冒険者育成学園の日常 

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 気が付くと僕は真っ白な空間にいた。ここはどこだ?辺りを見渡すが何も無い。あるのはただ白だけ。
 ふと気配を感じて振り向くとそこに一人の少女が立っていた。誰だ?見たことがない顔だ。
 いや違う、どこかで見たことがあるような気がする。誰だっけ?思い出せない……でも知ってるはずだ。なのに名前が出てこない……もどかしい気持ちになっていると少女が口を開いた。
「何故あなたがここにいるの?」
 少女は僕を見つめる。不思議そうな顔で。
「自分の役割を忘れたの?あなたは何をしているの?」
 少女の問いに僕は答えることができなかった。そもそも自分は何をしていたんだっけ?頭の中がもやもやしている。……答えられない僕を見ながら少女は言う。
「なら思い出させてあげる。あなたの役割を」その言葉とともに徐々に世界が暗転していく……
 そして頭の中にいろいろな情報が流れ込んでくる……これは……そうか……そうだったのか……全てを思い出した。

 白い世界から目を覚ますと河童と安部晴実は向かい合っていた。辺りには彩先輩と小野、それと奇襲についてきた人たちが倒れていた。結界により死んではいないが意識を失っているのだろう。
「ほら、御旗よ。これが欲しいんでしょ?」そう言って持っていた旗を河童に投げつける。それを受け取った彼は言った。
「何のつもりだ?もう勝負は諦めたのか?」
「私はね、最初からギルドバトルなんてどうでも良かったの」
「……どういうことだ?」訝しげに聞く河童に少女は言った。
「このギルドバトルは単なる陽動なのよ。本命はあっち」
彼女が顎で指す方角。校舎のあるほうだ。
「これだけ大規模なギルドバトルなんだから学園側もそれなりの対策をするでしょう?この不殺の結界みたいに。ここに力を使うってことは学園の守りが手薄になるってこと。おわかり?」
「なるほどな、つまりお前は学園そのものを手にしようとしてたのか」納得したように頷く河童に安部晴実は言った。
「ここからなら距離的に校舎にギリギリ干渉することが出来るのよね。まあ、そういうこと。じゃあさっさと行っちゃいなさい。その御旗を本陣に持っていけばあなたの勝ちよ。ギルドバトルはね」
そういうと彼女の姿は光の粒子となって消えていった。残された河童は意仮に任せてこぶしを地面に叩きつける。
「くそ!やられた!」
 すぐさま立ち上がった河童は御旗を背中に括り付けると全速力で自分陣地に走り去っていった。

 二人とも、もう、僕のことは終始見えていなかった……。
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