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家族旅行 ~アマルトゥス王国~
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朝食を済ませて、ホテルのロビーで支度を整え、私たちは観光に出かけるために正面玄関へ向かった。
お母様は何やらフロントで手続きをしているようで、私とお兄様が先に玄関に出るかたちになったのだけど……。
扉を抜けて石畳の前に出た瞬間、そこにいたのは──
「やあ、おはよう、リシェリアちゃん。 今朝も相変わらず可愛いね」
──ロドルフォ叔父様だった。
その口調、昨日と全く同じ。 いや、昨日以上に軽やかかもしれない。
「ご、ごきげんよう、ロドルフォ叔父様……」
なんとか礼儀正しく挨拶を返したけれど、動揺を隠せていなかったと思う。
「叔父様なんて他人行儀だなあ。 おにいちゃんって呼んでくれると嬉しいんだけどなあ」
「そ、そんな……それは……っ」
ふわりと笑うロドルフォ叔父様。 おにょれ、完全に向こうのペースだ。
私がわたわたと混乱しているところへ、カツカツと響くヒールの音が割り込んだ。
「ロドルフォさん。 娘をかどわかすのはやめてくださいな」
涼しい声とともに現れたのは、お母様だった。
「おや、姉さんも一緒だったのか。 あいかわらず麗しい。 まるで宝石のように洗練された美しさだね」
「ロドルフォさんのその調子、相変わらずですね。 朝から元気そうで何よりですわ」
お母様は特に動じることもなく、さらりとかわす。 さすがである。
そのやり取りを横目で見ながら、私はお兄様にそっと顔を向けた。
「……あの方、誰にでもああなんですか?」
「うん。どんな相手でもだいたいあの調子だよ」
フェリクスお兄様は、肩をすくめながら苦笑いしていた。
そうなんだ。 ふーん……。
「ところで、今日は三人で観光だって聞いたけど……女性二人にフェリクス一人じゃ、何かあったとき心配じゃない?」
ロドルフォ叔父様が、わざとらしく真面目な顔をして口をはさむ。
「そこで僕が、心強いガイド役を務めようと思ってね」
「あなたが?」
お母様が少しだけ眉を上げたけれど、すぐにふっと笑って頷いた。
「まあ、いいでしょう。 せっかくですし、同行していただけるなら助かりますわ」
というわけで──予定外ではあったけれど、今日は叔父様も一緒に観光することになった。
* * *
観光の最初に訪れたのは、港を一望できる高台だった。
階段を登りきると、青い海と石造りの街並みが、まるで絵画のように広がっていた。
海に向かってゆるやかに傾いた屋根たち。 その先には大きな港があり、小さな帆船や運搬船が行き交っている。
「わぁ……」
思わず息を呑んでしまう。 自然と声が漏れてしまうくらい、そこからの景色は見事だった。
「ここは僕のお気に入りなんだ」
ロドルフォ叔父様が、風を受けながら笑う。
「海風が気持ちよくて、街の喧騒も届かない。 静かで、でも生きてる感じがしてさ」
そんな詩的なことをさらっと言うから、油断できない。
私は叔父様の横顔をちらりと見て、なんとなく納得しかけたけれど、すぐに自分の視線を景色に戻した。
視線を少し下に向けると、港の端の方にぽつんと、白い石の柱がいくつも並んでいるのが見えた。
「あれは……?」
「慰霊碑だよ。 数十年前に流行った疫病で亡くなった人たちを祀ってる」
叔父様の声が少しだけ落ち着いた響きに変わった。
「この国では“見送られた者たちの港”って呼ばれてる。 海の向こうまで想いが届くように、ってね」
「……そうなんですね」
私はそっと胸に手を当てた。
どこかでその話に聞き覚えがあったような気がして、でも思い出せないまま、潮風の中に飲み込まれていった。
* * *
高台を後にして、今度は街中へ。
石畳の路地を少し歩くと、やがて色とりどりの壁画が並ぶ通りに出た。
「ここは“壁アート通り”って呼ばれてるんだ。 有名な画家も、まだ名の知られてない人も、余白があれば好きに描いていい事になっている」
ロドルフォ叔父様が、どこか誇らしげに言った。
「伝統とかじゃなくてね、描きたいものを描くのがこの通りのルールなんだ」
なるほど、確かに──
果物を抱えた猫の絵。 逆立ちしている空飛ぶ少女。 巨大な花の中に沈む家。
一枚一枚がまるで違っていて、でもどこか楽しげで、惹きつけられるものばかりだった。
「この絵、なんだかすごく自由ですね」
「うん、いい意味でバカっぽいのが混ざってるのがまた楽しいんだよな」
お兄様が笑いながら言った。
「絵というのは、不思議なものですわね」
母様が少し歩みを緩めて、壁に描かれた一枚を眺めながら続けた。
「描き手の心が滲むようでいて、それをどう受け取るかは、見る人次第。 ときには真面目な作品より、こうした自由な絵のほうが、人の心を動かすのかもしれませんわ」
「わかる気がします」
私は母様の横顔を見て、小さく笑った。
お母様は何やらフロントで手続きをしているようで、私とお兄様が先に玄関に出るかたちになったのだけど……。
扉を抜けて石畳の前に出た瞬間、そこにいたのは──
「やあ、おはよう、リシェリアちゃん。 今朝も相変わらず可愛いね」
──ロドルフォ叔父様だった。
その口調、昨日と全く同じ。 いや、昨日以上に軽やかかもしれない。
「ご、ごきげんよう、ロドルフォ叔父様……」
なんとか礼儀正しく挨拶を返したけれど、動揺を隠せていなかったと思う。
「叔父様なんて他人行儀だなあ。 おにいちゃんって呼んでくれると嬉しいんだけどなあ」
「そ、そんな……それは……っ」
ふわりと笑うロドルフォ叔父様。 おにょれ、完全に向こうのペースだ。
私がわたわたと混乱しているところへ、カツカツと響くヒールの音が割り込んだ。
「ロドルフォさん。 娘をかどわかすのはやめてくださいな」
涼しい声とともに現れたのは、お母様だった。
「おや、姉さんも一緒だったのか。 あいかわらず麗しい。 まるで宝石のように洗練された美しさだね」
「ロドルフォさんのその調子、相変わらずですね。 朝から元気そうで何よりですわ」
お母様は特に動じることもなく、さらりとかわす。 さすがである。
そのやり取りを横目で見ながら、私はお兄様にそっと顔を向けた。
「……あの方、誰にでもああなんですか?」
「うん。どんな相手でもだいたいあの調子だよ」
フェリクスお兄様は、肩をすくめながら苦笑いしていた。
そうなんだ。 ふーん……。
「ところで、今日は三人で観光だって聞いたけど……女性二人にフェリクス一人じゃ、何かあったとき心配じゃない?」
ロドルフォ叔父様が、わざとらしく真面目な顔をして口をはさむ。
「そこで僕が、心強いガイド役を務めようと思ってね」
「あなたが?」
お母様が少しだけ眉を上げたけれど、すぐにふっと笑って頷いた。
「まあ、いいでしょう。 せっかくですし、同行していただけるなら助かりますわ」
というわけで──予定外ではあったけれど、今日は叔父様も一緒に観光することになった。
* * *
観光の最初に訪れたのは、港を一望できる高台だった。
階段を登りきると、青い海と石造りの街並みが、まるで絵画のように広がっていた。
海に向かってゆるやかに傾いた屋根たち。 その先には大きな港があり、小さな帆船や運搬船が行き交っている。
「わぁ……」
思わず息を呑んでしまう。 自然と声が漏れてしまうくらい、そこからの景色は見事だった。
「ここは僕のお気に入りなんだ」
ロドルフォ叔父様が、風を受けながら笑う。
「海風が気持ちよくて、街の喧騒も届かない。 静かで、でも生きてる感じがしてさ」
そんな詩的なことをさらっと言うから、油断できない。
私は叔父様の横顔をちらりと見て、なんとなく納得しかけたけれど、すぐに自分の視線を景色に戻した。
視線を少し下に向けると、港の端の方にぽつんと、白い石の柱がいくつも並んでいるのが見えた。
「あれは……?」
「慰霊碑だよ。 数十年前に流行った疫病で亡くなった人たちを祀ってる」
叔父様の声が少しだけ落ち着いた響きに変わった。
「この国では“見送られた者たちの港”って呼ばれてる。 海の向こうまで想いが届くように、ってね」
「……そうなんですね」
私はそっと胸に手を当てた。
どこかでその話に聞き覚えがあったような気がして、でも思い出せないまま、潮風の中に飲み込まれていった。
* * *
高台を後にして、今度は街中へ。
石畳の路地を少し歩くと、やがて色とりどりの壁画が並ぶ通りに出た。
「ここは“壁アート通り”って呼ばれてるんだ。 有名な画家も、まだ名の知られてない人も、余白があれば好きに描いていい事になっている」
ロドルフォ叔父様が、どこか誇らしげに言った。
「伝統とかじゃなくてね、描きたいものを描くのがこの通りのルールなんだ」
なるほど、確かに──
果物を抱えた猫の絵。 逆立ちしている空飛ぶ少女。 巨大な花の中に沈む家。
一枚一枚がまるで違っていて、でもどこか楽しげで、惹きつけられるものばかりだった。
「この絵、なんだかすごく自由ですね」
「うん、いい意味でバカっぽいのが混ざってるのがまた楽しいんだよな」
お兄様が笑いながら言った。
「絵というのは、不思議なものですわね」
母様が少し歩みを緩めて、壁に描かれた一枚を眺めながら続けた。
「描き手の心が滲むようでいて、それをどう受け取るかは、見る人次第。 ときには真面目な作品より、こうした自由な絵のほうが、人の心を動かすのかもしれませんわ」
「わかる気がします」
私は母様の横顔を見て、小さく笑った。
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