わかった」
「私も、賛同します」
二人とも、コクリと首を縦に振った。
「ありがとう。その判断ができたことを、ほめたたえるわ」
センドラーがフッと笑みをこぼす。確かにそうだ。権力者というのは、自分の権力を奪われることを嫌がる傾向がある。とくに彼のような気持ちがつよい人物ならなおさらだ。
しかし、国単位で一人で全部物事を決められるわけがない。
その時に参謀役や政務の実権にしっかりと任せられるか、信用できる人を見つけられるかがカギになるのだ。
「あとは、私に任せて。特に、駆け引きに関してや悪いことに関しては、あなたに噛ませず、独断でやらせてもらう。あなたが関わったなんて知れたら、一大事だしね。だから後は、私に任せて。私から、指示を出すから」
「わかった。後はよろしく頼む」
彼は、感情的なところはあっても、この国のために全力を尽くしているというのは理解できる。国のためといえば、納得してくれるというのは分かっていた。
何より、彼ら自身が自分たちの権限を私に与えてくれたんだ。私を、ここまで信じてくれているということだ。
それなら、その想いにぜったいにこたえなきゃ!
そして私達はこの場を去っていく。この思いを無駄にしないように、絶対に、この国を守り切って見せる!
亜人達の顰蹙を買うことを避けるため、あえてペタンを遠ざけたってことか。
確かに世の中は綺麗ごとばかりでは回らない。
時にはこういうことをしなければいけないことも確かだ。
「不信感が、王に向かってはいけないの。あそこで私が言い放てば、彼らの不信感は私へ向かう。それでいいの。泥をかぶるなら私。あなたが、手を汚すべき時じゃない」
「そして、作戦が成功して、家臣たちがこの作戦に好反応を示したら、あなたを全面的に出す」
「なるほど、それはすごいな。罪悪感もすごいが……」
それは分かる。なんていうか、悪いことは彼女に押し付けてしまうみたいだもんね。
「その心意気は素直に褒めたいわ。けれど、現実は違うの」
センドラーはその言葉に表情を柔らかくしつつも、しっかりと言葉を返していく。
その言葉自体は、嬉しいのだろう。
「貴方はこの国の権威。もしこの策の評判が良くなかったら、あなたと王国そのものの権威が落ち、亜人達はあなたを信用しなくなってしまう。
汚れるのは、私だけで十分。評判が悪かったら私の責任。良かったらあなたの成果。この出来事で罪悪感を感じるなら、それは他の人たちに尽くしたり、困っていることを救ったりすることで解消してちょうだい」
その言葉にペタンは、考え込む。
センドラーは駆け引き的なことは、とても上手だ。こういった、国をまとめるために必要な裏技みたいなことは特に──。
「しかし、お前だって相当な身分何だろう? 大丈夫か?」
「私ぃ? 別にかまわないわ。これくらいたっくさんやってきたものぉ。今更って感じよ」
センドラーの言葉に、私は思わず苦笑いしてしまう。
確かに正論だ。今まで政争争いで、この位の事はリムランドでたくさんしてきた。
背中にある傷が一つ増えるだけ。特に気にする事じゃない。
ペタンのように、人の上に立つ立場で自分の印象を気にしなければならない立場ではない。
だから、安心して泥をかぶることができる私が、悪役になった。それだけだ。
「それともう一つ、お願いがあるわ」
「なんだ?」
「この国が安定することは、私達ラストピアの利益につながる。その上でお願いしたいの」
「言ってみろ」
「国家の権力の象徴と、実際の運営権限を分けてほしいのよ。その方が、確実にこの国は安定する」
センドラーは自信をもってそう伝える。
確か、私もリムランドで教わったことがある。
私達王族というのは、この国の権威の象徴。一刻をまとめるには、そういった権威があった方がまとまりやすい。
しかし、その権力者一人ですべてを把握するなんてできないし、判断ミスだってある。
そう言った時に、ペタンが行ったものということになると、彼の権威自信が傷ついてしまう。
あなたが運営に口を出すにしても、必ず運営権限、つまり行政官を噛ませてほしいとのことだ。
「貴方は、熱意もある、それに政策を決めるにあたっての冷静さや知識もかなりいい線をしている。だから、自分で政策を決めたり方向性を決めたりもしている。けれど、それには欠点があるの」
センドラーがごくりと息を呑んで、さらに言葉を進める。
「これだと、もし失敗したら、大きく権威が落ちてしまうわ。間違いなく造反組が出て来る。今回のガルフの件のようにね──」
「それは、あり得るな……」
ペタンの表情が、険しいものになる。隣にいたフォッシュがティーカップを机において、話に入る。
「それでは、どうすればいいんですか?」
「さっきと同じ。私が一時的につく。成功するかわからないものは、私がやったことにする。もちろんあなた達の話はきちっと聞く。それで行こうと思うの。いいわね」
「わかった」
「私も、賛同します」
二人とも、コクリと首を縦に振った。
「ありがとう。その判断ができたことを、ほめたたえるわ」
センドラーがフッと笑みをこぼす。確かにそうだ。権力者というのは、自分の権力を奪われることを嫌がる傾向がある。とくに彼のような気持ちがつよい人物ならなおさらだ。
しかし、国単位で一人で全部物事を決められるわけがない。
その時に参謀役や政務の実権にしっかりと任せられるか、信用できる人を見つけられるかがカギになるのだ。
「あとは、私に任せて。特に、駆け引きに関してや悪いことに関しては、あなたに噛ませず、独断でやらせてもらう。あなたが関わったなんて知れたら、一大事だしね。だから後は、私に任せて。私から、指示を出すから」
「わかった。後はよろしく頼む」
彼は、感情的なところはあっても、この国のために全力を尽くしているというのは理解できる。国のためといえば、納得してくれるというのは分かっていた。
何より、彼ら自身が自分たちの権限を私に与えてくれたんだ。私を、ここまで信じてくれているということだ。
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