国家魔術師をリストラされた俺。かわいい少女と共同生活をする事になった件。寝るとき、毎日抱きついてくるわけだが 

静内燕

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2章

第77話 ヒートアップ

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 その言葉に、ちょっとイラっと来た。こいつらは、俺達がどんな思いで戦っているのか理解していないのだろう。

「全く、普段は荒稼ぎてるくせに、ちょっとのことで戦いたくないとか言いぬかして。うちの奴らもそうだが、冒険者って、本当にわがままだねぇ。金もらってるくせにねぇ。我が家の恥だよ本当に」

 イリヤの言葉──いくら何でもひどすぎる。ウィンは、背中を丸めて目から涙を浮かべていた。

 冒険者というものを、全く理解していないというのが良く分かる。

 いくら成功すれば大金がもらえるとはいってもいつ戦いの中で、命を落とすかわからない。
 目の前で大切な人が死んで、立ち直れなくなる人だっている。

 極限状況の中で、人間関係が壊れ仲間だった人と仲違いなる人もいる。

 ウィンだって、追放された先で『使えない』と罵声を浴びてこうなってしまった。
 それを、こうして罵声を浴びせて──。
 本当は一家のことに口をはさむのをためらっていたが、ウィンがここまで罵声を浴びせられていて、何もしないわけにはいかない。

「今はそうですけど、いつか戦いますから──、乗り越えますから」

「信用できるわけないじゃない。どうせ口から出まかせに決まってるわよ」

 ウィンが必死に言い返しても、両親は全く信じず強く責めるばかり。
 やはり、俺が言わないとだめだ。

 ラデックとイリヤに視線を向けて、言葉を返す。

「どうして、ウィンを信じてあげることができないんですか? あなたたち、仮にもウィンの両親じゃないんですか?」

 椅子から乗り出して反論する。

 俺が言われる分にはまだいい。
 いきなり何も知らないまま、ウィンの隣にいて、一緒に暮らしているというのだから。

 批判を受ける覚悟はある。
 けれど、ウィンのこととなると話は別だ。

 自分たちの都合で街からこんな年齢で追い出しておいて、あんなつらい思いをさせて、帰ってきたら罵声を浴びせる。

 ちゃんと、反論しないと──。

「俺のことはいいです。けれど、ウィンにもっと優しくしてあげてください」

 そんな願いを、この2人は全く聞きはしない。ラデックが眉間に皺を寄せて、罵声を返して来る。

「他人の家庭に口をはさむでない。戦うしか能がなかったくせに、それすらも出来なくなって。これじゃあ何の役にも立たないじゃないか」

「そうよそうよ」

「大体なんだお前は。ウィン。どういうことだ! こんなどこの馬の骨とも知らない男のところに転がり込んで──家の恥さらしもいいとこだ」

「そうよそうよ。せめてどこかの上級貴族ならいいコネができるからまだ使いようがあったのに──。ただの冒険者だったなんて……。どうせろくでもない男に違いないわ」

 その罵声がウィンに向かっていく。ウィンは、反射的に体を震わせたものの、すぐに視線をラデックに合わせて言葉を返す。



「ガルド様は──ろくでもない人なんかじゃありません!」

 母親の言葉に、ウィンは強い口調で反論した。
 初めて見る強い言葉に、思わず身を引いてしまう。

 ヒートアップするこの場。ピリッとした雰囲気がこの場を包み始めたその時──。

 コンコン──。

 ノックをする音が聞こえた。

「ちょっと熱くなっちゃってるから、一回落ち着いた方がいいよ。ウィンとこの人は、俺達が見るから」

「そうだな、ロック。よろしく頼むよ」

 ロック、家族かな──。
 すると、ウィンが彼について耳元でささやいた。

「ロックさんは、私のお兄さんです。一応私には、理解があります」

 ラデックは、オホンと咳をするとすぐにこの場を立ち去った。後を追うようにして、イリヤもこの部屋から出ていく。
 去り際にウィンをにらみつけて。

 そして俺もウィンの手を握ってこの場を去っていく。


 ロック──呼ばれていた男の人に連れられて、屋敷の中を歩いていった。

 着いたのは、別の客室。さっきと比べると、やや狭い。
 すぐに、黒いふかふかのソファーに座る。

 そして、部屋には長髪で黒髪の男の人。それから金髪のお姉さんっぽい人がいた。


「申し遅れました。私が長男のロック。そして、こちらが次男のフレア。後長女のマリー」

「よろしくお願いします」

「マリーです。先ほどは嫌な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」

「大丈夫ですよ。慣れっこですから。私はガルド、よろしくお願いいたします。

 社交辞令のようなあいさつ。握手をしてからソファーに座る。

 メイドさんが入ってきて、コトッと紅茶の入ったティーカップを人数分置いた。

「紅茶です。よろしかったらどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 メイドさんから渡された紅茶を、ウィンはふーふーと冷ましてから口に入れる。

「おいしい……です」

 ほっと顔が緩んで、つぶやく。
 気持ちは落ち着いたようだ。
 俺も紅茶を一口飲んでみる。香りが豊かで、味もいい。

「ここは、紅茶の名産地でもありますから」

「そうなんですか──」

 確かに、王都で飲んだどの紅茶よりもいい味をしている。
 紅茶と兄弟たちのおかげで、雰囲気がかなり和やかになった。

 半分ほど飲んだところで、話が始まる。
 まずはウィン──。

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