新手の公爵令嬢ものがあらわれた! もううんざりだって? そう言わずに!

波桜みつき

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初等部一年

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 ――事件が起きたのは、ある日のことだった。

 午後の授業が始まる前、お昼休みが終わり教室に戻ろうとしていた私たちのもとに、教師が声をかけてきた。

 「リシェリア様。少々お時間よろしいですか?」

 「はい? なんでしょう?」

 私が小首を傾げると、教師は静かな口調で尋ねてきた。

 「最近、図書室でお読みになった本について、お心当たりはありませんか? 『現代錬金術の基礎4』という本なのですが」

 「……えっと……」

 そのタイトル、どこかで聞いたような……でも、思い出せない。

 「いえ、読んでないと思います」

 私は正直に答える。教師は「そうですか」とだけ言い、すぐに深追いせず去っていった。
 あとに残された私は、妙な違和感とともに立ち尽くしていた。

 『現代錬金術の基礎4』……? なんか聞き覚えあるような、ないような……。
 でもそんなつまらなそうなタイトルの本なんか読まないよなあ。

 「それにしても、なんだったんでしょうね、あれ」

 私の隣にいるリディアが訝しげに目を細めると、逆の隣を歩いていたカレンが少し声をひそめるように言った。

 「……そういえば、図書室で貴重な本が無くなったという噂を耳にしましたの。王家から寄付されたものだとか」

 「え、それって……」

 「先ほどの話から察するに、その無くなった本が『現代錬金術の基礎4』なのではないでしょうか?」
 「ということは、先ほどのはリシェリア様が疑われたってことですか?! 納得いきませんわ! リシェリア様がそんなことをなさるはずがありませんもの!」

 リディアが興奮気味に声を上げる。ちょ、ちょっと、声がでかいよ!

 「そ、そういうわけじゃないと思うけど……先生も軽く確認って感じだったし、深刻な詰問とかじゃなかったから。ただ、普段から図書室に通ってるから気にされたのかも」

 私は慌てて否定する。
 リディアさん、ほら、おちついて。 どーどー。 ほら、教室行きますよー。


* * *


 教室に戻った私は、席に着いて次の授業の準備をしていた。
 ふと隣を見ると、隣の席の女の子──メリル・アインスローが、机に肘をついたまま視線を落としていた。

 ん?……なんか沈んでんな。暗い顔して、どした? なんかあった?

 彼女は以前、ペンを落としたあの子だ。お礼を言ってくれたけど、少し怯えたような表情をしていたのが印象に残っている。

 私はそっと声をかけてみた。

 「メリルさん、大丈夫? ……体調でも悪いのかしら?」

 彼女はびくっと肩を震わせ、小さく顔を上げる。
 その瞳は、どこか不安で揺れていた。
 リシェリアだよー。 怖くないよー。 大丈夫だよー。

 「……いえ。大丈夫です……ただ……その……姉のことで……」

 「お姉様?」

 彼女はこくりと頷いた。

 「三年にいる姉が……図書室の書物係をしているんですけど……あの、なくなったって噂の本、最後に触った記録があったらしくて……他の係の方たちから、ちょっと責められていて……」

 「えっ?」

 私は思わず息を飲む。

 「でも学園の先生方は、何もおっしゃっていません。ただ、周りの人が……」

 メリルの声がだんだん小さくなる。
 その様子を見て、胸の奥がチクリと痛んだ。

 まだ学園は公式には誰も責めてない。
 でも、その分だけ噂と空気で人が裁かれてしまってる……。
 このままいじめに発展しそう。
 どうにかできないもんかなあ。

 「……ありがとう、話してくれて。 少しでも辛いことがあったら、私に言ってね」

 私は、そっとメリルの肩に手を触れ、微笑みを向けた。
 すると彼女は驚いたような顔をして、ほんの少しだけ──ほんの少しだけ、頷いてくれた気がした。

 私は、人間を警戒する野生のリスに触れるのに成功した感覚に陥った。
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