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第2話 底辺の理由
しおりを挟むこんなダンジョンの中で考えていても何も出来ない。スマホを操作して、体が光るとこの場から俺の身体が消えていった。
「ただいまー」
夕方、自分の部屋に戻ってスマホを開ける。
木造で一戸建て、ところどころゴミやカバンなどが散らかっているベッドに身を投げた。
そして、スマホをポチポチ。
色々手詰まりになっちゃったな。本当にやめちまおうか。そんなことを考えていると、ガチャリと鍵が開いて誰かが家に入ってきた。両親はまだ仕事のはず、あいつしかない。
階段を上がってくる音、足音は俺の部屋の前で止まりコンコンとノックしてきた。
「入れよ」
「ふぅ──」
クリーム色のセミロングのストレートヘアー。ちょっと吊り上がった目。
幼馴染の、加奈だ。子供のころからよく遊んでいて、両親もそれを理解しているのか合鍵を持っていてたまにこうして勝手に入ってきているのだ。
そして、左手に持っているスマホを見るなり両手を腰に当てジト目で言った。
「また配信やってんの? 視聴者いるの?」
「もうやめるよ、俺トークとか下手だし」
ふてくされ気味に言うと、加奈は両手を腰に当てどこか不満そうな表情になる。
「澄人の場合、それもそうだけど根本的に改善点があるわ」
「具体的には?」
加奈は大きく息を吐くとポケットからスマホを取り出し、何やら操作を始めた。そしてくるりと画面を回転させてこっちに向けてくる。
ダンジョン配信やってみた
「まずこのタイトル、やる気なさすぎ。一昔前のニカニカ動画じゃないんだから」
うっ。
ストレートなツッコミに、思わず後ずさりする。後ずさりした分、加奈はこっちに寄ってきて大きくため息をついた。
「まずタイトルからどんな動画かわかるようにしないと。ネタ動画ならネタ動画。強いやつを刈るなら強モンスター狩りってちゃんと書かないと──私ならこれみたいに」
そして、スマホを操作して加奈ろこのちゃんねる画面を見せてきた。
【何やこの厨パァ!】加奈ちゃんとろこちゃんは低級武器縛りでAランクパーティーやSランク魔物狩りをするようです
【何やこの厨パァ!】ネタ武器縛りでAランク狩りヤァ!!
そう、加奈はろこという女の子と2人で厨パ狩りや厨モンスター狩りをしている。
それもどこにでもあるような低級の武器やとても実践で使えないような「ネタ武器」を使って最下層の魔物や上級ランクの配信者を倒すというのが特徴。
実力もさることながら、ろこの元気いっぱいな関西弁キャラと冷静な加奈のツッコミが好評でトップクラスとは言わないまでも中堅上位の人気はある。
「なんやこの厨パァ!! だっけ?」
「キャッチフレーズよ。そういう覚えやすいフレーズを使って、私たちの事を覚えてもらってるの」
「よく考えてるなぁ」
まあ、俺はずっと強い敵相手に生き残ることだけを考えて戦ってきた。そういう、視聴者に対する配慮が足りなかったってことか。加奈は、子供のころから一緒にいた幼馴染。だからおせっかいで周囲への配慮が上手たというのは知ってる。
こういう視聴者への配慮というのもとても上手なのだろう。
「あんた、学校でも誰ともしゃべらずに1人でいたでしょ?」
「そ、そうだけど」
「以前見させてもらったけど、もうちょっと聞いてて楽しい話とかできないときついわよ」
「わかったよ」
しぶしぶと頭を下げる。何を言い返したところで、現実として視聴者0の俺が何を言ったところで言い訳にしかならないだろう。とはいえ、以前加奈のちゃんねるを見たがこれはろこちゃんの明るいキャラあってもの。俺にそんなことはできないし……何か俺の強みを生かした動画を作れってことか。
「じゃあ、ろこと厨パ狩りに行ってくるわね」
「わかった。頑張ってね」
加奈はこっちに向かって手を振ると、ポチポチとスマホを操作して体が白く光って体が消えてしまった。ダンジョンに行ったのだろう。
再びベッドに身を投げたし、身体を大の字にして屋上を見つめる。
俺にトークスキル、周囲を楽しませる配慮。
無理ゲーそう。やっぱ配信者なんて無理なのかな……。
ピロリンとスマホが生る。寝そべったままスマホに目を向ける。
「何々、新ダンジョン?」
SNS「Y」でバズっているワード。
先週出来た新ダンジョンに関しての情報だ。そこで、ダンジョンマスターの画像─
─PV,
とりあえず、URLを開いてダンジョンの宣伝PVを見てダンジョンの説明へ。
このツッコミだらけのPV。そして、ダンジョンの制作者の顔を見て──思わず立ち上がった。
「魔王ネフィリム??」
褐色の肌、紫のロングヘアー。肩やわし掴みできるくらいの大きな胸元を露出した独特の服装。
間違いない──異世界で世界を掛けて戦った相手、死闘を繰り広げ──互いに全力を出し尽くし何とかギリギリで勝利した相手。
何でここにいるんだ。まったく意図がわからない。確かに、あいつとの戦い。勝利するところまではいったが仲間によってその身はどこかに連れ去られてしまった。
俺も俺の仲間たちもギリギリの戦いをしていて追撃する余裕はなく、その後消息は分からず魔王軍は現れなかったので戦いは終わったと認識していたが。
どうすればいい……突然の事態。
とにかく、行くしかない。俺はネフィリムのことはよく知っているからわかる。あいつを俺が倒さないと、配信者たちの命が危ない。
俺は慌てて身を起こし、スマホのアプリを開いてダンジョンへと向かった。
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