オーパーツ鑑定士の成り上がり 追放された最弱鑑定士、実は最強の魔力を持つ『超古代魔法』の鑑定士だった

静内燕

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43話 今度は、エミリと

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 クエストから数日後の午後、街は秋の陽光に輝き、活気に満ちていた。
 石畳の通りには馬車の車輪が軽やかなリズムを刻み、市場の呼び声が果物の甘酸っぱい香りと混じり合う。
 子供たちが風車を手に走り回り、冒険者たちが酒樽を叩いて笑い合っている。俺は噴水公園の白い大理石のベンチに座り、灰色のチュニックに身を包んでいた。
 リーダーとして冷静を装うのは慣れているが、今日の待ち合わせには胸が締め付けられるような緊張が走る。

 一緒に冒険者パーティーで戦い仲間の一人。
 エミリとのデート――パーティーの絆を深めるためだ。
 そう自分に言い聞かせるが、女慣れしていない俺には未知の試練だ。
 以前はエルムと一緒にデートしたけど、やっぱり二人っきりでデートなんてドキドキだよな。女の子が喜ぶように場所を設定したり、話を振ったり。ある意味どんなダンジョン散策より気を遣う。
 おまけに、今度はお姉さんの振る舞いが出来るエルムではなく、エミリ。しっかり気に入ってもらえるかなぁ。


 手が汗ばむのを感じ、袖で拭う。ダンジョンの罠は予測できるが、女の子と二人きりで街を歩くなんて、不安だ。

「マスター! お待たせっす!」

 弾けるような声が噴水の水音を切り裂く。僕は顔を上げ、息を呑んだ。エミリが広場の向こうから軽やかに駆けてくる。
 彼女の服装はダンジョンでの軽装とは別次元だ。白いブラウスは肩に繊細なレースが施され、風に揺れる革のショートスカートが動きを軽快に見せる。
 腰の小さなポーチには星形の金具がキラリと光り、毛耳を飾る赤いリボンが愛らしい。猫のような毛耳がピクピク動き、琥珀色の大きな瞳が陽光にキラキラ輝く。

「どうっすか、今日のうち、めっちゃ可愛いっすよね?」

 エミリがニッと笑い、くるりと回ってスカートを翻す。僕の喉が詰まり、言葉がもつれる。「あ、う…その、めっちゃ…か、可愛い、よ。」

 たどたどしくて、顔が熱くなる。視線を逸らすと、エミリは毛耳を揺らし笑う。

「マジっすか!? マスター、照れてるのバレバレっす! でも、嬉しいっす」


 女の子を褒めるのは難しい。けど喜んでくれてよかった。

「ほ、ほら、行くぞ。街、歩こう」

 誤魔化すように立ち上がり、噴水公園を後にする。中央の噴水は虹色の水しぶきを上げ、屋台の焼き菓子や果実の香りが漂う。

「パフェ! パフェ食べたいっす!」

 エミリが目を輝かせるので、苺とホイップクリームが山盛りのパフェを二つ買った。スプーンを手に、僕たちは石畳を歩き始める。エミリはパフェを頬張り、クリームが唇の端に白く残る。

「んー! 甘くて冷たくて、めっちゃ美味いっす! 最高っす!」

 エミリの無邪気な笑顔に、僕の心臓が少し速く打つ。通りには露店が軒を連ね、色とりどりの布や魔法のランタンが陽光に輝く。冒険者の笑い声、行商人の呼び声、馬のいななきが織り交ざり、街はまるで生き物のように脈動していた。

「クエスト、めっちゃヤバかったっすよね!」
 エミリがパフェをスプーンでつつきながら言う。

「あの精霊の少女、トリナって女の子でしたよね。めっちゃ綺麗だったっす! でも、試練勝ってよかったっす。マスターもバッチリ活躍してたっすよ!」

 エミリの「っす」が街の喧騒に弾ける。俺は歩きながらパフェを一口食べ、答えた。

「ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ。でもエミリだって、ずっとグラムと戦っててすごかったよ」

 褒めようとしたが、言葉がぎこちない。エミリは毛耳をピンと立て笑う。

「マジっすか!? マスターに褒められたっす! うち、もっと頑張るっす!」
「あの、仮にも勇者だったグラムと渡り合えたんだから本当にすごいよ。れミリは、もっと自信もって」
「分かったっす。うち、もっと頑張るっす」

 クエストの緊張を思い出しながら、俺たちの足取りは軽くなる。

 路地裏に差し掛かると、ひっそりとした雑貨屋が目に入った。木の看板には星形の装飾が施され、窓には色とりどりのアクセサリーが並ぶ。

「うわ、かわいいっす!」

 エミリが飛び込む。店内はハーブと革の香りが漂い、星形のペンダント、鈴付きの首輪、ビーズのブレスレットが木の棚に並ぶ。エミリは星形のシルバーペンダントを手に取り、首に当てて鏡を見る。

「これ、聖堂のオーパーツっぽいっす! どうっすか、マスター?」

 彼女の毛耳がピクピク動き、期待の目が僕を射る。

「その……エミリの、毛耳に……めっちゃ合う。か、可愛い……と思うよ」

 言葉が詰まり、顔が熱くなる。エミリはニヤリと笑った。

「マスター、めっちゃたどたどしいっす! でも、嬉しいっす!」

 次に、赤いビーズのブレスレットを手に取り、目を輝かせる。
「これ、アンネさんっぽいっすよね!」
「だね、これはエミリに似合ってるんじゃないか?」
 猫の尾を模した小さなキーホルダーを手に笑う。

「確かにこれ、うちっぽいっす!」

 結局、ペンダント、ブレスレット、キーホルダーを買い、店を出る。エミリの弾む足取りに、僕もつい笑ってしまう。繁華街に戻ると、通りはさらに賑やか。武器屋の鍛冶音が響き、魔法具店の看板が青白く光る。服飾店のウィンドウには絢爛なドレスが並び、香水屋からは花の香りが漂う。

 エミリは興奮し、僕を引っ張る。
「このランタン、聖堂の光みたいっす!」

 彼女の無邪気さに、女慣れしていない俺でも楽しさが伝わってくる。だが、一軒の怪しげな店で空気が変わった。派手な看板に「秘薬と魅惑の品」と書かれ、怪しげな男が飛び出してきた。

「お若いの! 愛の秘薬はいかがだ? この香水、女性を虜にするぞ!」

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