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第10章:禁断の地
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アガレスの幻影が、ゼロの頭上に大剣を振り上げる。
迫りくる、生命の危機。
(この程度の相手に……俺はやられていいのか?)
少し前のゼロであれば、こんなときは身体が硬直して、動けなかったであろう。
しかし、少し前のゼロと今のゼロで決定的に違うもの、それは……。
(何回か負けたからって、それがなんだ!生きているだけでも得じゃねーか。生きていれば、やり直せるし……強くなれる!きっと俺は、あの時より確実に……)
アガレスが復活した時のことを思い出した。
圧倒的な力を感じ、何も出来ないままだったゼロ。
しかし……
(あの時よりも確実に、俺は強くなっている!剣技も……そして心も!!)
ゼロは、もう一度両脚に力を籠める。
恐怖が無いと言えば嘘になる。
今だって、一歩間違えば死を招く、そんな試練。
それでも……。
「一度防いだからって、それがなんだ!俺の奥義は……一度防がれて終わりじゃねぇんだよ!!」
ゼロは、もう一度切っ先を幻影に向け、そして力いっぱい踏み込んだ。
「うっ……うぉぉ……!!」
両脚の骨が軋み、筋肉が千切れてしまいそうなほどの痛み。
それでも、ゼロは勝利に向かい、幻影に向かい飛び込んだ。
「何っ!?」
幻影が驚きの表情を見せた、その時には、ゼロの身体はアガレスの遥か後方にあった。
着地できず、倒れ込むゼロ。
両脚が痙攣して動かない。
それでも、手応えはあった。
「まさか……この私が敗れるとは……。」
アガレスの幻影は、その胴体に巨大な風穴を開け、そのまま崩れ去った。
「はぁ、はぁ……。」
幻影が消えたのを確認すると、ゼロはそのまま仰向けに寝転がる。
「ゼロ……ゼロ!!」
そんなゼロの視界に突然入ってきたのは、シエラだった。
即座に回復魔法を発動し、ゼロの傷を癒していく。
「おう……サンキューな。」
「もう……無茶ばかりして……!!」
「ワリィ。でも……勝ったぜ。」
毎度のこと、戦いの後にはボロボロになるゼロ。
しかし、今回の戦いはそんな中にも清々しさがあった。
今回は、勝った。
戦略的に重要な戦いではなくても、誰かを守る戦いではなくても……・
『勝利』という二文字は、ゼロに大きな自信を与えた。
そして、その自信こそが、ゼロの限界を超えるための鍵だったのだ。
「サンキュ。もう立てる。」
シエラに礼を言い、自分の力だけで立ち上がったゼロは、もう一度祭壇へと向かう。
そこには、突き立った魔剣。
「……どうだ!」
ゼロの自信に満ちた笑み。
魔剣は、しばしの沈黙の後……。
「見事だ。まぁ……歴代の俺の主と比べたら、戦い方も不格好だし能力も低いが……気持ちの強さだけなら負けていないな。……よし、お前を俺の主と認めてやろう。……さぁ、俺を抜け……。」
魔剣を引き抜こうとするゼロに、魔剣が話しかける。
「最後にひとつだけ問おう。……お前は、俺を手にして何を望む?」
それは、これまでのようなゼロを軽んじた口調ではなく、ひとりの主として問うものだった。
ゼロは、少しだけ間を置くが、すぐに……。
「……俺に必要なのは、力。ただそれだけだ。」
そう、きっぱりと言い放った。
「ほう……ただ、純粋に力が欲しいと言うのか。何のために、俺の力を欲するというのだ?」
「そんなこと……まだ考えられねぇよ。誰を守るにも、誰を助けるにも、力がなければ叶わない。だから……俺はただ『力』が欲しい。」
それは、ゼロがこれまでの戦いをもって学んだこと。
魔力があれば、その魔力を磨くことで武器に頼らずともある程度他人のためになったかもしれない。
しかし、そんな育てられる『力』を持たないゼロは、口で何かを守る、助けると言っても力なくしてはそれも叶わないということを痛感した。
だからこそ、魔剣の力という、純粋な力をゼロは求めたのだ。
「面白い……そうだ、魔剣の主たるもの、そのくらい貪欲に力を求める手合いが丁度良い。人のため、世界のためになどと宣うような者は、俺のような魔剣ではなく、聖剣の力を借りればいい……。気に入った、さぁ、俺を抜け。」
そんなゼロのストイックな姿勢が、魔剣は気に入ったのだろう。
ついに、魔剣はゼロを主と認めた。
「……俺に、力を貸してくれ……。」
再度、魔剣の柄に手をかけると、ゼロは思い切って魔剣を引き抜く。
「……え?」
魔剣は、驚くほどすんなりと抜けた。
折れる前の魔剣のような、物質的な重さもまるで感じない。
まるで羽のような軽さ。
「本当に……斬れるんだろうな?」
ぶんぶんと、魔剣を振り回すゼロ。その軽さに剣自体の強度を失ってはいないか心配になったのだ。
「……そこにある岩でも、斬ってみたらよかろう?」
ヨハネが、祭壇の下に転がっていた岩を指さす。
ゼロは頷くと、岩の前に立ち、軽く魔剣を岩に向かて振った。
「嘘……だろ?」
まるで紙でも切るかのように、何の抵抗もなく岩が両断された。
「凄い……。」
ゼロは驚きながらも、身体の底から湧き上がってくる興奮を感じていた。
本当に、強大な『力』を手に入れたゼロ。
「これで……少しはみんなの役に立てるかな……?」
これまで、さんざん迷惑をかけてきた、そう思っているゼロ。
これからが、みんなに恩を返すとき。
「よろしくな……相棒!」
ゼロは、魔剣にそう言った。
迫りくる、生命の危機。
(この程度の相手に……俺はやられていいのか?)
少し前のゼロであれば、こんなときは身体が硬直して、動けなかったであろう。
しかし、少し前のゼロと今のゼロで決定的に違うもの、それは……。
(何回か負けたからって、それがなんだ!生きているだけでも得じゃねーか。生きていれば、やり直せるし……強くなれる!きっと俺は、あの時より確実に……)
アガレスが復活した時のことを思い出した。
圧倒的な力を感じ、何も出来ないままだったゼロ。
しかし……
(あの時よりも確実に、俺は強くなっている!剣技も……そして心も!!)
ゼロは、もう一度両脚に力を籠める。
恐怖が無いと言えば嘘になる。
今だって、一歩間違えば死を招く、そんな試練。
それでも……。
「一度防いだからって、それがなんだ!俺の奥義は……一度防がれて終わりじゃねぇんだよ!!」
ゼロは、もう一度切っ先を幻影に向け、そして力いっぱい踏み込んだ。
「うっ……うぉぉ……!!」
両脚の骨が軋み、筋肉が千切れてしまいそうなほどの痛み。
それでも、ゼロは勝利に向かい、幻影に向かい飛び込んだ。
「何っ!?」
幻影が驚きの表情を見せた、その時には、ゼロの身体はアガレスの遥か後方にあった。
着地できず、倒れ込むゼロ。
両脚が痙攣して動かない。
それでも、手応えはあった。
「まさか……この私が敗れるとは……。」
アガレスの幻影は、その胴体に巨大な風穴を開け、そのまま崩れ去った。
「はぁ、はぁ……。」
幻影が消えたのを確認すると、ゼロはそのまま仰向けに寝転がる。
「ゼロ……ゼロ!!」
そんなゼロの視界に突然入ってきたのは、シエラだった。
即座に回復魔法を発動し、ゼロの傷を癒していく。
「おう……サンキューな。」
「もう……無茶ばかりして……!!」
「ワリィ。でも……勝ったぜ。」
毎度のこと、戦いの後にはボロボロになるゼロ。
しかし、今回の戦いはそんな中にも清々しさがあった。
今回は、勝った。
戦略的に重要な戦いではなくても、誰かを守る戦いではなくても……・
『勝利』という二文字は、ゼロに大きな自信を与えた。
そして、その自信こそが、ゼロの限界を超えるための鍵だったのだ。
「サンキュ。もう立てる。」
シエラに礼を言い、自分の力だけで立ち上がったゼロは、もう一度祭壇へと向かう。
そこには、突き立った魔剣。
「……どうだ!」
ゼロの自信に満ちた笑み。
魔剣は、しばしの沈黙の後……。
「見事だ。まぁ……歴代の俺の主と比べたら、戦い方も不格好だし能力も低いが……気持ちの強さだけなら負けていないな。……よし、お前を俺の主と認めてやろう。……さぁ、俺を抜け……。」
魔剣を引き抜こうとするゼロに、魔剣が話しかける。
「最後にひとつだけ問おう。……お前は、俺を手にして何を望む?」
それは、これまでのようなゼロを軽んじた口調ではなく、ひとりの主として問うものだった。
ゼロは、少しだけ間を置くが、すぐに……。
「……俺に必要なのは、力。ただそれだけだ。」
そう、きっぱりと言い放った。
「ほう……ただ、純粋に力が欲しいと言うのか。何のために、俺の力を欲するというのだ?」
「そんなこと……まだ考えられねぇよ。誰を守るにも、誰を助けるにも、力がなければ叶わない。だから……俺はただ『力』が欲しい。」
それは、ゼロがこれまでの戦いをもって学んだこと。
魔力があれば、その魔力を磨くことで武器に頼らずともある程度他人のためになったかもしれない。
しかし、そんな育てられる『力』を持たないゼロは、口で何かを守る、助けると言っても力なくしてはそれも叶わないということを痛感した。
だからこそ、魔剣の力という、純粋な力をゼロは求めたのだ。
「面白い……そうだ、魔剣の主たるもの、そのくらい貪欲に力を求める手合いが丁度良い。人のため、世界のためになどと宣うような者は、俺のような魔剣ではなく、聖剣の力を借りればいい……。気に入った、さぁ、俺を抜け。」
そんなゼロのストイックな姿勢が、魔剣は気に入ったのだろう。
ついに、魔剣はゼロを主と認めた。
「……俺に、力を貸してくれ……。」
再度、魔剣の柄に手をかけると、ゼロは思い切って魔剣を引き抜く。
「……え?」
魔剣は、驚くほどすんなりと抜けた。
折れる前の魔剣のような、物質的な重さもまるで感じない。
まるで羽のような軽さ。
「本当に……斬れるんだろうな?」
ぶんぶんと、魔剣を振り回すゼロ。その軽さに剣自体の強度を失ってはいないか心配になったのだ。
「……そこにある岩でも、斬ってみたらよかろう?」
ヨハネが、祭壇の下に転がっていた岩を指さす。
ゼロは頷くと、岩の前に立ち、軽く魔剣を岩に向かて振った。
「嘘……だろ?」
まるで紙でも切るかのように、何の抵抗もなく岩が両断された。
「凄い……。」
ゼロは驚きながらも、身体の底から湧き上がってくる興奮を感じていた。
本当に、強大な『力』を手に入れたゼロ。
「これで……少しはみんなの役に立てるかな……?」
これまで、さんざん迷惑をかけてきた、そう思っているゼロ。
これからが、みんなに恩を返すとき。
「よろしくな……相棒!」
ゼロは、魔剣にそう言った。
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