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2章
第78話 両親たちの、考え
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まずはウィン──。
「お兄さんたちは、私のことを本当によく理解していてくれました」
「まあね。ウィン、両親からいい扱いを受けていなかったからね」
「フレアさんの言う通りです。私が落ち込んでいるとき、両親から罵倒された時とかよくかばってくれたり、励ましてくれたりしていて──」
つまり、心から信頼できる兄弟たちということだ。良かった、俺以外にもウィンに頼れる人がいるとのことだ。
ただ、気になることがある。
「しかし、何で両親はウィンに対してそこまで厳しいんですか?」
その言葉に、マリーが答える。
「ウィンだけではないです。両親は、私たち全員に対して、厳しい態度をとっていました」
「あなた達も、厳しく育てられたのですか?」
「はい」
ロックが頭をポリポリとかいてコクリとうなづいた。
そして、彼が両親について話し始める。
両親の価値観は。この家の存続のためならどんなこともするといった人たちだった。
それこそ、悪事を働いたり子供たちに厳しい態度をとったり──。
その中でも頭が良かったロックとフレアはタツワナ王国を支え、この家を継ぐ存在として、英才教育を受けてきた。
「本当に、厳しい両親でした」
フレアの言葉通り、子供のころから毎日のように勉強に他の貴族や王族の人とのコネづくりのため面会。
特にマナーに関する教育はかなり苛烈で少し間違っただけで何度も暴力を受けていたりしたそうだ──。
マリーさんは自分の意思など関係なく家のために王族へ嫁ぎに行ったのだとか。
王族とのつながりを強化して、自分たちの勢力を高めることが目的だとか。
こういった貴族では、よくあることだ。
「俺達の意思なんて、全くなかったよ。俺達は、人より良い暮らしをする代わりに自分の意思や感情をすべて捨てなくてはいけなかった。感情を捨て、この家の歯車となり、今まで生きていたんだ」
ロックの言葉に、啞然とする。これでは、何を言っても両親はウィンの話を聞いてもらえない。
恐らく、この家はずっとこの価値観で生きていたのだろう。両親の先代もまた。
そんな長い間続いてきた価値観に対して、どう言葉を返せばいいのか──。
それとも強引にウィンを両親から離すしかないのか──。
「もちろん、一番厳しかったのはウィンであることに変わりはないけどね」
フレアさんがかぶせるように言う。やはりといった所。
「ウィンは、そこまで頭もよくなく。ウィンが生れた当時は国全体が小麦の不作で飢餓に襲われ貧しかった時でもありました。そんなときにウィンに魔法の才能があるとわかり、ウィンの素質を高く評価してくれる商人が現れました」
「そして、ウィンを売ってしまったと」
フレアが、コクリとうなづく。
どこか、複雑な表情をしていた。
まるで罪悪感を感じているような印象があった。
「ウィンには、冒険者として名を上げることで我が家のために尽くしてほしいと両親は言いました」
「ウィンは、みんなのために頑張るって言って出て言ったわ」
マリーさんの言葉に、ウィンの表情が暗くなった。
そう言って、出ていった結果を嫌でも思い出してしまうからだろうか。
「それができなくなって、酷い扱いを受けているということか」
「はい。我が家フランソワ家では、足を引っ張る存在というのがもっとも忌み嫌われるものなんです」
ロックがさらに語る。
「この国は、かつては戦乱が激しく、何度も廃墟になった街です。その中で我がフランソワ家が必要だったのはきびしい規律。一人一人が与えられた使命を全うすることが我が家を存続させために必要なこと。そのために、厳しさと強さが必要だというのが両親の考え方です」
「しかし 思いが強すぎて、時には厳しくあたってしまうことのあるようです」
「なるほどね……」
フレアさんの言葉に、思わず額に手を当てる。
そういったことか。今までのしきたりや、厳しい環境が、彼らにそういった価値観を植え付けてしまっていると……。
どうしたらいいものか──。
大きく息を吐いて考えこむ。
しばらく、腕を組んで思考を凝らして考えこんでいると──。
ぐぅぅ~~。
ウィンの腹の虫が泣き出した。
ウィンは恥ずかしそうに顔を赤くして、お腹を押さえる。
外に視線を向ける。気が付けば日が暮れてすっかり夜になっていた。
話を聞いてわかったのだが、ウィンを突き放した考えというのはタツワナ王国という厳しい土壌の中で出来たものであるということ。
それなら、簡単に答えを出すことなんてできない。相手だって、簡単に考えを変えることなんてないと思う。
たぶん、これ以上煮詰まっても答えは出ないだろう。
色々考えすぎて疲れてきた、一回気を抜いた方がいい。
「そろそろ食事の時間ですね」
「そうですね、マリーさん」
考えこんでいても始まらない。いったん息を抜いた方がいいか──。
「食事ですが、ここで食べますか? 用意しますよ」
用意してくれたのか。貴族だけあってそれなりに質の高い料理だろう。
でも──。
「いいや、それは明日でいいや。ちょっと、二人で食事しながら話したいし」
「お兄さんたちは、私のことを本当によく理解していてくれました」
「まあね。ウィン、両親からいい扱いを受けていなかったからね」
「フレアさんの言う通りです。私が落ち込んでいるとき、両親から罵倒された時とかよくかばってくれたり、励ましてくれたりしていて──」
つまり、心から信頼できる兄弟たちということだ。良かった、俺以外にもウィンに頼れる人がいるとのことだ。
ただ、気になることがある。
「しかし、何で両親はウィンに対してそこまで厳しいんですか?」
その言葉に、マリーが答える。
「ウィンだけではないです。両親は、私たち全員に対して、厳しい態度をとっていました」
「あなた達も、厳しく育てられたのですか?」
「はい」
ロックが頭をポリポリとかいてコクリとうなづいた。
そして、彼が両親について話し始める。
両親の価値観は。この家の存続のためならどんなこともするといった人たちだった。
それこそ、悪事を働いたり子供たちに厳しい態度をとったり──。
その中でも頭が良かったロックとフレアはタツワナ王国を支え、この家を継ぐ存在として、英才教育を受けてきた。
「本当に、厳しい両親でした」
フレアの言葉通り、子供のころから毎日のように勉強に他の貴族や王族の人とのコネづくりのため面会。
特にマナーに関する教育はかなり苛烈で少し間違っただけで何度も暴力を受けていたりしたそうだ──。
マリーさんは自分の意思など関係なく家のために王族へ嫁ぎに行ったのだとか。
王族とのつながりを強化して、自分たちの勢力を高めることが目的だとか。
こういった貴族では、よくあることだ。
「俺達の意思なんて、全くなかったよ。俺達は、人より良い暮らしをする代わりに自分の意思や感情をすべて捨てなくてはいけなかった。感情を捨て、この家の歯車となり、今まで生きていたんだ」
ロックの言葉に、啞然とする。これでは、何を言っても両親はウィンの話を聞いてもらえない。
恐らく、この家はずっとこの価値観で生きていたのだろう。両親の先代もまた。
そんな長い間続いてきた価値観に対して、どう言葉を返せばいいのか──。
それとも強引にウィンを両親から離すしかないのか──。
「もちろん、一番厳しかったのはウィンであることに変わりはないけどね」
フレアさんがかぶせるように言う。やはりといった所。
「ウィンは、そこまで頭もよくなく。ウィンが生れた当時は国全体が小麦の不作で飢餓に襲われ貧しかった時でもありました。そんなときにウィンに魔法の才能があるとわかり、ウィンの素質を高く評価してくれる商人が現れました」
「そして、ウィンを売ってしまったと」
フレアが、コクリとうなづく。
どこか、複雑な表情をしていた。
まるで罪悪感を感じているような印象があった。
「ウィンには、冒険者として名を上げることで我が家のために尽くしてほしいと両親は言いました」
「ウィンは、みんなのために頑張るって言って出て言ったわ」
マリーさんの言葉に、ウィンの表情が暗くなった。
そう言って、出ていった結果を嫌でも思い出してしまうからだろうか。
「それができなくなって、酷い扱いを受けているということか」
「はい。我が家フランソワ家では、足を引っ張る存在というのがもっとも忌み嫌われるものなんです」
ロックがさらに語る。
「この国は、かつては戦乱が激しく、何度も廃墟になった街です。その中で我がフランソワ家が必要だったのはきびしい規律。一人一人が与えられた使命を全うすることが我が家を存続させために必要なこと。そのために、厳しさと強さが必要だというのが両親の考え方です」
「しかし 思いが強すぎて、時には厳しくあたってしまうことのあるようです」
「なるほどね……」
フレアさんの言葉に、思わず額に手を当てる。
そういったことか。今までのしきたりや、厳しい環境が、彼らにそういった価値観を植え付けてしまっていると……。
どうしたらいいものか──。
大きく息を吐いて考えこむ。
しばらく、腕を組んで思考を凝らして考えこんでいると──。
ぐぅぅ~~。
ウィンの腹の虫が泣き出した。
ウィンは恥ずかしそうに顔を赤くして、お腹を押さえる。
外に視線を向ける。気が付けば日が暮れてすっかり夜になっていた。
話を聞いてわかったのだが、ウィンを突き放した考えというのはタツワナ王国という厳しい土壌の中で出来たものであるということ。
それなら、簡単に答えを出すことなんてできない。相手だって、簡単に考えを変えることなんてないと思う。
たぶん、これ以上煮詰まっても答えは出ないだろう。
色々考えすぎて疲れてきた、一回気を抜いた方がいい。
「そろそろ食事の時間ですね」
「そうですね、マリーさん」
考えこんでいても始まらない。いったん息を抜いた方がいいか──。
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