──破滅回避の悪役令嬢── 世界を救うため「書記長」というハズレ職業から成り上がります

静内燕

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最終章 リムランド編

第107話 ライナへの、ご褒美

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 予想以上に逃げ足が速かったのか、ラヴァルたちはすでにそこにいなかった。
 悔しくて、思わず歯ぎしりをしてしまう。

「残念でしたね、センドラー様」

「ああ、恐らく慣れているのだろう」

 ライナと、ソニータが遅れて私のところに歩いてくる。
 とほほ……。

「まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方ないです。再開しましょう。聞き込み」

「そうだね……」

 ライナの言う通りだ。私達は、聞き込み調査を再開。
 途中、ドライフルーツなんかを買い食いしながらいろいろと話を聞く。

 その方が、親身になって話をしてくれるからだ。
 会話したことの中心は、やはりラヴァルたちのことだ。

「犯罪を繰り返して、本当に困った連中だよ」

 みんな、そんなことを言っていた。
 色々な人と話して、なんとなくだけど自分の中で結論を出す。

 いろんな話が聞けたけど、かなりの人が話していたのが──亜人の人たちについて。
 やはり、暴力的──とか素行が悪いとか、いい噂を聞いていない。

 中には亜人達を街から追い出せなんて過激な事を言っている人もいる始末だ。

 特にラヴァル達についてはほぼすべての人が言っていた。
 いつも問題ばかり

 日が暮れ始めた時だった。

 傾向として、こういった問題は、元をただせば一人の人物が発端となっている場合がほとんどで、他の人物はその人物に流されてついて行ってる場合がほとんどだ。つまり、その中心人物さえ何とかすれば、問題は解決に持っていける可能性は十分にある。

 もちろん、その人物とはラヴァルのことだ。
 彼にも、色々あったのだろう。もちろん、一筋縄ではいかないというのは分かっている。

 それでも、私は逃げたりしない。真正面から向き合う。
 どれだけ私の身が傷つこうとも──。

 だって国民達は、もっと痛い目にあっているのだから。彼らは、もっと傷ついているのだから──。


 夕方になって、私達は王宮へと戻る。

「今日は、色々と新鮮な一日だった。とても、私のためになったと思う。礼を言うぞ」

「こちらこそ。でも、新鮮──じゃなくって日常的に国民達の声を、拾ってほしいわね」

「そうなれるように、努力するよ」

 そう答えるソニータの表情が、どこか清々しく見えた。
 これからも国民の声を聞ける、そして答えられるような人になってほしい。


 その後、部屋に戻ってライナ、ミットと一緒に夕食。

 牛肉のステーキに、オレンジジュースと野菜スープ。
 王都リムランドだけあって、食事も比べ物にならないほど豪華だ。

 その後、シャワーを浴びた。


 大きな天蓋付きのベッドに身を投げ出す。
 いろいろ歩いた以上に、環境が変わったこともあり、色々疲れてしまった。

 あおむけに寝て天井をじっと見ながら、大きくため息をついた。
 私がいない間に、色々変わってしまったなと感じる。

 決していいことばかりではない。それでも、逃げ出すわけにはいかない。
 立ち向かっていかないと──。

 私の隣に寝っ転がり、右腕をぎゅっとつかんできた。

「お疲れ様です、センドラー様」

「ありがと」

 いつものようになついてくるが、その言葉がどこか、さみしそうだ。
 やはり、以前のように構ってあげられないからなのだろうか。

 そう考えたのだが、私は大きく息を吐いて、リラックスした瞬間──。

「センドラー様!!」

 私の胸に、飛びついてくる。

 そのまま、胸に顔を押し付けてきた。パフパフというやつだ。このエロ女め……。
 いつも以上にベタベタしてくるライナに、思わず引いてしまう。

「今日は、自分となついてるわね……」

「はい。最近、センドラー様と一緒にいられなくって──寂しくって」

 そう言うライナの瞳が、涙でうっすらと潤んでいるのがわかる。

「最近、仕事で忙しくて、あんまりかまってあげられなかったわね……」

 抱きついてきたライナの頭を優しくなでながら、しみじみと思う。

 最近、久しぶりに見た街のことにかかりりっきりで、ライナのことがおざなりになってしまっていた。
 ライナだって、私のためにいろいろしてきてくれたんだ。
 たまにはお礼くらいは、した方がいいかな……。

 よし、今日は──こうしよう。
 大きく息を吐いて、覚悟を決める。

(ちょっとだけよ。あまり勘違いさせないようにね……)

 センドラーのけん制も、いつもより甘め。まあ、部下のモチベーションを高めるのだって仕事のうち。それを、理解しているのだろう。

「ライナ」

「な、なんでしょうか──」

 ライナは、はっとして私の方を向く。

「しょうがないな。その……してあげるよ──。お、お礼の……キス」

 その言葉に、ライナは顔を真っ赤にして、表情を失ってしまった。

「セ、センドラー……様」

(ちょっと、冗談じゃないわ撤回して! 外見はかわいいけど、猛獣よこいつ!)

 センドラーが眉間に皺を寄せて、私の行動を止めようと必死になる。

(だ、大丈夫だって。一線は越えないから──。部下のため部下のため!)

 明らかにぴりぴりとしているセンドラーを、苦笑いをしてなだめる。
 センドラーは額を抑えて、大きくため息をついた。

(……分かったわ)

 何とか納得してくれた。
 そして、キスの時間となる。ライナと向き合って肩を、優しくつかむ。

「じゃあ、行くよ──」

「……はい」
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