新手の公爵令嬢ものがあらわれた! もううんざりだって? そう言わずに!

波桜みつき

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初等部一年

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 数日経った。
 今日も登校して教室に入ると、いつものように明るい笑顔で挨拶をした。

 「皆さま、ごきげんよう」

 けれど返ってきたのは数人からの小さな挨拶だけ。みんな視線すら合わせようとせず、明らかに空気が冷たい。

 あれ……? そろそろ慣れてきてもいいと思うんだけど……うーん?

 戸惑いながら席に向かおうとしたとき、リディアとカレンがぱっと駆け寄ってきた。

 「リシェリア様、ごきげんようですわ!」
 「ごきげんよう。本日もご機嫌麗しゅうございますね」

 二人の明るい声とは裏腹に、周囲の空気がさらにひんやりと冷たくなる。

 ……これ、やっぱり気のせいじゃないよね?




 授業が始まり、先生の話を聞きながらノートをとっていると、隣の席からペンがころころと転がってきた。

 「あっ……」

 隣の女子が小さく声をあげたので、拾い上げてそっと差し出した。

 「はい、どうぞ」

 しかし女子は私を見た途端、一瞬ひるんでから小さな声で「ありがとうございます」と呟き、慌ててペンを受け取った。
 その表情はどう見ても感謝よりも怯えに近い。

 えっ、なんでそんなに怯えた目で見るの? 私、何かした?

 胸に小さな不安がじわじわ広がっていく。
 訳が分からないけれど、私の知らないところで何かが起きているような気がする。

 そんなもやもやとした気分を抱えながら午前の授業を終えると、ようやく昼食の鐘が鳴った。
 今日もこれで授業はおしまい。 楽でいいね。ご飯食べてホームルームして帰るだけ~。

 気を取り直して席を立った瞬間、両脇をリディアとカレンががっちり固めた。

 「さあ、リシェリア様。食堂に参りましょう」
 「昨日の魚料理、わたくしあれは少々苦手ですわ……」

 はい、今日も私は捕獲された宇宙人です。 まあ、ボッチよりいいか。

 三人で廊下を歩いていると、前方に一人の生徒がぼんやりと立っていたため、私たちの道をふさぐ形になってしまった。

 「あら、ちょっとあなた。リシェリア様の邪魔をするおつもり?」

 リディアが鋭く冷たい声でそう言うと、その生徒はびくっと肩を震わせてしまった。

 「も、申し訳ありません……!」

 生徒は逃げるようにその場を去っていく。

 わかった―――っ! 原因これだよ、この二人のせいだーーーっ!!


 ようやく原因が判明した私は、頭の中で絶叫した。
 リディアとカレンが原因だった。 いや、正確には二人が私の威光を勝手に利用しているのだ。
 どうりでクラスメイトが私を怖がるわけだ。
 私自身が何もしていなくても、あの二人が周囲を威嚇していたらそうなる。 なんせ私は公爵令嬢だし。
 下手に目を付けられないように怯えているんだ。 私が入学式に王太子に危機感を覚えたのと同じように。

 なるほどなあ。
 でも、どうしようか。これ……。

 リディアとカレンは、私の顔色を窺いながらにこにこしている。
 多分本人たちに悪気は全くないのだろう。
 うーん、これは言いづらい……。 けれどこのまま放置もできない。

 「あの、リディアさん、カレンさん」

 「はいっ、リシェリア様?」
 「何でしょう?」

 二人はパッと笑顔を向けてくる。 私は控えめに微笑んで口を開いた。

 「次からは、私が自分で注意いたしますわ。 お気遣いは嬉しいのですけど、あまり強く言ってしまうと相手も怖がってしまいますから」

 やんわり伝えたつもりだが、二人は少し表情を固める。

 「あ、申し訳ありません……わたくしったらつい」
 「リシェリア様のご迷惑になってしまいましたか?」

 「いいえ、そんなことはありませんのよ。 ただ、今後は気をつけていただけると嬉しいですわ」

 なんとか穏便に伝えることができて、私はほっとした。
 二人も反省している様子だし、きっとこれで大丈夫。

 少しずつ誤解を解いていけば、そのうち馴染めるよね。

 そう信じて、私たちは食堂へと向かった。
 しかし、この問題は思っていたよりもずっと複雑で根が深いことを、この時の私はまだ知らなかった。
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