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最終章
第122話 激闘の末
しおりを挟むアトラスが振り向ききる前に、私が最後の一撃を入れればいいのだから。
最後の一撃。全力を込めて、弓矢を発射していく。もう──私は負けたりしない。
「わああああああああああああああああああああああああ!!!」
アトラスも、私の攻撃に対抗しようと全力で殴り掛かってくる。
互いの全力がぶつかり合う。衝突し──拮抗は生じなかった。
私の術式が一瞬でアトラスと攻撃をぶち破り、アトラスの心臓を次々に串刺しにしていった。
その場に倒れ込み、ピクリとも動かなくなるアトラス。
何とか、勝った。
同時に、今まで相当体力を消耗していたのか、
身体がふらついて、視界がぐにゃりとなった。その場に立っていられなくなってへたり込んでしまった。
とりあえず、大きな木に寄っかかろうか……。
そう考えてお尻を動かそうとしたその時──。
「わっ!」
誰かが私に乗っかってくる。なんだと思い振り返ってみると、エリア先輩がそこにいた。
そして両手で頭を掴んで、髪の毛をわしゃわしゃとしてくる。
「もう、やっぱりできる子ね、ニナは」
「ほめてもらって、えへへ、ありがとうございますぅ」
思わずニヤリと、笑みがこぼれる。
右手を頭の後ろに当てながら反応する。すると、私の背後に誰かがやってきた。
「ニナ、接近戦もできるようになったのか、どんどん成長してるじゃないか」
ビッツ先輩。私が苦戦している間、十数体のアトラス相手に激闘を繰り広げ、何とか倒したらしい。
私が苦戦した倍近くのアトラスを単独で。やっぱり先輩たちと比べるとまだまだだなって思う。
「そんな、先輩たちに比べたら、私まだまだですよ~~」
「そんなことないわ。前だったら、絶対足引っ張ってた。立派に戦えるようになっただけでも、すごいわ」
「そうだぞ。ここまでよく伸びる奴なんてそうそういない。こりゃ将来が楽しみだ」
「あ、ありがとうございますぅ」
褒められると、やっぱりうれしい。
表情が、思わず緩んでしまう。
「2人とも、やるじゃないか」
ビッツ先輩もこっちにやってくる。ビッツ先輩も、ボロボロで消耗してるのがわかる。
「ありがとうございます!」
「すごいのはニナよ。ずいぶんと成長したわ」
「それは俺もわかる。でも、喜ぶのはまだ早いぜ。周りを見なよ」
「え──」
言葉通りに周囲を確認する。あ……。
別パーティーは、アトラス相手に半壊状態。怪我人も数人出ている。そうだ、私たちはただ敵を倒すだけじゃダメなんだ。生還して、全員で帰らないといけないんだ。
「とりあえず、応急処置をしましょ。ニナ、手伝ってくれる」
「はい!」
そして、私はけがをした人達の手当てに奔走し始めた。
「おじさん、大丈夫ですか?」
「ありがと姉ちゃん、なんとかなりそうだよ」
出血したおじさんの腕に包帯を巻きながら、考える。
先輩たちの背中、どれだけ一生懸命走って追いかけても、全く届く気がしない。
果てしなく遠い道。本当に追いつけるのかなって、不安になってしまう。
でも、私は絶対にあきらめたりしない。
この人たちは、憧れでもあるのだから。
だから、追いかけ続けてやる。どれだけ、道が険しくたって──。ずっと。
何とか、応急処置が終わりこの場が落ち着いてくる。
別パーティーの人達は、みんな怪我をしていて、腕や足を包帯で押さえている。致命傷にはならなかったものの、帰り道はもしもの時のために護衛するような形にした方がよいだろう。
一度、休憩用の場所もある宿泊施設「ブンブン」へと戻る。
屋根付きの、木の椅子が並ぶ場所で、一息つく。
勝利したとはいえ、何度も攻撃を食らった。体力も、魔力も消耗が激しい。
いったん休憩して、体力を回復させる必要がある。
椅子にもたれかかり、疲労からか目をうとうととさせる。
そして、一瞬ストンと瞼が落ちた時──。
右腕に、何かが当たる。なんだとそっちに視線を向けた。
「エリア先輩……」
エリア先輩が、肘でうりうりと腕のあたりを当ててきたのだ。今日は、いろいろあったのだから、私を元気づけようとしてくれたのだろう。
いつも周りを見てくれている、エリア先輩らしい行いだ。
「今日は、素晴らしかったわ。また、成長したわね」
「あ、ありがとうございます」
「この戦果、ガルド君に報告してあげなさい。いっぱい褒めてくれると思うわ」
褒めて、くれる。ああ……。
先輩に褒めてもらえる自分を想像しただけで、口元が緩んでしまいニヤニヤが止まらない。
「ほめて、くれる……」
「そうよ、頭をなでなでしてもらったり、手を握ってもらったりしてくれるかもよ」
「なでなで、手を握る」
先輩の、あったかくてがっちりとした手で──。
想像しただけで、ついついにやけてしまう。顔をぶんぶんと振って表情を戻す。
先輩──あれだけ私に優しくして、笑顔を見せて、他の女と付き合う?
天然の女たらし──。
先輩め、私を選ばなかったことを絶対に公開させてやるんだから!
だから、これからも──もっと強くならなくっちゃ!先輩が選んだ選択を、後悔させやるんだから!
そう強く決意をした、私であった。
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