ランブルビースト ~獣が強くて人類滅亡の危機なのでビッチがセックスで戦います~【東京編】

扶桑のイーグル

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荒ぶる獣

4体目 変な研究者

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 残念ながら銃弾自体は青い髪にはじかれてしまったが、注意を逸らすことはできた。
 デイビーズは綺麗な放物線を描いて飛び散った複数の火花をうっとおしそうに見てから、邪魔を排除しようと振り返った。
 その顔は怒りのためにしわが寄り、歪んでいる。ただ怒っているのではなく、憎んでいるようだ。

「……無粋ね」

 デイビーズは二本の針を装甲車に向かって思い切り投げる。浅い弾道。
 針は着弾すると装甲に先端をめり込ませ甲高い金属音を立てたが、あくまで先端だけだ。防弾ガラスならまだしも重機関銃に耐える装甲を抜くことはできず、こちらも有効打にはならない。

 人類と荒獣は静かに向かい合う。冷たくて重い風が青い髪を軽く揺らした。デイビーズは歯をむき出しにして威嚇する。
 装甲車もエンジンをふかし、機関銃の射撃レバーを力強く握りしめた兵士が負けじと睨みつける。

 だが、すぐに装甲車が後退を始めた。建物の陰に隠れようと八つもあるタイヤの半分を曲げて旋回しながら。
 いぶかしがるデイビーズ。その目が異変に気づき身体が避ける前に、廃墟を震わす轟音が鳴り響く。

 皇都機甲部隊の主力、10式戦車の「目」は寸分違わずデイビーズの急所を捉えていた。

 空気を突き破り衝撃波をまとった120mm砲弾が上半身に突き刺さる。細長い徹甲弾は心臓を射抜き、それに留まらずデイビーズの上半身全てを爆轟の如き衝撃で吹き飛ばした。

『クリア』

『機動装甲小隊、出ます』

 一度建物の影に隠れた装甲車が、今度は勢い良く飛び出てくる。
 八輪のタイヤを鳴らし二人の横で急停止すると後部ハッチを開く。中の兵士が飛び出してきて荒い息を上げる二人を手早く回収し、向かってきた時と同じように埃を巻き上げて急加速しその場からそそくさと去っていく。

 急ぎ逃げるようにして皇都へ走っていく二台を、再生の終わったデイビーズが怒りに満ちた目で睨んでいた。



(ここは……)

 白い天井、薄ピンクのカーテン、柵付きのベッド。
 緑が深い眠りから帰ってきた時には既に病院の中だった。ゆっくりと首を左に動かすと、ぐったりとして動かない菜々が見える。

「菜々……」

「……緑、アンタ、生きてたのね」

 菜々は、首は動かさないものの安心したようにゆっくりと声を出す。ぼんやりとした意識の中で、その声はなぜかとても安心できるものだった。

 次いで、音に気づいた看護婦が医師を呼びに行く。だが医師の到着を待つ前に、もう一度深い闇へとまどろんでいった……。





 緑と菜々が青いデイビーズに敗北してから一週間。数度の覚醒を経て完全に回復した二人は、心配症の軍をうとましく思っていた。

「ほんっといつまで寝てろって言い続けんのよ! 馬鹿じゃないの!?」

「あまり声を荒らげるな……だが、その意見には賛同する」

 軍は皇都最強と言われる二人の事を心配し、最後の覚醒から三日も休ませていた。もし仮に彼女たちを調子の回復しない間に戦わせて負けたりでもしたら、責任問題になってしまう。
 負けるだけならまだいい。死亡しようものなら、大きな戦力減となる上他のハンターや兵士の士気も落ち、最強の二人がいるから安心! などとうたう軍の面目も丸つぶれだ。
 それは二人も分かっている。しかし、本人が大丈夫と言っているのに軍は信用してくれないのだ。

 そのせいか菜々は「あのデイビーズをやらせろ!」と騒ぎ、緑は「体が鈍る」と苦情を垂れ流す。一旦は落ち着いた菜々がまた騒ごうとした瞬間だった。
 ドアが横っ飛びに飛んで、大きな音を立てた。二人の目線がそちらに集まる。そこにいたのは果たして……。

「三瓶くん! サラダくん! 今日は記念日だぞ喜べ祝え! はっはっは!」

「なぜお前がここに……」

「ここの軍ってショットガンあったっけ。無いなら戦車でいいや。コイツの頭吹き飛ばす」

 ボロボロの白衣を着て、騒々しくドアを開けた研究者風の男。
 ブラウンゴールドの髪を短く切りそろえてはいるが、髭はあちこちに生えていておまけにちょっと臭う。そのせいかもっと若いはずなのに40代にも見える。

 やばいヤツ、白い死神、荒獣信仰者、クソメガネ……呼ばれ方は無数にあるが、少なくとも好意を持った呼び方は存在しない。

 坂場八雲さかばやくも。荒獣研究所主任であり、放浪野郎で最も解雇に近い男。更にいえば時々クソ五月蝿うるさい。

「分からないのかねっ! 今日は新種の荒獣が発見されたのだ! いやあ愉快愉快愉快愉快! フゥーハッハッハー!」

「アサルトライフルでいい。私もコイツを穴だらけにしたい」

「こうなりゃ素手よ。殴り殺す」

 やけに人を苛立たせる八雲に一発拳を入れたくなったのか、点滴を自ら外しながら起き上がる二人。その二人をなだめるように八雲は両手を前に出した。

「まあまあ落ち着きたまえ。今回は君達に朗報を持ってきた」

「お前の言う朗報が朗報であった試しが無いのだが?」

「右に同じく」

「そう言わずに聞いてくれたまえよ! ……君たちが戦って負けた相手は、なんとデイビーズの女王様だ! コア付き、ちょー強い! 憧れるねえ!」

 八雲は突き出した手を今度は左右に広げ、力強く宙を突く。どうしても興奮を隠し切れない様子だ。
 それがまた苛立たせたのか、ベッドから完全に降りた二人は細いながらにもある程度鍛えられた腕に力を込め八雲に近づく。

「負けたを強調したような気がした。殺す」

「やっぱ朗報じゃなかった殺す」

「いやいや、落ち着いてくれ。それは別に重要ではないんだ。いや、重要ではあるんだけれどもね、君達にとっては今から言う事の方が重要に違いない。……これ、何かな」

 八雲がポケットから袋に包まれた小さな針を取り出す。針は蛍光灯の下でキラリと青く光った。それを見た瞬間、緑の目が驚きに見開かれる。

「それは……あのデイビーズの毛だ!」

「ご名答。ここに搬送されてきた三瓶くんの手にしっかりと握られていた。それに気づいた僕は、この針を抜き取って鑑定したんだ」

「それはつまり私に許可なく触ったということだな。今すぐ消し去ってやる」

 オーバーな表現をしてはいるのだが、ついこの前まで皇都から離れて山の中で暮らしており、帰ってきてから一度も風呂で見かけていないという噂の男が自分に触れたという事実はあまり受け入れたくはないものである。
 なぜこんなのに限って荒獣に襲われて死なないのかと疑問を持ちつつ、緑は拳を鳴らした。

「止めてくれよ……まあとりあえず話は聞いてくれたまえ。この針だが、毒が含まれていた。強烈な淫毒だ。それも二種類。即効性と、遅効性。僕はまず、これを兵器に転用できないかと考えた。僕の作った兵器で荒獣が悶え苦しむ様を見られたら僕は死んでも構わないからね! ……しかし、この毒を荒獣に撃っても効果は無かった。残念だったよ。次に、僕は薬を作れないかと考えた。この毒のみを消す薬なら、簡単に作れるはずだと。そして! 完成したのがこれさ!」

 これまたわちゃわちゃと手を広げたり肩をすくめたりしてから、もう一度ポケットに手を突っ込み別のものを取り出す。今度は小さなプラスチックの容器に入った青い液体だった。

「これは飲み薬だけどね、錠剤やカプセルのものを開発する予定だよ。それと、応用して汎用性を高めるつもりでもある。まあ取り敢えず飲んでみてくれ」

「……」

 信用ならない、しかも臭い男に毒々しい色の薬を渡されて飲むのを躊躇とまどう緑。

 だが、一応この男は天才でありエリート。薬だと言うからには間違いなく薬なのだろうと言い聞かせ、意を決して飲んでみる。

 無味無臭の、見た目も感触もドロりとした液体が胃の中に収まった。味も匂いもないのにやけに重く飲みにくく、緑は確かに錠剤タイプを開発すべきだろうと口には出さないものの心の中で思った。

「では次に……ブスッ」

 八雲は緑が薬を飲み込んだことを確認すると素早く白くて細い手を取り手首をアルコールで一拭きした後、袋から取り出していた針を刺した。
 痛みにびくりと肩が震える。

「いっ……なんでいきなり刺した……?」

 緑はいきなりの行為に若干の殺意を抱く。と同時に、消毒用アルコールを浸した綿が本人の格好とは逆に清潔な状態のまま出てくる白衣のポケットは四次元空間にでも繋がっているのだろうかと不思議に思う。
 対して八雲は特に何も悪いと思っていないようだった。

「あれ、痛かった?」

「貴様にも刺してやろうか」

「遠慮しておこう。地獄の苦しみを味わいながら身体を溶かされて死ぬ趣味は無いからね。で、効果の程は」

「何も感じないな」

 緑は八雲の言葉の最後が真剣なものだということを察すると、しっかり自分の胸や股を服の上から軽く叩いたり擦ったりして感じないことを確認し目を閉じて頷いた。
 いつもふざけてはいるが、珍しく真剣なときの彼まで茶化すのは良くない。そういう時の八雲は、本気で他人のことを考えているのだ。

「それは良かった! 人体実験成功。では、早速量産に取り掛かるとするよ……怖い女の子に殺されないうちにね。じゃあまた!」

 薬の効果を確かめると、真剣モードを解いて素早く病室を出ていく八雲。その後ろをゆっくりと付いていく二人。歩いた場所の空気が殺気立って揺らめいているのは気のせいではないだろう。

「貸してくれ」

「貸しなさい」

「ちょっと、何を……」

 たまたま廊下を歩いていた二人の兵士を見つけると、銃を勝手に拝借した。ズシリと重い金属塊を、膝立ちで支える。
 一応、彼女たちのようなハンターも射撃訓練は受けるのだ。滅多に使わないし合格する必要もないのだが、ごく稀に射撃機会は訪れるため形式的に受けることを義務付けられている。

例えば、最後に言うだけ言って走り去る研究者の背中にゴム弾をめり込ませて制裁を加えたい時など。

「ゴム弾?」

「ご、ゴムですけど…」

「よし……待て坂場ぁーっ!」

「はーっはっはっは! サラダバー!」

「どぅあれがサラダバーよ!」

 仮に流れ弾がだれかに当たっても死なないのをいいことに、二人は廊下で逃げる白衣に向けて銃を乱射したのだった。
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