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 喫茶店のカギを開けて中に入り電気を付ける。男をカウンター席に案内してから私はカウンターの中に入った。
「カフェオレでよろしかったですか?」 
「ああ。というか、あんた、ここのマスターだったのか。気付かなかった……」
「そうですね。よくモブ顔だって言われます。」
 私は苦笑しながら答えた。
「それで、話ってなんだよ?」
 男が切り出してきた。私は彼に向き直ると単刀直入に言った。
「貴方、異世界から来た人に心当たりはありませんか?」
「なっ!?」
 男は驚きのあまり椅子からずり落ちそうになる。
「な、なにを言っているんだ?そんなわけ無いだろ!」
 慌てた様子の彼に対して私はさらに畳みかけるように言った。
「いえいえ、貴方、以前この店に来た時に、魔力の籠ったものを持っていましたよね?魔力はこの世界の人間では感じることが出来ない。つまり貴方は異世界人、または異世界人と何らかの関りがあるということになりますよね?」
「そ、それは……」
 言い淀む男に私は続けて言った。
「それと時計店の件、あれもちょっとおかしいんですよね……。もしかして時計店の店長もあなたの仲間なんじゃありませんか?」
「……」

 黙り込んでしまった男の様子を見ていると図星だったようだ。ならばもう少し揺さぶってみることにしよう。
「私が思うに、あなたは異世界の女性に指定したものを持ってこいと言われたり、この喫茶店を探って来いと言われたりしてるんじゃないですかねえ?」
「何でそこまでわかるんだよ……?お前の言うとおりだよ。俺たちはある女性に命令されて動いているだけだ」
「その人は何者なんですか?」
「さあな……それは俺たちも詳しくは知らない。それより何で時計店のやつが仲間だとわかったんだ?」
 男の目つきが鋭くなった気がした。警戒されてしまっただろうか?
「いえね、あなたが翼ちゃんを誘い出した時に、時計店で窃盗したように見せかけたでしょう?あれって実際は盗んでないですよね」
「……どうしてそう思う?」
「実際あの店を見てきましたからね。ケースに入ってるんだから店側の協力が無ければこっそり盗めませんよ。それにあの店主も不自然でしたし。それと被害届けもですね」
「被害届け……?」
 不思議そうな顔をする男に向かって私は続ける。
「ええ、店で何か盗まれたのなら、警察を呼ぶんですよ。だって店が被害現場なのですから。電話一本でしょう?こちらから警察に出向きますかね?この店から結構遠いですよ?何より貴方がまだ現場近くにいるのがおかしいですよ。あのコンビニもこの店も時計店の近くですし。本当に盗んでたら当分の間は近寄らないんじゃないですかねえ」
「……なるほど」
 男は納得したようだった。私は更に続ける。
「そしてもう一つ、本当ならあの時、あなたは翼ちゃんをおびき出して接触する予定だったんじゃないですか?わかりやすく尾行されようとしたけど、何故か途中で追跡が途切れてしまった」
「ああ、その通りだよ」
 観念したかのように男は認めた。
「だが、何故そう思ったんだ?」
「おそらく翼ちゃんは魔力だけを頼りに追跡してたんです。姿を直接見ないようにしてね。彼女、視線でバレると思ったんですよ。自分がわかるから」
「そういうことか……じゃあ、あの時、手を洗ったのが不味かったのか……」
 男は自分の手を見ながらつぶやくようにそう言った。

 私は彼の様子を見ながら核心に迫る質問をすることにした。
「それで、あなたたちは何を企んでいるのですか?」
 そう聞くと男はしばらく黙り込んだ後、話し始めた。
「俺たちは、異世界から来たと言っている人に雇われているんだ。目的は、魔力を集めることと、ある人物を探すこと」
「ある人物とは?」
「俺達にはわからない。あの時、雇い主が確認することになってたんだ」
「ふむ……何故、その雇い主は直接この店に来ないんですかね?翼ちゃんなら大抵はいるでしょうに」
「探してはいるが、会いたくはないらしい。俺も詳しくはわからない」
「そうなんですね……」

 これは困ったことになったぞ。どうすればいいんだ?私は考えを巡らせるが、良い案が浮かばない。
「わかりました、ありがとうございます。それでは、そろそろ帰りますので、今日のところはこれで終了としますか」
 私は頭を下げると、席を立つ。
「ちょっと待ってくれ!あんた、俺たちのことをあの子達に話すつもりか?!」
 焦った様子の男に呼び止められる。おっと、これはチャンスかな?丁度いいので便乗してみようか。
「話されたくないなら話しませんよ。ただ、いくつかお願いしたいことがありますね」
「なんだ?俺たちに出来ることなのか?」
「私を、その雇い主の方に会わせてくれませんか?」
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