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初等部一年
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数日前にあった、図書室の本の紛失事件――
程なくして件の本は見つかった。
結局、書物係の誰かがうっかり家に持ち帰ってしまったということで片付けられたけどね。
誰が持ち帰ったのかは伏せられていて、詳しい話はわからない。
おそらく、学園側が情報を遮断しているのだろう。
王家寄贈の本が無事に戻ったことだし、穏便に済ませたいのだろうなあ。
私は、メリルさんのお姉様が標的にされて、たまたまそこにあの本が絡んだんじゃないかと勝手に推測している。
詳しくは聞いてないから、あくまで推測。
でも、例の三人はあれからだいぶ大人しくなったらしいので、私の推理はあっていたんじゃないかなあ。
* * *
授業が終わり、私は教科書とノートを鞄にしまっていた。
すると、隣の席のメリルさんが、そっとこちらに顔を向けて小さく声をかけてきた。
「……リシェリア様、本日も図書室に?」
控えめながら、どこか柔らかくなったその声は、前よりずっと近く感じられた。
あのビクついた子リスちゃんはもういない。
「ええ、借りていた本を返しに行こうと思って。あなたも?」
「はい。姉が少し遅れるらしくて……それまで、少しだけ本を読もうかと」
そう言って、メリルさんは鞄から、丁寧にしおりの挟まれた本を取り出して私に見せた。
この数日で、彼女たち姉妹とは少しずつ距離が縮まっていた。
そうそう、メリルさんのお姉さまはアリシア・アインスローという名前だ。
初等部三年の書物係。アインスロー家は男爵だそう。
例の本の件がきっかけで何度か言葉を交わすようになってから、私も彼女を「アリシアお姉様」と呼ぶようになり、アリシアお姉様には「リシェリアさん」と呼んでもらうようにした。
半分は周囲に「リシェリア・アルディアはアリシア・アインスローを敬愛している」とアピールするためだけど、どちらかと言うと――
ほら、これって私が望んでた友達に近くない?
年功序列と身分の差が打ち消し合ってプラマイゼロみたいな。
もちろん、お互い気は使ってるし、がっつり肩を組んでため口で話すような間柄にはなれないけど。
でも、妥協点というか、お嬢様同士の適切な距離感を保った、お上品なお友達感は出てる。
いいんじゃないかな。こういう関係。
ということで、その敬愛するお姉様の妹君にもアプローチをしてみることにしよう。
「ねえ、メリルさん。そろそろ『リシェリア様』っての、やめてみない? 私たち友達よね?」
にっこりと笑顔で言ってみたら、彼女は目を丸くして、それから、ちらちらと周囲を見ながら申し訳なさそうに言う。
「えっ、で、でもそれは……やっぱり、その……お立場が……」
やっぱりだめかー。
* * *
図書室の扉が、静かに閉まる。
陽が差し込む午後の光の中、私はアリシアお姉様のいるカウンターに歩き出した。
本がある。
話せる誰かがいる。
少しだけ、この世界がやさしくなった気がする。
私はようやく、この世界の、この学園生活の、一歩目を踏み出せた気がした。
程なくして件の本は見つかった。
結局、書物係の誰かがうっかり家に持ち帰ってしまったということで片付けられたけどね。
誰が持ち帰ったのかは伏せられていて、詳しい話はわからない。
おそらく、学園側が情報を遮断しているのだろう。
王家寄贈の本が無事に戻ったことだし、穏便に済ませたいのだろうなあ。
私は、メリルさんのお姉様が標的にされて、たまたまそこにあの本が絡んだんじゃないかと勝手に推測している。
詳しくは聞いてないから、あくまで推測。
でも、例の三人はあれからだいぶ大人しくなったらしいので、私の推理はあっていたんじゃないかなあ。
* * *
授業が終わり、私は教科書とノートを鞄にしまっていた。
すると、隣の席のメリルさんが、そっとこちらに顔を向けて小さく声をかけてきた。
「……リシェリア様、本日も図書室に?」
控えめながら、どこか柔らかくなったその声は、前よりずっと近く感じられた。
あのビクついた子リスちゃんはもういない。
「ええ、借りていた本を返しに行こうと思って。あなたも?」
「はい。姉が少し遅れるらしくて……それまで、少しだけ本を読もうかと」
そう言って、メリルさんは鞄から、丁寧にしおりの挟まれた本を取り出して私に見せた。
この数日で、彼女たち姉妹とは少しずつ距離が縮まっていた。
そうそう、メリルさんのお姉さまはアリシア・アインスローという名前だ。
初等部三年の書物係。アインスロー家は男爵だそう。
例の本の件がきっかけで何度か言葉を交わすようになってから、私も彼女を「アリシアお姉様」と呼ぶようになり、アリシアお姉様には「リシェリアさん」と呼んでもらうようにした。
半分は周囲に「リシェリア・アルディアはアリシア・アインスローを敬愛している」とアピールするためだけど、どちらかと言うと――
ほら、これって私が望んでた友達に近くない?
年功序列と身分の差が打ち消し合ってプラマイゼロみたいな。
もちろん、お互い気は使ってるし、がっつり肩を組んでため口で話すような間柄にはなれないけど。
でも、妥協点というか、お嬢様同士の適切な距離感を保った、お上品なお友達感は出てる。
いいんじゃないかな。こういう関係。
ということで、その敬愛するお姉様の妹君にもアプローチをしてみることにしよう。
「ねえ、メリルさん。そろそろ『リシェリア様』っての、やめてみない? 私たち友達よね?」
にっこりと笑顔で言ってみたら、彼女は目を丸くして、それから、ちらちらと周囲を見ながら申し訳なさそうに言う。
「えっ、で、でもそれは……やっぱり、その……お立場が……」
やっぱりだめかー。
* * *
図書室の扉が、静かに閉まる。
陽が差し込む午後の光の中、私はアリシアお姉様のいるカウンターに歩き出した。
本がある。
話せる誰かがいる。
少しだけ、この世界がやさしくなった気がする。
私はようやく、この世界の、この学園生活の、一歩目を踏み出せた気がした。
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