国家魔術師をリストラされた俺。かわいい少女と共同生活をする事になった件。寝るとき、毎日抱きついてくるわけだが 

静内燕

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2章

第89話 再び、両親の元へ

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「良く分かってるじゃないか」

 この人たちは、ありとあらゆる知識を教え込まれたがゆえに知っているのだ。この国が、どんな状況に向かっているのかを。

 様々な状況に対応するために教養を身に着けたがゆえに、自分が何をしているのか、理解しているのだ。


 なるほど──。

 脳筋の軍人や、そこいらにいる冒険者とは違う。ただ暴力的で目の前の敵を殴ればいいというわけではない。

 教養豊かで、自分の脳で判断できる人。
 恐らく、この国でもトップクラスの知識人であるともいえる。


「この世界ってのはな、うまくいかないのが当たり前なんだ。最初っからうまくいくなんてことはめったにねぇ」

「それは、分かりますよ。私だって、政府で働いていて、その後色々ありましたから──」

 ウィンと出会う前のことを思い出してしまい、気持ちが後ろを向いてしまう。
 何度も苦しい思いをして戦い抜いたにもかかわらず、自分達の権威の邪魔になるという理由で首になった。

 身分の高い貴族たちからは、疎まれる日々。

「上手くいかない中でどうするか、どうやって大切な人も守っていくか。それが生きていくってことじゃないのか?」


 その言葉に、俺ははっとした。確かにそうだ。それでも、ウィンを守って行かなきゃいけない。尽くしていかなきゃいけない。

 どこか、肩の荷が取れた気分になった。

「──わかりました」

「頑張れよ」

 そっと、応援の言葉をもらったこと。その事実が、どこか嬉しい。

「ありがとうございます」

 そして俺はこの場を去っていく。
 レナートも、根っから悪い奴じゃないということは理解できた。

 行こう。逃げてばかりいても、問題は解決しない。
 行くしかない。両親のところへ。

 そして俺達はこの場を去って行った。
 絶対、ウィンを悲しませるような結果にはしない。そんな強い意志を持って、この場を去って行った。

 再びウィンの実家へと戻る。
 玄関で出会ったロックさんに、両親と再びウィンのことについて話したいということを告げる。

 ロックは、心配そうな表情をした。

「はい。どの道逃げることなんてできませんから。それなら、私がいる今やりたいと考えています」

 ロックが一度ウィンに視線を向けた。ウィンは俺の手をぎゅっと握ったまま、じっとロックを見つめている。
 ウィンの気持ちを、理解したのだろう。ロックはコクリと頷いた。

「──わかった」

 ロックは家の奥へ。俺達はいったん自分の部屋に戻り、気持ちを落ち着けているとコンコンとノックをしてきた。

 扉を開けると、そこにはロックの姿。

「準備はできた。そっちは?」

「大丈夫だ」

 ウィンの方に視線を向ける。真剣な表情で、コクリと頷いていた。

「行きましょう。──覚悟はできてます」

 目を見ればわかる。逃げずに行くという、意志と覚悟をそして俺達は再び応接室へ。

 応接室のソファーに腰を下ろしてしばらく。両親がやってきて反対側の席に腰を下ろす。
 どんよりとした雰囲気が、この場を包む。



「で、何で呼び出したんだい」

「当然、ウィンのことについてです。ウィンについて、両親であるあなた達に、お願いがあります」

 その言葉を言うなり、両親はウィンを強くにらみ始めた。ウィンは、一瞬だけピクリと体を動かすが、それ以上はなにも動じない。
 そして両親のにらみつけるような目線は、俺の方にも向き始めた。

「なんだウィン。大体、こんなどことも知らない男なんて連れてきて」

「そうだよ。なんだ、俺達の財産目当てか?」

 いつも、そうやって血縁関係を利用して自分たちの勢力を強くしていったんだっけ。
 だから、そんな発想が出るのだ。そんなことは当然ない。
 俺は立ちあがる。
 一瞬、言葉が詰まった。

 確かに、両親にとってはそうかもしれないからだ。けれど、それは違う。
 ウィンのことを真に考えている。だから、言うんだ。

「あなた達に、言いたいことがあります」

 これは、家族の問題だ。本来、俺が口を出すべきことではない。
 それでも──。ウィンがあんなに罵倒されて、涙を流して、悲しんで──。

 黙ってなんかいられない。

「ウィンは 一生懸命で、誰にでも優しくて。とっても素敵な人だと考えています」

「だから何だ」

「本当は、私が口を出すかどうか迷いました。でも、ウィンが悲しんでいる現実を見て、言わずにはいられなくなりました」

「両親として、決して言ってはならない言葉だと思います」

 本当なら、俺がウィンの親になってあげたい。


 悲しさだって、辛いことだって、全部背負って癒してあげたい。
 でも、それはできない。限界がある。
 でも、どれだけウィンのことを想っても、どれだけウィンに尽くしても、届かないって思う。

「だからあなた達両親が、ウィンが困っていたり、落ち込んでいたりしたときにウィンのそばにいてあげてほしいんです」

「しかし、ウィンは──」

「ウィンなら、必ずやり遂げられます。トラウマだって乗り越えられます。ずっと隣にいた俺だからわかります。ウィンは、両親が思っているよりもずっと芯が強い存在です。だから、考え直してください」

 そして俺は頭を下げた。

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