新手の公爵令嬢ものがあらわれた! もううんざりだって? そう言わずに!

波桜みつき

文字の大きさ
5 / 27
初等部一年

5

しおりを挟む
 昼食を食べて教室に戻ったら、ホームルームをやって今日はおしまい。
 挨拶を済ませたら、そそくさと校舎を後にする。

 うーん、あれは予想外だったな。まさかこっちの世界にも存在してたなんて。

 昼食に食べたアレは、まさしくカレーだった。全然辛くなかったけど美味しかった。
 カレーって辛いから美味しいんじゃないんだね。コクっていうの?
 香辛料の香りと、いくつもの食材の味が複雑に絡み合って、ぶわーって広がってくるの。
 全然お子様カレーじゃないよ。すごい。あんなの初めて!

 あのレベルの食事が食べられるなら、一生通ってもいいかもしれない。
 いっそ教員めざそうかな? っていうか、なれるかな? 公爵家の娘が学園の教師って。

 そんなことを考えながら、馬車が待つ場所へと向かう。
 グレースが迎えに来ることになっているのだ。



 「お嬢様、お迎えにあがりました」

 優雅に馬車のドアを開けてくれたグレースが、いつものように微笑んでくれる。

 「リシェリアお嬢様から、懐かしい香りがいたしますね」

 「えっ……? 香り?」

 思わず自分の制服に顔を近づけて嗅いでみる。うん。さっぱりわからん。
 でもカレーだし、匂いは残っているだろう。

 「学園の食堂で出たお昼ご飯の匂いですね。香辛料のスープは、初めて食べた料理でしたの(リシェリアとしては)」

 「お屋敷に戻られたら、着替えとシャワーをおすすめいたします」

 「やっぱりそんなに匂うの……?」

 少し気恥ずかしくなって、私は胸元を押さえた。グレースはふっと笑みを浮かべる。

 「わたくしには、懐かしくて心地よい故郷の香りですが……」

 「懐かしいって……もしかしてグレースって、あの料理の国の人なの?」

 「はい。この大陸の外。海を越えた南の国が、わたくしの故郷でございます」

 グレースはそう言って、静かに馬車の扉を閉めると、前方の御者台へと歩いていった。

 いやあ、昼食後すぐ下校で良かった。そっか、匂うか。
 美味しかったけど、もうカレーは頼めないかな。
 悲しいけれど、スパイス・ガールズは方向性の違いにより今日で解散します。ありがとうございました。

 あ、でもグレースの故郷の料理なら作り方知ってるかも。
 今度作り方聞いて料理長に作らせよう。そうしよう。

 馬車が軽やかに動き出す。石畳の道をカタカタと進む音が、心地よいリズムを刻む。

 それにしても……“海の向こうの国”か。どんなところなんだろ。
 カレーの国だし、インドっぽいところかな?


* * *


 シャワーを浴びて部屋着に着替えると、自分の部屋へと戻ってきた。
 ふぅ~~~生き返った~。

 仰向けにばふっとベッドに倒れ込む。

 やっぱり制服ってさ、動きやすいようにできてるとはいえ、なんかこう、気を張る感じがあるんだよね。
 背筋をピンって伸ばさなきゃっていう圧を感じる。私が小学生の頃は私服だったから楽だったよ。

 天井をぼーっと見つめながら、ぐーっと手足を広げる。
 はあぁ、猫になりたい。一日中ごろごろできるし。

 時間にして二十数分ほどだろうか。
 ベッドの上でうつ伏せになったり仰向けになったり、丸くなってみたり。
 限界まで猫を満喫した私は、名残惜しさを噛みしめながらも身体を起こした。

 よし……、令嬢モード、ON!

 ベッドから立ち上がると、部屋にある姿見の前に立ち、髪の乱れを直す。
 部屋着でも姿勢を崩しすぎるのはNG。いくら誰にも見られていなくても、それが“家の格”ってやつらしい。

 ほんと、めんどくさいよねえ貴族様って……。
 魂的にはリシェリアの時間より、庶民だった時間の方が遥かに長い。

 私の中では、リシェリアになって五年か六年か、そんくらいしか経ってない。
 慣れてきたとはいえ、純粋培養で育ってきた他の子達とは違い、私はその辺に生えている雑草みたいなものだ。

 私の前世は――まあ、特筆するほどのものじゃない。
 日本と言う平和な国で、ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の学校に通い、ごく普通の会社で、ごく普通に働いていた。
 あまりに普通すぎて、逆に覚えてないくらい。
 残念ながら、結婚して奥様(魔女)になった記憶はない。彼氏いない歴=年齢、推して知るべし。

 で、気がついたら転生してたわけだけど……つまり、死んだんだよね? 私。
 でも死因は不明。全く覚えてない。真っ白な空間で神様が土下座して謝ってきた記憶もない。

 まあ、死に際に苦しんだ記憶がないだけマシだったと思おう。ラッキー。

 明日の準備をしながら、前世のことをぼんやりと思い返していたら――
 部屋の外から、誰かの帰宅を告げる物音が聞こえてきた。

 あっ、純粋培養の誰かが帰ってきたのかな?
 お出迎えしなくっちゃ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

処理中です...