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第12話 ウィンの気持ち
しおりを挟むウィン視点。
ふぁ~~あ。
ガルド様がいない日々。
家事と買い物をして、食事を作って、それだけの日々。心の中にぽっかりと穴が開いたような気持ちになる。
日の出とともに、私はご主人様のベッドから這い上がり、起きる。
朝は、あまり得意ではない。大きくあくびをして、台所へ。
ガルド様は、遠征に出かけていない。
私はまだお金を稼げない存在。こんな私でもご主人様は私に優しく、大切に接してくれた。
少しでも恩返しをしなきゃ──。
引き出しを開けて、エプロンをセット。
後ろの紐を絞って、装着。
今は寒いから、お湯を沸かす。
市場で安く買ったパンと、暖かい紅茶の簡単な朝食。
……さみしい。
今までずっと1人だったはず。それが、ガルド様が私を拾ってくれて。暖かい家を食事をもらった。
けれど、いきなり一人になって、さみしさを感じてしまう。
食べ終えた後、食器を洗ってから家の掃除。いつガルド様が帰ってきてもいいように、隅々まできれいに……。
時間をかけて丹念に掃除と洗濯をした後、少しだけ休憩して街へ買い物。
買い物も、故郷や元パーティーで得た知識をフル活用。
出店の果物屋さん。
「葉っぱ? 使ってないけど──欲しいのかい?」
「はい。いくらでしょうか」
オレンジに似た果物。
市場のおばさんは果実にしか興味が無くて、葉っぱは捨ててるって聞いたけど、香りをつけるにはもってこいの葉っぱ。
葉元を水につけておけば長持ちするし、食用にはできなくても、香りを付けたりするのに使える。
少しでも香りを出して──。味をおいしくして、ガルド様を喜ばせたい。
その一心で、聞いてみた。
「いいよ。どうせゴミになるだけだし、銅貨2枚でどうだい?」
「ありがとうございます」
両手でギリギリ持てるくらいの量を、安く売ってもらった。良かった。
その後、簡単に昼食を食べ終わり、干していた洗濯物を入れると、やることがなくなってしまった。
疲れもたまったので、夕方まで昼寝。
そして日が傾いてくると、起き上がって夕飯を作る。
傾いた陽光が私の体を照らす。
包丁でキャベツを切っていると、思い出してしまう。
今までの、私のことを──。
ご主人様と出会う前の私にとって、男の人に助けられることは、嬉しいことでもなんでもなかった。
「ウィンちゃんか、かわいいね──」
そう言いながら、私の胸に視線を向けてから、舐め回す様に全身を見る。
ニヤリと欲望をむき出しにした、気味の悪い笑み。
みんなそう。私の立場が低いことに付け込んで、自分の性欲を満たそうとする人ばかりだった。
そこに私の感情や意思というものは存在しない。
あるのは、どす黒くさえ感じる、相手の人の欲望。
「えーーいいじゃん。やろうよやろうよ」
待って、出会ってばかりなのに……。
「え……でも」
「いいじゃんいいじゃん」
私が慌てて距離を取った分だけ男は顔を近づけてくる。
男はニタニタとした気味が悪い笑みを浮かべ、さらに迫ってきた。
「胸おっきい。ちょっとくらい触らせてよ」
「や、やめて下さい」
「ダメなら、部屋から追い出すし、パーティーにも置いてけないなぁ。大丈夫。本番まではしないから」
そう言われると、私は返す言葉がない。どれだけ理不尽で、嫌悪感を催す要求でも、受け入れるしかないのだ。
「わ、わかりました」
いくら拒絶しようとしても、無駄だった。パーティーにはおいてけない。
その言葉一つで、私は何も返せなくなってしまう。
パーティーでお金を稼げなければ、私はブローカーに上納するお金を稼げない。弟へのお金も得らえない。
仕方がないんだ……。
「じゃ、じゃあ行くよ」
男は鼻息を荒げて私に密着。
性欲のままにご主人様は私の体をまさぐる。
胸を鷲掴みにし、揉みしだく。お尻や太ももを何度もいやらしい手つきで触れる。
や、やめて……。
全身から怖気が走り、思考がストップする。
胃の中にある物が逆流しそうになるのを懸命にこらえて、ご主人様の手つきに耐える。
「柔らかい──。すげぇ……、気持ちいい……」
男の人のごつい手で、私の柔らかくて大きい胸を揉みしだく。ぷるんぷるんと胸が揺れる。
男の人の、はぁはぁとしたと息が当たる。
それから、口づけ。一方的に相手が私の唇に口をつける。大きな乳房を必要に揉みしだきながら。
1回胸をもまれるたびに、私の中の大事なものが、抜けていってる気がする。
私は感情を無にして、何も考えない。それが、一番私の精神をまともに保てる唯一の方法だからだ。
全てが、自分の欲望を満たすためのもの。
相手の都合で始まって、相手の都合で終わる。立場のあるものが、無いものに屈服せざるを得ないという、獣のような存在。
私の感情など、全く存在しない。
感情を押し殺し、頭を空っぽにすることで何とか耐えていた。
日常生活でも、意図的にそのことは思い出さないようにしておいた。
思い出したら間違いなく、正気を保っていられなくなるから──。
今のご主人様はそんなことをしない。
初対面だった私に、住処を提供してくれて、食べ物まで分け与えてくれて、体を要求したりしない。
優しくて、思いやりがある人。
今まで、こんなことなかった。けれど、それがいつまで続くかわからない。
お世話をしてくれたことを盾にして、また体を要求してくることだってありえる。
また、私は性欲のはけ口にされるのかな……。
どのみち、私に拒否権なんてない。
そう考えるだけで、体中から怖気が走り、震える。吐き気が止まらない。
ぎゅっと両腕を抱きかかえ、恐怖から逃れようとする。
大丈夫、今のご主人様はこんなことしない。私のことを、一人の人間と扱ってくれている。
けれど、それがいつまで続くのだろうか。
ある日、突然今までのようにいやらしい要求をしてくることだってあり得る。
ガルド様なら大丈夫だと思うけれど、今までのトラウマのせいで、私の脳裏にそんな言葉がよぎってしまう。
思わず、キャベツを切っている手が止まり──考え込んでしまった。
ずっと一人でいて、暇な時間が続いているから、ついつい考えこんでしまうのだ。
何もせずに過ごすというのも、考え物だ。夕方みたいな時間だと、ネガティブな事を考えこんでしまう。
私だって、役に立ちたい。守られるばかりじゃなくて……。
こんな時間が、いつまで続くのかな……。
早く、帰ってきて……。
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