国家魔術師をリストラされた俺。かわいい少女と共同生活をする事になった件。寝るとき、毎日抱きついてくるわけだが 

静内燕

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2章

第54話 強敵との戦い。そして、怒り

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 そして。パウルスに近づこうとした瞬間、誰かが間に割ってきた。

「先輩、お願いします。やめて下さい。見たくないです、先輩が処罰されるのだけは──」

 ニナだった。ニナが俺の肩を抑えて、俺を止めようとしている。

 うるうると目が涙で滲んでいる、悲しそうな表情。
 ニナの言葉に、俺ははっとする。そして、ニナの方に振り向くと。

「先輩──お願いします」

 ニナは、とても悲しそうな表情をしていた。

 そして俺は、平常心に戻る。

 確かにそうだ。こいつに暴力をふるった所で、死んだ奴は帰ってこない。

 俺にも何らかの処置が下るだろう。ニナやビッツ、エリア。そしてウィンとも、一緒にいられなくなってしまうかもしれない。

 ダメだ──。抑えないと
 大きく息を吐いて、心を落ち着けさせる。

 俺は、パウルスに近づくのをやめた。

 そして、今度はエリアがパウルスに話しかける。

「あんた。不手際のせいで人が死んだのよ。わかってるの?」

 明らかに怒りの感情が混じっている。当然だ、死人が出ているのだから──。
 しかし、パウルスの表情に反省の文字はない。

「こっちこそ、死人が出たせいで俺様の評価がガタ落ちになったじゃねぇか!

 相変わらず開き直るパウルス。
 流石に俺もイラっと来た。

「いい加減にしろ。人が死んだというのに、お前自分のことしか話してねぇじゃねぇか! はっきりといわせてもらう。お前──人の上に立っていい器じゃない」

「言わせておけば、いい加減にしろお前! 大体お前たちが無能だからこんなざまになったんだろ。それをこっちに責任転換しやがって、政府に言いつけてギルド出禁にしてやろうか! お前ら全員無能なんだよ!」

「何もしてないやつが、偉そうに言うなよ!」

 その言葉に俺の怒りが爆発した。

 俺のことを言われるだけなら、感情を爆発させるなんてしなかった。
 しかし、仲間は別だ。みんな、完ぺきではないかもしれない。
 それでも、自分たちの力を出して、時には命を懸けて体を張って戦っているからだ。

 こいつは違う。親の七光りで出世をして、今の地位で甘い汁を吸っている。
 実際に戦っている人々の苦労も知らず、うまくいかないのは周囲にせいだと騒ぎ立て、罵倒を重ねる。そんな奴に、命を懸けて戦っている人たちを罵倒する権利なんてどこにもないはずだ。

「お前は一線を越えた。この場で、命を懸けて戦っている冒険者に頭を下げて謝罪しろ!」

「ざけんなよ。だったらやめりゃあいいだろ。お前らみたいなバカの代わりなんて、いくらでもいるんだよ!」

 俺もパウルスも互いにののしり合い一触即発の状態。
 そんな中で、護衛の兵士の人が話に入ってくる。

「パウルス様。おやめください。ガルド様やエリア様はかつての国家魔術師。政府内の人にも、それなりに顔が聞きます」

 さらに、ビッツも間に入って話し始める。

「それだけではありません。まだ戦いは終わっていません。街に帰るまでがクエストです。こっちが敵を倒したと安心したところに奇襲を仕掛けるというケースもあります。ここはお引き下さい。ガルドも、言い過ぎだ。そろそろ矛を収めろ」

 ビッツの言葉に、パウルスは何とか怒りを収めた。

「わーかったよ。やめればいいんだろやめれば」

 そして不機嫌なまま護衛の兵士の元へと足を運んでいく。

 何とかこの場が収まった。
 ──様々なわだかまりを抱えながら。

 俺の肩をビッツが掴む。

「まだ敵の残党がいるかもしれない。油断せずに、警戒をしながら入口に戻るぞ!」

「は、はい……」

 ビッツの声掛けに、周囲の冒険者達は動揺しながらも、指示に従い始めた。
 周囲に警戒を配りながら、元来た道を帰り始めた。

「ガルド、帰るぞ──」

 ビッツが肩をたたきながら言う。
 怒りが収まった俺は、ゆっくりとビッツやニナ、エリアと一緒に帰り道を行き始める。

「冒険者だから、仕方がないとはいえ──やっぱり複雑ですよね。死ぬっていうのは……」

 ニナが、複雑そうな表情で話しかけてくる。手は震えていて、確実に動揺している。

「何度か見ましたよ。人が死ぬっていうのは。でも、やっぱり慣れないです。目を背けてしまいます。先輩」

「私だってそうだよ。みんなそう。いつだって、ショックを受けたり、後悔したりしてるわ」

 エリアがニナの隣に立って言葉を返す。経験のある、エリアでさえそうなのだ。
 誰だって、そうなのだろう。

 確かに、冒険者という職業柄仲間が魔物に食い殺されたり戦死したりという状況を俺はいくつも見てきた。

 もちろんどんな理由であれこっちは魔物を殺そうとしているのだから、魔物にだってこっちを殺す権利というものがある。

 それでも、冒険者が殺される瞬間というのは、いまだに慣れないし精神的につらいものがある。

「まあ、こういうこともある。これから、もっと強くなって、犠牲者を出さないくらい強く、賢くなる。それが、死んでいった人たちに報いる方法だと、俺は思う」

「ありがとな、ビッツ」

 ビッツが気の利いた事を言ってくれて、この場の雰囲気が落ち着く。

「でも、私達──このままじゃまずいよね」

「──はい」

 ニナとエリアが心配そうにつぶやく。

 確かにそうだ。無能な素人指揮官。バラバラな冒険者達。
 このままではまずいって言うのが、理解できる。

 なんとかしないと──。

 心の中でそっとつぶやく。

 俺一人でできることは、そこまで多くない。限られている。
 でも、後輩たちのために、この国のためにできる限りのことをしていこう──。
 そう強く心に感じた、一日だった。
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