聖戦記

桂木 京

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第4章:日、出づる国の動乱

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場所は再び、アズマ王城・謁見の間。


「まさかヨハネ、お主も協力してくれようとは……。どういった風の吹き回しだ?」

アズマ国王が、心底驚いた様子でヨハネを見る。


「なぁに、妾の『子供たち』がいたずらに命を散らさぬように助力するだけじゃ。適当なところで任せて帰るわ。」


ヨハネはそう言うと、不敵に笑った。


「で、王様は王妃様の幽閉されている場所に心当たりはねーのかよ?俺達は旅行者。国の重要な場所までは押さえてねーぜ?」


ゼロが率直に意見を言う。

「国王陛下の御前であるぞ!!」

……と、ジェイコフが咎めるも、ゼロは意に介せず。


「良い。……そうだな。協力者に情報を惜しんでいても仕方あるまい。」


アズマは、ゼロのその真っ直ぐな視線に何かを思ったのか、部下に地図を持ってこさせる。


「アズマは島国。四方を海に囲まれておる。そんな我が国に黒の軍勢が出した、王妃を『誘拐しておく条件』が、海域の封鎖。つまり実質的な『鎖国』だ。」


現在、アズマは内政・外交共に封鎖状態。
他国と全く関りを持たずにいた。

それが逆にゼロ達をアズマ国内に侵入させる良い材料となった。

先の戦いで助力を得ることになったローランド王国。
各国に書を飛ばしたものの、いつになってもアズマからのみ返事がなかったのを不審に思い、シエラに侵入を持ちかけていたのだ。

大陸の港町には、アズマの国旗を掲げ偽装した船を用意させ、入国証も『帰国』で発行させたのだ。

故に、ゼロたちは『鎖国前に帰国』出来たのである。



「何故、海域を封鎖したのか。それは、その海域に彼奴等が欲するものがあるからだ。」


アズマは地図の一点、アズマ国の北の海を指し示す。


「この部分、地図には載っておらぬが、人口の島がある。ここで本来はある石を採掘しておる。それが、彼奴等の狙いだ。」

そう言うと、アズマは懐から宝玉を取り出す。


「封魔石。邪なる魔力を封じ、純粋なる魔力に還元するという、この国でしか採れないものだ。これを何らかの形で利用したいのであろう。要求にこの石も含まれていた。」


ヨハネが、封魔石を見つめて露骨に嫌な顔をする。


「……魔導士の天敵じゃ。」


「その……『この石も』とおっしゃいましたが?」

ふと、シエラがアズマの言葉を聞き、疑問を呈する。
アズマは、険しい表情で言った。

「あと一つの要求、それは妻の能力だ。」



アズマの港から少し離れた岬。

アズマ国王の用意した小舟に乗り、地図にない小島を目指す一行。



「妻の能力、それは古より伝わる、『霊媒』の力。異界……すなわち死後の世界の霊、そして残留思念をその身に留め、言葉とする者。黒の軍勢は、おそらく妻の力と封魔石を用いて何か大きな存在を蘇らせようとしているのかも知れぬ。」



アズマの言葉が本当であれば、王妃の身が安全とは言い切れない。


「……やられる前に、王妃を奪い返さないとってことだな。」

「そうです。霊媒の力が呼び寄せる力を下回ったら、身体を乗っ取られる可能性もあります。何より……。」

「王妃様の精神が、自我が持たないかもしれません。廃人同様の王妃様を連れ帰ることは『救出』とは言いますまい。」


ゼロたちの目標は、王妃が霊媒の力を使われる前に救出すること。


「封魔石はどうするのじゃ?」

「まずは、王妃様の身の安全が第一。封魔石はその後ですわ。」

「そーだな。大体、もし何かを復活させるとして、なんで『封魔石』なのかが分からねぇ。封魔石は、何かを封じるための石、だろう?」



ゼロ達はただ、感情論で動いているわけではない。
優先順位を組み立て、それを行動に移しているだけ。

それを確認できたヨハネは、ふぅ……と息を吐く。


「考え無しの人命救助というわけではなさそうじゃの。よし、乗ろう。いざとなったら妾の魔法でサポートしてやる。」


そのヨハネの一言が、一行の不安を取り払ったことは、言うまでもない。


「大魔導士様のサポートなんて……私達、思いっきり戦えますわね!」


ひとり、珍しく興奮するシエラ。

「これこれ、思い切り戦うのはいいが、後先考えずに戦うことだけはしてくれるな。どの戦いに、どんな状況を想定して余力を残すか。それも戦巧者の戦いじゃ。」


ヨハネはそんなシエラを落ち着かせながらも、まんざらでない表情。


そうこうしているうちに、小島へとたどり着く。



「……小舟を止めよ。」


岸に着く前に、舵を取るジェイコフにヨハネは告げる。

「……どうされました?」

問うジェイコフ。ヨハネは答えない。


「……ビビったか?」

冷やかすゼロに平手を見舞い、ヨハネは小島の中央の採掘現場を指さす。


「……手遅れかも知れんの。強大な魔力を感じる。」


シエラの頬を、一筋の汗がつたう。
シエラもまた、その異変に気付いていた。


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