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初等部一年
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湯気がふわふわと立ち上る浴室で、私は湯船に肩まで浸かっていた。
我が家のお風呂は、漫画とかでよくある「何人もの使用人に囲まれて洗ってもらう」タイプじゃなくて、高級旅館みたいな石造りの広々とした浴室だ。
……まあ、前世で高級旅館なんて行ったことないけどね。イメージよ、そういうイメージ。
ふぅ~……しみるわ~。
最近は午後の授業も加わって、体力的にも精神的にもけっこうきつい。
こうしてお湯に浸かっていると、じんわりと一日が解凍されていく感じがする。
あ~……もう出たくない。 私はこのままお風呂になりたい。
ぼんやりと天井を眺めていると、ふと、思い出した。
「……あれ?」
思わず、小声でつぶやいてしまう。
つい最近図書室に行ったとき、似たようなタイトルのシリーズが並んでたっけ。
1巻、2巻、3巻……と順番に並んでいたはずなのに、途中で――
途中で似たようなタイトルが混ざってた。 3だっけ? 4? 思い出せない。
でも、なくなったって話の本って『現代錬金術の基礎』じゃなかったっけ?
いやいやいや、待って待って。まさかね。そんなはず……ないよね?
……いや、でも私、触ったんだよ。あのとき。 手に取って、中も見た。で、すぐ戻した。 ……どこに? どこに戻したっけ?
頭の中で警報が鳴り始める。
やばいやばいやばい。
……もしかして、私、やらかした……?
湯船の中で小さく縮こまる。
翌朝、一番に図書室に行こう。そうしよう。
急に寒気に襲われて、私はお湯に沈んだ。
* * *
昨日はあまり眠れなかった。
あの本のことが、ずっと頭の中をぐるぐるしていたせいだ。
――もし、あの時ちゃんと戻していなかったとしたら……。
考えたくないけど、少しでも可能性があるなら確認しなくちゃ。
そんなわけで、いつもより早く登校してもらって、教室に荷物だけ置いたらすぐ図書室に向かった。
廊下を小走りで駆け、校舎の奥――いつもなら癒しの空間だった場所へGO!
扉をそっと開けると、静寂の中に、わずかなざわめきが混じっていた。
ん……? もう誰か来てる?
本棚の向こう、窓際のテーブル付近で何やら言い争うような声がする。
私は足音を忍ばせながら、そっと近づいてみた。
「……あなたの管理がずさんだったせいで、こんなことに……」
「違います、私はちゃんと……!」
「言い訳はいいのよ。学園の名誉を汚さないでくださらない?」
低く抑えた、でも棘のある声。
囲まれているのは、私と同じ制服を着た、でも少し大人びた雰囲気の上級生。
そして、どこかで見覚えのある目元。
……あれって、もしかして、メリルさんのお姉様?
私は思わず立ち止まり、声をかけるかどうか、ほんの一瞬だけ迷った。
相手は上級生で、どこのお嬢様たちかわからない。 けれど、行くしかない。
もし私のせいでああなっているのだとしたら申し訳ない。
私はそのまま、深呼吸をひとつ。
今回はやや抑えめの──いわば「令嬢モード(弱)」でいこう。
「まあ、お姉さま方、ごきげんよう。 早朝の図書室って、こんなに賑わっているものなのですね」
にこやかに微笑みながら、自然な足取りで三人の輪に近づく。
真ん中に立つ人が、三人グループのトップだろうか。 こう……佇まいっていうの? 雰囲気が違う。
っていうか、この三人に何か親近感を感じるなあ。
「……ごきげんよう。一年生かしら?」
「ええ、初等部一年のリシェリア・アルディアと申しますわ。 お姉様方のお姿が見えたものですから、ご挨拶をと思いまして」
私が優雅に一礼すると、三人の目に一瞬の緊張が走ったのが分かった。
……よし。うちの家名、知ってるね。
王家とか公爵家の人、いないよね? 引いてくれ~。 頼む~。
リーダーらしき上級生が、視線で他の二人に合図を送る。
ごく自然な、他人にはわからないような意思疎通。
私じゃなければ見逃しちゃうね。 でもって、これは勝ち確だろう。
「あら……もうこんな時間。私たち、そろそろ移動しませんこと? 授業に遅れてしまうと困りますわ」
「そうですわね。続きはまた今度……ええ、ゆっくりお話ししましょう」
自然な笑顔とともに、三人は静かにその場を離れていく。
まるで最初から世間話をしていただけのような雰囲気を残して。
よっしゃあ!
残されたのは、呆然と立ち尽くす一人の少女。
彼女――たぶんメリルさんのお姉様は、はっとしたように私を見つめた。
「……ごきげんよう。 お邪魔してしまってごめんなさいね。 でも、ほんの少し……空気が重そうに見えましたから」
私がやんわりと微笑むと、彼女はすぐに頭を下げた。
「いえ……助けてくださって、ありがとうございました」
声は小さく震えていたけれど、ちゃんと伝わってきた。
「いえ、お気になさらず。 図書室は、静かで穏やかな場所であってほしいものですもの」
私はそう告げて、そのままゆっくりと図書室の奥へと歩き出す。
――さて。本来の目的を果たしに行きましょう。
あの本が、本当に“無くなっている”のかどうか、確かめに。
我が家のお風呂は、漫画とかでよくある「何人もの使用人に囲まれて洗ってもらう」タイプじゃなくて、高級旅館みたいな石造りの広々とした浴室だ。
……まあ、前世で高級旅館なんて行ったことないけどね。イメージよ、そういうイメージ。
ふぅ~……しみるわ~。
最近は午後の授業も加わって、体力的にも精神的にもけっこうきつい。
こうしてお湯に浸かっていると、じんわりと一日が解凍されていく感じがする。
あ~……もう出たくない。 私はこのままお風呂になりたい。
ぼんやりと天井を眺めていると、ふと、思い出した。
「……あれ?」
思わず、小声でつぶやいてしまう。
つい最近図書室に行ったとき、似たようなタイトルのシリーズが並んでたっけ。
1巻、2巻、3巻……と順番に並んでいたはずなのに、途中で――
途中で似たようなタイトルが混ざってた。 3だっけ? 4? 思い出せない。
でも、なくなったって話の本って『現代錬金術の基礎』じゃなかったっけ?
いやいやいや、待って待って。まさかね。そんなはず……ないよね?
……いや、でも私、触ったんだよ。あのとき。 手に取って、中も見た。で、すぐ戻した。 ……どこに? どこに戻したっけ?
頭の中で警報が鳴り始める。
やばいやばいやばい。
……もしかして、私、やらかした……?
湯船の中で小さく縮こまる。
翌朝、一番に図書室に行こう。そうしよう。
急に寒気に襲われて、私はお湯に沈んだ。
* * *
昨日はあまり眠れなかった。
あの本のことが、ずっと頭の中をぐるぐるしていたせいだ。
――もし、あの時ちゃんと戻していなかったとしたら……。
考えたくないけど、少しでも可能性があるなら確認しなくちゃ。
そんなわけで、いつもより早く登校してもらって、教室に荷物だけ置いたらすぐ図書室に向かった。
廊下を小走りで駆け、校舎の奥――いつもなら癒しの空間だった場所へGO!
扉をそっと開けると、静寂の中に、わずかなざわめきが混じっていた。
ん……? もう誰か来てる?
本棚の向こう、窓際のテーブル付近で何やら言い争うような声がする。
私は足音を忍ばせながら、そっと近づいてみた。
「……あなたの管理がずさんだったせいで、こんなことに……」
「違います、私はちゃんと……!」
「言い訳はいいのよ。学園の名誉を汚さないでくださらない?」
低く抑えた、でも棘のある声。
囲まれているのは、私と同じ制服を着た、でも少し大人びた雰囲気の上級生。
そして、どこかで見覚えのある目元。
……あれって、もしかして、メリルさんのお姉様?
私は思わず立ち止まり、声をかけるかどうか、ほんの一瞬だけ迷った。
相手は上級生で、どこのお嬢様たちかわからない。 けれど、行くしかない。
もし私のせいでああなっているのだとしたら申し訳ない。
私はそのまま、深呼吸をひとつ。
今回はやや抑えめの──いわば「令嬢モード(弱)」でいこう。
「まあ、お姉さま方、ごきげんよう。 早朝の図書室って、こんなに賑わっているものなのですね」
にこやかに微笑みながら、自然な足取りで三人の輪に近づく。
真ん中に立つ人が、三人グループのトップだろうか。 こう……佇まいっていうの? 雰囲気が違う。
っていうか、この三人に何か親近感を感じるなあ。
「……ごきげんよう。一年生かしら?」
「ええ、初等部一年のリシェリア・アルディアと申しますわ。 お姉様方のお姿が見えたものですから、ご挨拶をと思いまして」
私が優雅に一礼すると、三人の目に一瞬の緊張が走ったのが分かった。
……よし。うちの家名、知ってるね。
王家とか公爵家の人、いないよね? 引いてくれ~。 頼む~。
リーダーらしき上級生が、視線で他の二人に合図を送る。
ごく自然な、他人にはわからないような意思疎通。
私じゃなければ見逃しちゃうね。 でもって、これは勝ち確だろう。
「あら……もうこんな時間。私たち、そろそろ移動しませんこと? 授業に遅れてしまうと困りますわ」
「そうですわね。続きはまた今度……ええ、ゆっくりお話ししましょう」
自然な笑顔とともに、三人は静かにその場を離れていく。
まるで最初から世間話をしていただけのような雰囲気を残して。
よっしゃあ!
残されたのは、呆然と立ち尽くす一人の少女。
彼女――たぶんメリルさんのお姉様は、はっとしたように私を見つめた。
「……ごきげんよう。 お邪魔してしまってごめんなさいね。 でも、ほんの少し……空気が重そうに見えましたから」
私がやんわりと微笑むと、彼女はすぐに頭を下げた。
「いえ……助けてくださって、ありがとうございました」
声は小さく震えていたけれど、ちゃんと伝わってきた。
「いえ、お気になさらず。 図書室は、静かで穏やかな場所であってほしいものですもの」
私はそう告げて、そのままゆっくりと図書室の奥へと歩き出す。
――さて。本来の目的を果たしに行きましょう。
あの本が、本当に“無くなっている”のかどうか、確かめに。
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