国家魔術師をリストラされた俺。かわいい少女と共同生活をする事になった件。寝るとき、毎日抱きついてくるわけだが 

静内燕

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2章

第71話 待ち伏せ

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 日が暮れ始める夕方。店は夜もやってるけど、私のシフトが終わる。

「では、上がらせていただきますね」

「ウィン、お疲れ。今日は疲れたでしょ。後はゆっくり休んで」

「ウィンちゃん。お疲れさま」

 更衣室で着替えた後、帰り際に声をかけた。
 レーノさんとアンナさんが言葉を返して来る。

 今日はいろいろあったから、気を使ってくれた。私のことを、大切に想ってくれているというのがわかる。

 私のことを尊重してくれる、優しい職場。
 もっと、2人の期待に応えようと頑張ろうと思える。

「お疲れ様です」

 そして私は帰路に就く。

 夕方、夕日の陽光が私の背中を差す中、私は帰路に就く。
 今日の夕ご飯どうしようかな……。昨日は肉だったから今日はおさかなにしようかな──。

 そんな事を考えながら道を歩いていると。

 ガッ──。

 誰かが私の肩を掴む。突然のことでびっくりした私。何事かと恐る恐る後ろを振り返ると──。

「ようやく見つけたぞ。さあ、帰るぞ」

 そこにある光景に言葉を失ってしまう。
 恐怖のあまり、言葉をつっかえながら言葉を返す。

「えっ、え……なんでいるんですか? その。えーと、さっき店に押しかけた人ですよね」

「そうだ。さっきはあの女が邪魔をしたから引くしかなかった。だからあの後店に張り付いてお前が帰宅して一人になる時間を狙ったんだ」

「そ、そんな……」

 そう。目の前にいるのは店を付けていたサングラスをかけている黒いスーツの人。
 あまりの恐怖に、一歩引いて言葉を返す。

「誘拐。ですか?」

「違う。ウィン──お前は国へ帰ってもらう」

 その言葉に、恐怖に身体を震わせながら、1つの考えが浮かぶ。この人、まさか──。

「お父さんの、指金ですか?」

 その言葉に、男の人はしばし黙りこくる。そして、私をじっと見ながら言葉を返して来た。

「勘がいいな──。その通り、俺はお前の両親から命を受けてやって来た。お前を連れて来いとな──」

 私の祖国のタツワナ王国では、大金と引き換えに貴族たちの命令を遂行する闇の組織があると聞いた事がある。

 国際的な知識に精通し、どんな場所にいてもやってくると言われていた。
 まさか、私のところにやってくるとは──。

 そして、男の人が私に少しずつ近づいてくる。怖くて、私は一歩引いてしまう。

「本当なら、職場の人を説得して穏便に連れて帰るつもりだったが、それができなかったのなら仕方がない。お前たちが意固地になって、他人だなんていうから悪い」

「そ、そんな──」

「私とて手荒な真似はしたくない。さあ、帰るぞ」

 レーノさんも、アンナさんも、全く悪くない。あの時できることを、精一杯してくれた。
 でも、ここを離れるなんてしたくない。みんなから受けた恩。私は、全く返せていない。

 最後の望みは、ガルド様しかいない。

「待ってください」

「なんだ」

 恐怖に震える中、精一杯の勇気をもって言葉を返す。

「勝手に帰るわけにはいきません」

「何故だ? どうせお前みたいな子供。ろくな生活をしていないのだろう」

「一緒に、住んでいる人がいるんです。見捨てられた私を拾ってくれた人なんです」

 ガルド様に、最後の望みをかける。何とか粘ってガルド様に逢う。しかし男の顔つきが、厳しいものに変わった。

「男か?」

「はい」

「お前──男と住んでいるだと? そんな年齢で。不埒な男だ。見過ごせん」

「まって下さい、やましいことはしてません。本当に、大切にしてもらっているんです」

「ふざけるな、男が女を拾って、要求することなんて一つしかないだろうが!」

 男は声を荒げて反論。信じてくれない。

「本当です。ガルド様は、変な要求をしたりしません!」

 私は、男の人に負けないように強い口調で言葉を返す。
 確かに、私を欲望のはけ口として扱うような人はいた。

 だから、心配する気持ちはわかる。でも、ガルド様はそんな人じゃない。

 私を1人の人間として大切にしてくれる。私にとってかけがえのない人。
 断じて、お父様なんかとは違う。

 でも、どれだけ説明しても、分かってくれる気がしない。何も知らない人から見れば、そうなってしまうだろうから。
 説明しても駄目なら──あれしかない。

「じゃあ、実際にあって判断してください。家に、案内しますから」

 それ以外、策なんてなかった。ガルド様なら、事情を説明すれば何とかしてくれるはず。

「無理やり拉致しようとするなら、魔法を使います。大きく叫んで大事にします」

 本当は今は使えないけど。彼がそれを知っているかはわからない。ハッタリだ。


「わかった。私もここで活動している身でね。あまり叫ばれるのは、得策ではない。案内しろ。どうせ、ろくな奴じゃないだろうがな」

「わかりました」

 私は、コクリと頷いた。
 私を守ってくれるのは、やはりガルド様しかない。
 ガルド様──お願い、助けて──。

 そして私は家に帰った。足取りが、いつもより重くなるのを感じる。
 祖国に、帰されるかもしれないという事実が、重く胸にのしかかる。

「──ここです」

 ガチャリとドアを開ける。

「もうすぐ、帰ってくるはずです」

 そう言って、部屋の中でちょこんと座る。
 ガルド様と共に暮らすこの場所。そこに帰っただけで、心がほっとする。


 しばらくすると、ガルド様が帰ってきた。
 ガルド様が扉を開け、視線に入った瞬間、心の底から安堵する。つい抱きついてしまった。今まで恐怖でいっぱいだった感情が、安心感で満たされていく。
 本当に良かった。


 すぐにガルド様に、事のいきさつを説明。

 店で彼が訪れたところから、私を待ち伏せていたこと。そして、タツワナ王国から来たのだということを。
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