新手の公爵令嬢ものがあらわれた! もううんざりだって? そう言わずに!

波桜みつき

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家族旅行 ~アマルトゥス王国~

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 オープンテラスのカフェの一席。 私の心臓のライブ会場は派手に演奏を続けていた。
 涼しい海風は、熱を持った顔に当たり、上昇気流が発生して頭の中がぼんやりしてくる。 

 「おまたせ、リシェリア──って、あれ?」

 両手にトレーを持って戻ってきたお兄様が、私の前に立つ金髪の男を見て、目を丸くした。

 「……叔父さん? なにやってるんですか、こんなところで」
 「おや、フェリクス。 奇遇だな」

 金髪のイケメンは、お兄様に手を上げて応える。

 …………えええええええええっ!? 叔父さん!?!? 今、叔父さんって言った!?!?

 「え、えっと……」

 お兄様は私とナンパ男──いや、叔父さん? を交互に見る。

 「紹介するよ、リシェリア。 この人は父さんの弟で、ロドルフォ叔父さんだ」

 「……は、はじめまして……」

 必死に令嬢スマイルを保ちながら、内心ではテーブルに突っ伏してジタバタしたい気持ちを必死で押し殺す。
 うそでしょ!? このナチュラルイケメンナンパ師が、まさかの叔父!?
 私、叔父にナンパされてときめいてた!?!?!?!?

 「ふふ、リシェリアちゃんか。 君のお兄さんとは何度か会っているんだけど……君とは初めてだね。 こんなに可愛いお嬢さんだとは思わなかったよ」

 「お、おそれいりますわ……」

 もう、顔が熱い。 絶対耳まで真っ赤だ。
 だってさっき……さっきさ!! この人に「君の瞳は海のように澄んでるね」とか言われたんだよ!?
 うわあああああ──! お兄様、いっそ私を海に流して──!


* * *


 そのまま三人で席に着き、氷の溶けたアイスティーを飲みながら、私は必死で平常心を装った。
 まだ熱が収まらない。 ほんと、あっついなあ……今日。

 「叔父さん、何してたんですか? リシェリアに声かけたりして」

 お兄様が笑いながら軽く突っ込むと、ロドルフォ叔父様は苦笑した。

 「だって、すごく可愛い子が一人でいたから、つい声をかけちゃってね。 いやあ、まさか姪っ子だったとは」

 「……」

 うん、もう恥ずかしすぎて、逃げ出したい。
 心の中でテーブルにズドン、ズドンと頭を打ち付けている。
 転生前も含めてこんな扱いされたことなかったので、心臓が持ちません。
 やめてください、ほんとうにやめてください! 死んでしまいます!!
 そんな私の心境をよそに、叔父様はまったく悪気なく、にこにことしている。

 「リシェリア、母さんが警戒しろって言ってた理由わかったか? こういう人なんだよ」

 「……はい、よくわかりましたわ」

 私はぎこちなく微笑みながら答えた。
 遅まきながら警戒レベルを引き上げる。

 「まあまあ、そんなに警戒しなくてもいいじゃないか」

 ロドルフォ叔父様は笑いながら、アイスティーをくいっと飲み干す。

 「ところでフェリクス、例の手続き、もう終わったのか?」
 「いや、俺達は今日来たばかりだから。 明日にでも父さんがやるんじゃないかな?」
 「そっか。 わかった」

 ロドルフォ叔父様は、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
 ……この人、絶対問題起こすタイプだ。 エマージェンシー! 警戒レベルMAX発動!!

 「リシェリアちゃん、明日、時間ある?」

 「えっ」

 唐突な質問に、私はぴくっと肩を震わせた。

 「よかったら、この国の名所とか案内してあげるよ。 せっかくの旅行だし、観光もしないともったいないだろ?」

 「そ、それは……」

 内心では超絶ビビりながらも、外見はにこやかにお淑やかに──

 「ご、ご親切にありがとうございますわ、叔父様。でも……ええと、予定が……」

 「遠慮しなくていいって。 それに僕はまだ若いんだ。 叔父様なんて言わずにお兄ちゃんって呼んでくれないかな?」

 ……ああ、これが自由人という生き物か。
 なんだろう? なんか少し腹立ってきた。
 心の中でテーブルをバンバン叩きながらも、私はにっこりと優雅な微笑みを浮かべる。
 心の中のテーブルはもうボロボロだ。

 「叔父様……ではなく、お兄様、でございますか?」

 「そうそう、そっちのほうがずっといいよ。リシェリアちゃん」

 ロドルフォ叔父様は満足げに笑った。

 その後もロドルフォ叔父様は、旧市街のモニュメントが美しいとか、どこそこの市場が面白いとか、観光プランを次々提案してきた。
 それを、本物のお兄様が苦笑いしながら適当にいなしてくれる。
 結局、強引に決まることはなく、「気が向いたら声かけてね」と言い残して、ロドルフォ叔父様は自分の部屋へ戻っていった。

 そして私とお兄様は、軽くため息をつきながら顔を見合わせた。

 「……あの人、悪い人ではないんだよ」

 「ええ……それはわかります」

 私はそっと、ガラスのオブジェを撫でた。
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