55 / 150
2章
第54話 強敵との戦い。そして、怒り
しおりを挟む
そして。パウルスに近づこうとした瞬間、誰かが間に割ってきた。
「先輩、お願いします。やめて下さい。見たくないです、先輩が処罰されるのだけは──」
ニナだった。ニナが俺の肩を抑えて、俺を止めようとしている。
うるうると目が涙で滲んでいる、悲しそうな表情。
ニナの言葉に、俺ははっとする。そして、ニナの方に振り向くと。
「先輩──お願いします」
ニナは、とても悲しそうな表情をしていた。
そして俺は、平常心に戻る。
確かにそうだ。こいつに暴力をふるった所で、死んだ奴は帰ってこない。
俺にも何らかの処置が下るだろう。ニナやビッツ、エリア。そしてウィンとも、一緒にいられなくなってしまうかもしれない。
ダメだ──。抑えないと
大きく息を吐いて、心を落ち着けさせる。
俺は、パウルスに近づくのをやめた。
そして、今度はエリアがパウルスに話しかける。
「あんた。不手際のせいで人が死んだのよ。わかってるの?」
明らかに怒りの感情が混じっている。当然だ、死人が出ているのだから──。
しかし、パウルスの表情に反省の文字はない。
「こっちこそ、死人が出たせいで俺様の評価がガタ落ちになったじゃねぇか!
相変わらず開き直るパウルス。
流石に俺もイラっと来た。
「いい加減にしろ。人が死んだというのに、お前自分のことしか話してねぇじゃねぇか! はっきりといわせてもらう。お前──人の上に立っていい器じゃない」
「言わせておけば、いい加減にしろお前! 大体お前たちが無能だからこんなざまになったんだろ。それをこっちに責任転換しやがって、政府に言いつけてギルド出禁にしてやろうか! お前ら全員無能なんだよ!」
「何もしてないやつが、偉そうに言うなよ!」
その言葉に俺の怒りが爆発した。
俺のことを言われるだけなら、感情を爆発させるなんてしなかった。
しかし、仲間は別だ。みんな、完ぺきではないかもしれない。
それでも、自分たちの力を出して、時には命を懸けて体を張って戦っているからだ。
こいつは違う。親の七光りで出世をして、今の地位で甘い汁を吸っている。
実際に戦っている人々の苦労も知らず、うまくいかないのは周囲にせいだと騒ぎ立て、罵倒を重ねる。そんな奴に、命を懸けて戦っている人たちを罵倒する権利なんてどこにもないはずだ。
「お前は一線を越えた。この場で、命を懸けて戦っている冒険者に頭を下げて謝罪しろ!」
「ざけんなよ。だったらやめりゃあいいだろ。お前らみたいなバカの代わりなんて、いくらでもいるんだよ!」
俺もパウルスも互いにののしり合い一触即発の状態。
そんな中で、護衛の兵士の人が話に入ってくる。
「パウルス様。おやめください。ガルド様やエリア様はかつての国家魔術師。政府内の人にも、それなりに顔が聞きます」
さらに、ビッツも間に入って話し始める。
「それだけではありません。まだ戦いは終わっていません。街に帰るまでがクエストです。こっちが敵を倒したと安心したところに奇襲を仕掛けるというケースもあります。ここはお引き下さい。ガルドも、言い過ぎだ。そろそろ矛を収めろ」
ビッツの言葉に、パウルスは何とか怒りを収めた。
「わーかったよ。やめればいいんだろやめれば」
そして不機嫌なまま護衛の兵士の元へと足を運んでいく。
何とかこの場が収まった。
──様々なわだかまりを抱えながら。
俺の肩をビッツが掴む。
「まだ敵の残党がいるかもしれない。油断せずに、警戒をしながら入口に戻るぞ!」
「は、はい……」
ビッツの声掛けに、周囲の冒険者達は動揺しながらも、指示に従い始めた。
周囲に警戒を配りながら、元来た道を帰り始めた。
「ガルド、帰るぞ──」
ビッツが肩をたたきながら言う。
怒りが収まった俺は、ゆっくりとビッツやニナ、エリアと一緒に帰り道を行き始める。
「冒険者だから、仕方がないとはいえ──やっぱり複雑ですよね。死ぬっていうのは……」
ニナが、複雑そうな表情で話しかけてくる。手は震えていて、確実に動揺している。
「何度か見ましたよ。人が死ぬっていうのは。でも、やっぱり慣れないです。目を背けてしまいます。先輩」
「私だってそうだよ。みんなそう。いつだって、ショックを受けたり、後悔したりしてるわ」
エリアがニナの隣に立って言葉を返す。経験のある、エリアでさえそうなのだ。
誰だって、そうなのだろう。
確かに、冒険者という職業柄仲間が魔物に食い殺されたり戦死したりという状況を俺はいくつも見てきた。
もちろんどんな理由であれこっちは魔物を殺そうとしているのだから、魔物にだってこっちを殺す権利というものがある。
それでも、冒険者が殺される瞬間というのは、いまだに慣れないし精神的につらいものがある。
「まあ、こういうこともある。これから、もっと強くなって、犠牲者を出さないくらい強く、賢くなる。それが、死んでいった人たちに報いる方法だと、俺は思う」
「ありがとな、ビッツ」
ビッツが気の利いた事を言ってくれて、この場の雰囲気が落ち着く。
「でも、私達──このままじゃまずいよね」
「──はい」
ニナとエリアが心配そうにつぶやく。
確かにそうだ。無能な素人指揮官。バラバラな冒険者達。
このままではまずいって言うのが、理解できる。
なんとかしないと──。
心の中でそっとつぶやく。
俺一人でできることは、そこまで多くない。限られている。
でも、後輩たちのために、この国のためにできる限りのことをしていこう──。
そう強く心に感じた、一日だった。
「先輩、お願いします。やめて下さい。見たくないです、先輩が処罰されるのだけは──」
ニナだった。ニナが俺の肩を抑えて、俺を止めようとしている。
うるうると目が涙で滲んでいる、悲しそうな表情。
ニナの言葉に、俺ははっとする。そして、ニナの方に振り向くと。
「先輩──お願いします」
ニナは、とても悲しそうな表情をしていた。
そして俺は、平常心に戻る。
確かにそうだ。こいつに暴力をふるった所で、死んだ奴は帰ってこない。
俺にも何らかの処置が下るだろう。ニナやビッツ、エリア。そしてウィンとも、一緒にいられなくなってしまうかもしれない。
ダメだ──。抑えないと
大きく息を吐いて、心を落ち着けさせる。
俺は、パウルスに近づくのをやめた。
そして、今度はエリアがパウルスに話しかける。
「あんた。不手際のせいで人が死んだのよ。わかってるの?」
明らかに怒りの感情が混じっている。当然だ、死人が出ているのだから──。
しかし、パウルスの表情に反省の文字はない。
「こっちこそ、死人が出たせいで俺様の評価がガタ落ちになったじゃねぇか!
相変わらず開き直るパウルス。
流石に俺もイラっと来た。
「いい加減にしろ。人が死んだというのに、お前自分のことしか話してねぇじゃねぇか! はっきりといわせてもらう。お前──人の上に立っていい器じゃない」
「言わせておけば、いい加減にしろお前! 大体お前たちが無能だからこんなざまになったんだろ。それをこっちに責任転換しやがって、政府に言いつけてギルド出禁にしてやろうか! お前ら全員無能なんだよ!」
「何もしてないやつが、偉そうに言うなよ!」
その言葉に俺の怒りが爆発した。
俺のことを言われるだけなら、感情を爆発させるなんてしなかった。
しかし、仲間は別だ。みんな、完ぺきではないかもしれない。
それでも、自分たちの力を出して、時には命を懸けて体を張って戦っているからだ。
こいつは違う。親の七光りで出世をして、今の地位で甘い汁を吸っている。
実際に戦っている人々の苦労も知らず、うまくいかないのは周囲にせいだと騒ぎ立て、罵倒を重ねる。そんな奴に、命を懸けて戦っている人たちを罵倒する権利なんてどこにもないはずだ。
「お前は一線を越えた。この場で、命を懸けて戦っている冒険者に頭を下げて謝罪しろ!」
「ざけんなよ。だったらやめりゃあいいだろ。お前らみたいなバカの代わりなんて、いくらでもいるんだよ!」
俺もパウルスも互いにののしり合い一触即発の状態。
そんな中で、護衛の兵士の人が話に入ってくる。
「パウルス様。おやめください。ガルド様やエリア様はかつての国家魔術師。政府内の人にも、それなりに顔が聞きます」
さらに、ビッツも間に入って話し始める。
「それだけではありません。まだ戦いは終わっていません。街に帰るまでがクエストです。こっちが敵を倒したと安心したところに奇襲を仕掛けるというケースもあります。ここはお引き下さい。ガルドも、言い過ぎだ。そろそろ矛を収めろ」
ビッツの言葉に、パウルスは何とか怒りを収めた。
「わーかったよ。やめればいいんだろやめれば」
そして不機嫌なまま護衛の兵士の元へと足を運んでいく。
何とかこの場が収まった。
──様々なわだかまりを抱えながら。
俺の肩をビッツが掴む。
「まだ敵の残党がいるかもしれない。油断せずに、警戒をしながら入口に戻るぞ!」
「は、はい……」
ビッツの声掛けに、周囲の冒険者達は動揺しながらも、指示に従い始めた。
周囲に警戒を配りながら、元来た道を帰り始めた。
「ガルド、帰るぞ──」
ビッツが肩をたたきながら言う。
怒りが収まった俺は、ゆっくりとビッツやニナ、エリアと一緒に帰り道を行き始める。
「冒険者だから、仕方がないとはいえ──やっぱり複雑ですよね。死ぬっていうのは……」
ニナが、複雑そうな表情で話しかけてくる。手は震えていて、確実に動揺している。
「何度か見ましたよ。人が死ぬっていうのは。でも、やっぱり慣れないです。目を背けてしまいます。先輩」
「私だってそうだよ。みんなそう。いつだって、ショックを受けたり、後悔したりしてるわ」
エリアがニナの隣に立って言葉を返す。経験のある、エリアでさえそうなのだ。
誰だって、そうなのだろう。
確かに、冒険者という職業柄仲間が魔物に食い殺されたり戦死したりという状況を俺はいくつも見てきた。
もちろんどんな理由であれこっちは魔物を殺そうとしているのだから、魔物にだってこっちを殺す権利というものがある。
それでも、冒険者が殺される瞬間というのは、いまだに慣れないし精神的につらいものがある。
「まあ、こういうこともある。これから、もっと強くなって、犠牲者を出さないくらい強く、賢くなる。それが、死んでいった人たちに報いる方法だと、俺は思う」
「ありがとな、ビッツ」
ビッツが気の利いた事を言ってくれて、この場の雰囲気が落ち着く。
「でも、私達──このままじゃまずいよね」
「──はい」
ニナとエリアが心配そうにつぶやく。
確かにそうだ。無能な素人指揮官。バラバラな冒険者達。
このままではまずいって言うのが、理解できる。
なんとかしないと──。
心の中でそっとつぶやく。
俺一人でできることは、そこまで多くない。限られている。
でも、後輩たちのために、この国のためにできる限りのことをしていこう──。
そう強く心に感じた、一日だった。
0
あなたにおすすめの小説
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2025.11.25)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる