新手の公爵令嬢ものがあらわれた! もううんざりだって? そう言わずに!

波桜みつき

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初等部一年

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 「お母様、少しよろしいでしょうか?」

 夕食を終えた後、私はリビングルームで紅茶を楽しむお母様のもとへ向かった。
 お母様はゆったりとした仕草でカップをソーサーに置き、優しく微笑まれる。

 「ええ、リシェリアさん。何かありましたの?」

 「実は……その、学園でのことで少し相談がありまして……」

 私は、今日学園で起きた出来事を簡潔に伝えた。リディアとカレンの振る舞いが原因で、周囲から避けられているらしいことも正直に告げる。
 だが、話を聞き終えたお母様は、意外なほど静かな口調でおっしゃった。

 「……それが、何か問題でも?」

 「え?」

 思わず目を見開く私に、お母様はゆっくりと続ける。

 「リシェリアさん。あなたはアルディア公爵家の令嬢です。学園とはいえ、そこは貴族社会の縮図ですのよ。上位貴族であるあなたに対して下位貴族が一定の敬意と距離を置くのは、ごく自然なことです」

 「でも、だからといって……」

 言いかけた私の言葉を、お母様が静かに遮られた。

 「カーター家とメリディス家のお嬢さん方の態度は、何も間違っておりませんわ。むしろ当然の振る舞いでしょう。貴族社会では上位貴族が優先されるもの。それが秩序というものです」

 「でも、私は……」

 「リシェリアさん」

 ぴしゃりと、お母様の声が鋭く響いた。

 「学園は友達を作る場所ではなく、将来あなたが社交界に出たときに困らぬよう、立場や振る舞いを身につける場所ですの。下位貴族と安易に対等な関係を築こうなどと考えてはいけません」

 お母様は立ち上がり、私のそばに寄ってくると、その肩に手を置かれた。

 「あなたが初等部で習うことは、すでに家庭教師を通じて教えてあります。それは、下位貴族に成績で劣ることが許されないからです。家の格を守るためには、常に完璧でなければなりませんわ。覚えておきなさい」

 「……はい……わかりました、お母様。相談に乗っていただきありがとうございます」

 私は形式的に頭を下げた。
 お母様は満足そうに小さく頷かれる。 それ以上は何も言わなかった。
 私は静かにその場をあとにした。

 

 ――貴族って、やっぱクソだわ。

 廊下を歩きながら、内心で毒を吐く。
 なにが「上位貴族に敬意を払うのが当然」よ。なにが「秩序」よ。
 ただのマウント合戦じゃない! カーストの押しつけじゃない! ふっざけんな!
 こっちは猫のポーズで必死に心を保ってんだよ!

 自分の部屋のドアを閉めるなり、ベッドにランドスライド。ばふっ!と顔面から突っ込んだ。
 布団に顔を押し付けたまま、ぐるぐる転がって、また毒を吐く。

 この世界、クソ……学園生活、クソ……貴族、クソ……! あーーーもうやってらんない!

 「無理ッ!! マジで無理ッ!!」

 ごろごろしながら小さく叫んでも、ここには慰めてくれる猫耳メイドはいない。
 限界を越えた私は決意する。 よし、お兄様の部屋、行こっ。
 今、私には癒やしが必要だ。
 優しくて、かっこよくて、たぶん一番私の気持ちをわかってくれる――お兄様に!

 廊下に飛び出し、スリッパの音を響かせないように細心の注意を払いながら目的地へダッシュ!

 「お兄さまっ、聞いてくださいませえええええっ!」

 私はノックもそこそこに、扉をばーんと開け放つ。

 「うわっ!? リシェリア!? 急にどうしたんだよ、心臓に悪いな……」

 机で書き物をしていたお兄様――フェリクスは、ペンを取り落としながらもこちらを振り返った。
 私はそのままお兄様のベッドに突撃し、ばふんと飛び乗って寝転がる。

 「もう、もうもうもう……無理! 貴族とか上位とか下位とか、そんなのぜんっぜん関係ないじゃんっ!」

 「お、おう……なるほど。何があったかはなんとなくわかった」

 お兄様は苦笑して椅子を引き、私のそばに座る。

 「母さんに怒られた?」

 「うん……“貴族社会では当然”って。取り巻きが勝手に私の名前を使ってるのに、それが秩序なんですって! もう最悪! 私、友達ほしいのに!」

 お兄様はしばらく考えてから、優しい声で言った。

 「リシェリア。お前、グレースにはいろいろ話してるよな? あいつは家臣だけど、単なる使用人とは思ってないだろ?」

 「……まあ、そうかも」

 「だったら、上下関係があっても友達になれるってことだ」

 「……そういうもの?」

 「俺も昔、同じことで悩んでさ。だから自分から壁を壊した。 ご機嫌取りはいらない。 そんなんじゃなくて“仲間になろう”って言ったんだ。 もちろん全員とうまくいくわけじゃない。 でもな、ちゃんと向き合えた人間はいた」

 私はその言葉をかみしめた。

「お前が友達をほしいと思うのはわかる。 けど、伝える努力も必要だ。 貴族としての立場を守りつつ、気持ちを伝える。 それが大事なんじゃないか?」

「……うん、わかった。 私、ちょっとだけ……頑張ってみる」

「それでいい。 何かあったら、またいつでも来い。 あ、今度はちゃんとノックするようにな」

 お兄様の優しい声に、私はこくりとうなずいた。
 心の中の重りが、ほんの少し軽くなった気がした。
 ありがとうお兄様。さすが私の猫耳メイドだ。
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