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チュートリアル

19 うわっ……私の報酬、低すぎ……?

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 時計台広場から外に出る門まで歩きながら宿屋を探す。
 食料品店、雑貨屋、貸馬屋? ……あった、宿屋!
 中に入ってみると、受付のおじさんが声をかけてきた。

「いらっしゃい。ここは宿屋だよ。泊まるのかい?」
「いえ、冒険者ギルドの依頼で来ました! ワンちゃんの散歩に行きたいんですけど」

 私がそう言うと、おじさんは少し困った顔をして言った。……あれ、もしかしてこれ、間違えた? 慌ててクエスト詳細を確認する。あってる。よね?

「ワンちゃんなんて可愛いもんじゃないんだけどな……。まあいいさ。裏にいるよ」

 良かった。間違ってなかったみたいだ。私はほっと胸を撫で下ろして外に出ると、そのままお店の裏へ回った。すると、そこには大きな檻があり中に巨大な生き物が入っていた。

「おお、依頼を受けてくれたのはお嬢ちゃんか。よろしく頼むぞ」

 檻のすぐそばにいたおじいちゃんが私に声をかけてくる。どうやらこのおじいさんがこの生物の飼い主のようだ。
 大きさ的には1.5mくらい。茶色の毛並みをしていて、太くて短い四肢がその巨体を支える。その巨体に反してピョコンとでた小さい尻尾。これって……。

「クマじゃないですか! あれ? ワンちゃんは?」
「ワンちゃん? この子の名前は犬じゃよ」

 私が尋ねると、おじいちゃんはニコニコしながら答えた。いや、どう見ても犬じゃないでしょ!? って、名前? クマに犬って名前付けてるって事? 大丈夫なの、この人?

「そう怯えなくても大丈夫じゃよ。この子はおとなしいからな」
「いえ、怯えると言うか……。何で犬なんて名前にしたんですか? 詐欺じゃないですかこんなの!」
「クマって言ったら依頼誰も受けてくれないじゃろ? 犬ならほれ、この通り」

 いや、たしかにそうだけどさあ……。だからってこんな凶暴そうな熊……。完全に肉食獣なんですけど……。
 仕方ない。さっさと終わらせよう。私が食べられる前に!

「わかりました。では、お預かりしますね……」
「おお、本当に受けてくれるとは! やってみるもんじゃのう」

 おじいさんは檻を開けて、クマの首輪にリードを付けて私に渡す。私はリードを受け取って、大通りに出るのだった。

 散歩コースは門を出てトウモロコシ畑を過ぎて小川まで行き、引き返すだけ。私はリードを引いて歩き出す。私の隣をトコトコとクマが歩いている姿はちょっと面白い。いや、思ったよりずっといいね。おとなしいし。
 私がクマを連れて歩いていても、通りかかるプレイヤーは驚きもしない。このクエストやってるの、私が初めてじゃないからねえ。もう慣れっこになってしまったんだろう。ほら、向こうからクマを連れた男性のドワーフが歩いてきてるし。
 いやあ、最初は詐欺かと思ったけど悪くないね。クマ。よくみると可愛いし。よしよし、いい子だね~。

 のんびり歩いていると、目的地である小川に到着した。あとは引き返すだけだ。そういえば、クマって乗れるのかな? 試してみるかあ……。
 そう思ってクマの背中に乗ってみた。うん、いいんじゃないか。でも、さすがに重くて走れないかな……? そう思っていたら、なんと走り出したではないか!
 すごい勢いで走るクマ。これは楽ちんだ! ああ、風が気持ちいい! もう何も怖くない! このまま空だって飛べる気がするよ!
 ……おっといけない。危うく正気を失うところだったよ……。危ない危ない。
 風を感じている間に街の中に入り宿屋へ到着したので、そこでお別れだ。名残惜しいけど仕方がないよね。また会えるといいなあ……。

 
 その後も『迷子猫探し』と『家の掃除』を順調にクリアして冒険者ギルドではるちゃんと合流する。
 パーティーで受けた依頼は他の人がクリアしても報酬が貰えてクリアしたことになるので、はるちゃんがクリアした『チラシ配り』と『荷物運び』と合わせて、全ての依頼をクリアしたことになる。やったね。
 冒険者ギルドのクエストボードを見るとこんな感じ。

 『迷子猫探し』clear!
 『チラシ配り』clear!
 『家の掃除』clear!
 『荷物運び』clear!
 『犬の散歩』clear!


 『オオカミの皮の納品』
 『盗賊団の調査』
 『丸蟹の討伐』
 『灯台の清掃』

 新しい依頼が受けられるようになっていた! 前の依頼が全部終わると次の依頼が出るようになっているんだね。
 これを繰り返せば、念願のショートブーツが手に入るんだね。
 そう思って冒険者カードを見たら、ポイントがほとんど入っていなかった。

「ねえ、はるちゃん! ギルドポイントが全然入ってないんだけど!」





 もしかして、私だけポイントが入ってないとかないよね……? そんな心配をしつつ尋ねる私に対して、はるちゃんが答えてくる。

「私も同じポイントよ。これが正常なんじゃない?」
「えっ、でも10しかポイント入ってないよ? パーティーだと貰える報酬低いとかじゃないの?」
「私が1人でクリアした依頼も報酬は2ポイントだったわよ。多分、最初はこんなもんなのよ」
「そんなー……」

 ショートブーツの5万ギルドポイントまであと49990もある。これじゃいつになったら買えるのかわかったものじゃないよー……。
 泣きそうになっている私を慰めるようにはるちゃんは言った。

「依頼をこなしていれば、段々と報酬も上がっていくわよ。ほら、クリアした依頼より新しい依頼の方が難易度高そうでしょう? こういうのは、難易度と共に報酬も多くなるものなの」
「そうなの? じゃあ、頑張ろうかな……」

 そうだね。最初から無理だと思ってたら出来るものも出来ないよね。ここは地道にコツコツやっていくしかないかあ……。
 よしっ、気を取り直して次いこう!
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