新手の公爵令嬢ものがあらわれた! もううんざりだって? そう言わずに!

波桜みつき

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初等部一年

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 馬車の中で窓の外を眺めながら、私は昨日の話を思い返していた。

 そもそも私がこの学園に来たくないって思ってたのは、貴族間のごたごたが嫌だったからだ。
 前世のアニメや漫画、小説に出てくる、陰湿で傲慢な貴族がほんっとうに嫌いだった。
 たとえその貴族たちを叩きのめす「ざまぁ系」だとしても、ざまぁされる前にムカついて投げ出してしまうくらい。
 王太子と関わりたくないってのも、その影響。 物語では王太子なんて面倒事の最たるものだからね。

 でも。
 王太子とクラスが違って、少し安心して。学園生活にもだんだん慣れてきて……。
 そろそろ友達ほしいなぁ、なんて思っちゃった。

 なのに。
 私がその“関わりたくない側”だったんだって……。
 昨日のお母様の話を聞いて、一晩経って冷静になって、ようやく自覚した。
 「何で気付かないのか?」って? だってつい最近まで公爵家の中で全てが完結してたんだよ?
 おはようからおやすみまで、ずっとお屋敷の中。 外の人間に会ったりしないし、お出かけなんかもしない。
 使用人たちはみんな丁寧で、優しくて、私を避けたりしない。 たまに遊んでくれたりもする。
 わっかんないよ。そんなの。

 でさ。
 自分がいざその“関わりたくない側”だと自覚してさ。
 今の「危険人物みたいに避けられてる」状態に耐えろってのは、正直、きっっっついよ?
 教室で挨拶しても返されない。
 ペン拾って渡しても、お礼より先に怯えられる。
 道を歩いてるだけで、勝手に威圧してることになるって、どんなバグよ!?
 ああ、私が王太子に対して思ってるのがそれだわ。……改めよう。

 まあ、それはそれとして、このままじゃいけない。
 クラス名簿を確認したところ、ほとんどが男爵家。親から逆らうなとでも言われて縮こまってるのかもしれない。
 でも日本でいえば小学四年生。挨拶ぐらい、ちゃんとしないといけません!

 それともちろん、友達も諦めない。
 友達100人できるかな? とか、そこまでは求めてないけど、せめて普通に話せる相手がひとりかふたり――。
 それだけでもいたら、きっと全然違うと思うんだ。

 お母様が言っていた。「下位貴族と安易に対等な関係を築こうなどと考えてはいけません」と。
 なら、安易じゃなければいいんだよなあぁぁ?

 ――やってやんよ。傲慢な上位貴族様ってやつを!

 そう心の中で拳を握りしめた、その瞬間。
 馬車がゆっくりと止まり、扉の外から控えめな声が響いた。

 「お嬢様、学園に到着いたしました」

 さあ、戦の始まりだ――!


 * * *


 教室の扉を開けると、昨日と変わらない静かな空気が迎えてくれた。

 「皆さま、ごきげんよう」

 明るく微笑みながら、いつもより若干大きな声で言う。
 返ってくるのは数人からの微かな声と、すっと逸らされる視線。うん、知ってた。

 「リシェリア様、ごきげんようですわ!」
 「本日もご機嫌麗しゅうございますね!」

 リディアとカレンがぱっと駆け寄ってくる。笑顔は満点。でも君たち、なんか子犬みたいよ?

 「ごきげんよう、リディアさん、カレンさん」

 私はにこっと微笑み返す。
 そして二人の間を抜けて、教室の入り口からゆっくりと教壇の横へと移動する。

 さあ、いくぞ。令嬢スイッチ(強)……ON!

 「ねえ、リディアさん、カレンさん。わたくしが挨拶しているのに返事も返さない人たちは、一体どういうつもりなのかしら?」

 そう言いながら、私は教室全体に鋭い視線を向けた。鋭いよね?
 声は穏やか。けれどしっかりと通るように、少しだけ音を張って。
 リディアとカレンが何かを言う前に、間髪入れずに次のセリフを口にする。

 「もしかして、わたくし、侮られているのかしら? それとも侮られているのはアルディア公爵家?」

 ぴたりと教室の空気が――いや、時間が凍り付く。
 呼吸すらできないかのように、誰もが硬直していた。

 「正直に言わせてもらうと、不愉快ですの。 挨拶をしても返さない。 視線をそらして、まるで私が“恐ろしいもの”でも見るような顔をされて……あまりにも礼を欠いていると思いませんこと?」

 私はあくまで穏やかに、けれど言葉の一つ一つをはっきりと、丁寧に言い切った。
 教室のあちこちから、息を呑む音が聞こえた気がした。

 「リシェリア様のお言葉、もっともでございますわ!」
 硬直からいち早く回復したリディアが言う。

 「挨拶の一つも言えないなんて、貴族としての品位を疑ってしまいますわね」
 カレンもやや強めの声で応じる。

 ――そして、時は動き出す。

 「ご、ごきげんよう、リシェリア様!」
 「本日も、ご機嫌麗しゅうございます……!」
 「おはようございます!」

 ばらばらと、けれど必死に絞り出すような声で、教室中から挨拶の言葉が飛び交う。
 私はとびっきりの笑顔で、それに答えた。

 「皆さま、ごきげんよう。どうぞ今日もよろしくお願いいたしますわ」

 そのまま、背筋を伸ばして自分の席へと向かう。
 うん……とりあえず、第一歩。

 鳴かぬなら鳴かせて見せようホトトギス。
 あっ、これ豊臣秀吉か……三日天下になりませんように。
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