28 / 186
第3章:ローランド王国の内乱
8
しおりを挟む
砦から、ローランド城下町へ向かう、その途中。
身を隠すのはちょうど良い岩場の陰に、ガーネットの弟は居た。
「……あそこだ。」
ゼロは、少し離れたところで足を止め、ガーネットに弟の場所を告げた。
「……わりぃ、俺が回復魔法の一つも使えれば、傷とか消してやれたんだけど、な……。」
まるで、岩陰に寄りかかって眠っているかのような、ガーネットの弟。
ガーネットは、なかなか近づけないでいた。
眠っているように見える。
しかし、実際はどうなのか。
それを、彼女は『知ってしまっていいた』から。
そんなガーネットの背を、ゼロは軽く押す。
「ちゃんと……お別れしてやれ。俺も、ちゃんとお別れした。」
ゼロの脳裏に、少しだけアインの姿が浮かんだ。
「……うん。」
ガーネットはゆっくりと。
少しずつ踏みしめるように歩みを進める。
近づく弟の姿。
遠くから見れば、眠っているよう。
しかし、近づいていく度に、その詳細な様子が見えてきて……
(あぁ……弟は、本当に生きてはいないんだな。)
ガーネットの胸を締め付ける。
そして。
手で触れられるくらいの距離。
ガーネットは、愛する弟の頬を撫でた。
……冷たい。
生気を感じないその弟の肌に、一瞬手がびくん、と跳ねた。
「……トパーズ、指輪……ありがとう。おかげでこの手で宰相を倒せた。」
その表情は、姉が弟に向ける優しいもの。
「これで、ローランドは安泰だ。シエラ皇女も協力してくれる。また、昔みたいに狩りをしながら平和な生活ができる。」
優しく語る、ガーネット。
しかし、その身体は小刻みに震えていた。
「なのに……なのにお前が居ないんじゃ、意味がない……」
ついに、ガーネットの瞳から、大粒の涙が落ちた。
一粒、落ちた涙はとめどなくガーネットの頬を流れていく。
ゼロが、そんなガーネットの肩に手を置いた。
「まだ……言うこと、あるだろ。」
ぐっ……と、置いた手に力を込める。
ガーネットは、涙を流したまま。
それでも、優しく微笑んで。弟に言った。
「私を愛してくれて、ありがとう。大切な気持ちを、ありがとう……。私も、お前を愛していた。…………さようなら。安らかに。私もいつかそちらへ行ったら、また狩りの腕を競おう……。」
そっ……と弟の頬の両手を添え、額を合わせる。
その光景を見ながら。
(姉ってのは……みんな、強いんだな。)
ゼロは、込み上げてくる感情を、抑えた。
シエラとジェイコフの戦後処理は、それは見事なものだった。
宰相を討伐した後、シエラは速やかに砦の最上部の宰相派の旗を焼き、勝利を宣言。
ジェイコフは捕虜の解放と投降した兵達の受け入れを速やかに行った。
戦ったとはいえ、もともと同じ国の民。
決して処刑はせず、軍事、行商等に一分のペナルティを課すことで、国王派の兵達も納得した。
そして。
ローランド国王の口から、声高らかに『勝利宣言』が為され……
ローランド王国革命は、国王派の勝利という形で幕を閉じた。
その翌日。
「ガーネット、貴殿を近衛騎士団長に命ずる。」
宰相を討ち取った功労者として。
革命を沈静化した立役者としての功績を買われ、ガーネットは近衛騎士団長に任命され……
「慎んでお受け致します。私の弓が、このローランドを守るために、少しでも力を発揮できれば幸いにございます……。」
ガーネットは、その任を受けた。
ずっと狩人として生きてきたガーネットがこの地位に就くことを、軍部そして政務の者達は驚いた。
と同時に、ガーネットという言わば『ローランドの象徴』とも言える女が、近衛騎士団というローランド1番の組織の長に就いたことで、軍部・政務ともにその権力を抑制された。
それも、国王の思惑であったということは言うまでもない。
ガーネットの叙勲式の後……
……翌日、国葬が営まれた。
件の革命の犠牲者達の国葬。
『なぜ、こんな戦いで犠牲者が出たのか。』
民は嘆き、悲しんだ。
そんな国葬での、ローランド国王の演説は、その後の大陸史にも残される名演説として後世にも伝えられている。
「この革命は即ち、私の弱さであり、過ちである!民よ、私はもうこのような過ちは犯さぬ!だが、独りではなにもできぬ、私はちっぽけな人間だ。だから民よ頼む!私に……力を貸してくれ!!ローランド王国再建のため、非力な私に力を貸してくれ!!」
ローランド国王は、 自らの弱さを認め、また国民には謙虚に助力を求めた。
元国王は、後のローランド史においても『明君』と評価されることになるが……
……それは、まだ先の話である。
身を隠すのはちょうど良い岩場の陰に、ガーネットの弟は居た。
「……あそこだ。」
ゼロは、少し離れたところで足を止め、ガーネットに弟の場所を告げた。
「……わりぃ、俺が回復魔法の一つも使えれば、傷とか消してやれたんだけど、な……。」
まるで、岩陰に寄りかかって眠っているかのような、ガーネットの弟。
ガーネットは、なかなか近づけないでいた。
眠っているように見える。
しかし、実際はどうなのか。
それを、彼女は『知ってしまっていいた』から。
そんなガーネットの背を、ゼロは軽く押す。
「ちゃんと……お別れしてやれ。俺も、ちゃんとお別れした。」
ゼロの脳裏に、少しだけアインの姿が浮かんだ。
「……うん。」
ガーネットはゆっくりと。
少しずつ踏みしめるように歩みを進める。
近づく弟の姿。
遠くから見れば、眠っているよう。
しかし、近づいていく度に、その詳細な様子が見えてきて……
(あぁ……弟は、本当に生きてはいないんだな。)
ガーネットの胸を締め付ける。
そして。
手で触れられるくらいの距離。
ガーネットは、愛する弟の頬を撫でた。
……冷たい。
生気を感じないその弟の肌に、一瞬手がびくん、と跳ねた。
「……トパーズ、指輪……ありがとう。おかげでこの手で宰相を倒せた。」
その表情は、姉が弟に向ける優しいもの。
「これで、ローランドは安泰だ。シエラ皇女も協力してくれる。また、昔みたいに狩りをしながら平和な生活ができる。」
優しく語る、ガーネット。
しかし、その身体は小刻みに震えていた。
「なのに……なのにお前が居ないんじゃ、意味がない……」
ついに、ガーネットの瞳から、大粒の涙が落ちた。
一粒、落ちた涙はとめどなくガーネットの頬を流れていく。
ゼロが、そんなガーネットの肩に手を置いた。
「まだ……言うこと、あるだろ。」
ぐっ……と、置いた手に力を込める。
ガーネットは、涙を流したまま。
それでも、優しく微笑んで。弟に言った。
「私を愛してくれて、ありがとう。大切な気持ちを、ありがとう……。私も、お前を愛していた。…………さようなら。安らかに。私もいつかそちらへ行ったら、また狩りの腕を競おう……。」
そっ……と弟の頬の両手を添え、額を合わせる。
その光景を見ながら。
(姉ってのは……みんな、強いんだな。)
ゼロは、込み上げてくる感情を、抑えた。
シエラとジェイコフの戦後処理は、それは見事なものだった。
宰相を討伐した後、シエラは速やかに砦の最上部の宰相派の旗を焼き、勝利を宣言。
ジェイコフは捕虜の解放と投降した兵達の受け入れを速やかに行った。
戦ったとはいえ、もともと同じ国の民。
決して処刑はせず、軍事、行商等に一分のペナルティを課すことで、国王派の兵達も納得した。
そして。
ローランド国王の口から、声高らかに『勝利宣言』が為され……
ローランド王国革命は、国王派の勝利という形で幕を閉じた。
その翌日。
「ガーネット、貴殿を近衛騎士団長に命ずる。」
宰相を討ち取った功労者として。
革命を沈静化した立役者としての功績を買われ、ガーネットは近衛騎士団長に任命され……
「慎んでお受け致します。私の弓が、このローランドを守るために、少しでも力を発揮できれば幸いにございます……。」
ガーネットは、その任を受けた。
ずっと狩人として生きてきたガーネットがこの地位に就くことを、軍部そして政務の者達は驚いた。
と同時に、ガーネットという言わば『ローランドの象徴』とも言える女が、近衛騎士団というローランド1番の組織の長に就いたことで、軍部・政務ともにその権力を抑制された。
それも、国王の思惑であったということは言うまでもない。
ガーネットの叙勲式の後……
……翌日、国葬が営まれた。
件の革命の犠牲者達の国葬。
『なぜ、こんな戦いで犠牲者が出たのか。』
民は嘆き、悲しんだ。
そんな国葬での、ローランド国王の演説は、その後の大陸史にも残される名演説として後世にも伝えられている。
「この革命は即ち、私の弱さであり、過ちである!民よ、私はもうこのような過ちは犯さぬ!だが、独りではなにもできぬ、私はちっぽけな人間だ。だから民よ頼む!私に……力を貸してくれ!!ローランド王国再建のため、非力な私に力を貸してくれ!!」
ローランド国王は、 自らの弱さを認め、また国民には謙虚に助力を求めた。
元国王は、後のローランド史においても『明君』と評価されることになるが……
……それは、まだ先の話である。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
19
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる