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地獄の黒狼
46体目 ヒマワリ週間2
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四日目の朝。病室から出られた楽と何とも調子の戻らない奈津美、楽にくっついて離れないレモンとどこか暗い顔の菜々が一緒に食事を取っていると、緑が食堂に入ってきた。
しかし菜々を見た瞬間泣き出し、周りの人間を押しのけ逃げ去ってしまう。菜々もその様子を見て、罰が悪そうに下を向いた。
「菜々くん、何したの……」
「いきなり重症ね……だねえ……」
「二回目の喧嘩ですか?」
元々喧嘩して元気は無かったとは言え、あまりの変わりように全員驚く。
「……昨日、緑が手紙を書いてくれたの」
(ああ、あのアドバイスを実行したのか)
楽は、それで余程手紙に不備があって菜々が何か怒ったのかと思い、僅かな思案ののち問いかけた。
「良かったじゃないか。それだけ反省してくれてるって事だろう?」
「……」
菜々は答えず俯いたままだ。その姿に全員の不安が募る。
「菜々……ちー、まさかとは思うけど……」
「……」
「菜々さん。何をしたかは知りませんが、言わないと」
「……わ、私……頭の中ぐちゃぐちゃになって……気づいたら……て、手紙……を……破って……あいつの……部屋の前に……」
怒られる子犬のように震えながら、恐れるように言葉を紡ぐ。自分で自分のした事に驚いているようだった。
楽たち三人は一瞬だが絶句した。
「菜々くん!」
「菜々、本気で怒ってるなら別だけど、そうじゃないんでしょ? それは酷くない?」
「それは菜々さんが反省するべきですね」
「うっ……」
三人に責められ、菜々まで目に涙を浮かべてしまう。楽は慌てて次の策を提示した。
「できる事なら、今日謝りに行った方がいいよ。……じゃないと、一生このままになっちゃうかも」
「そっ……!」
最悪の可能性を目の前で言われ、怯える菜々。
「それは……やだ……! 一週間なら我慢できるけど……それ以上は一日でも我慢出来ない……なのに一生なんて……」
「尚更早く行くべきだね」
「いっ、今すぐ行ってくる!」
楽の言葉が効いたのか、足早に食器を下げて食堂から出ていく。
「……これで緑が許すかどうかになってしま……なっちゃったわね……」
「立場逆転……面倒な事になったぞ……」
「大丈夫ですかね……」
三人は心配そうに菜々を見送った。
「緑、緑出てきて!」
インターホンを何度も鳴らす。しかし傷ついてしまった彼女は出てこない。気配すら隠しているように、ただ虚しく電子音が空へと消えていくだけだ。
「……だめ、なの?」
菜々は諦め、日を改めてもう一度訪問する事にした。
五日目。緑は食堂に来ることさえなく、部屋に閉じこもっているようだ。
「……昨日、出てこなかったのかい?」
「ええ……どうしよう……」
「寝てたとか、気を紛らわすために音楽聴いてたとか、そういうのもあるからもう一度やってみよー?」
「そ、そうね。そうかもしれないわね。……でも、食べに来ないのは心配……」
「なら、ご飯を持って行ってあげれば良いんじゃないですか? 気持ちも伝わりますよ!」
「ありがとうレモン。そうするわ」
良き友に感謝し、菜々は食堂から緑の分の食事を持ち出し部屋の前に立つ。インターホンが軽快に鳴るも、反応は無い。
「緑……お願い……緑!」
昨日と同じく何度も鳴らすが、返事は帰ってこなかった。
「嫌われたのね……当たり前よ、あんな事して……緑、ご飯だけここに置いておくわ……」
震える声を振り絞って、聞こえるかどうかは分からないが食事を置いておく事だけは伝える。そうして菜々は立ち去った。
「……なんで」
散々泣き喚き、菜々に顔も合わせられなくなった少女は、自分の部屋の前に置かれた食事を見て疑問を持つ。
怒られた、嫌われた、憎まれた。そのはずなのに、なぜ食事を持ってきてくれたのか。
意味が、分からなかった。
六日目。菜々は手紙を返す事を決意する。
自分が手紙と共に引き裂いてしまった仲を直すために、何を書けば良いか分からないまま筆を取る。
全て携帯で済ませるご時世、手紙など書きなれていないので恐ろしく手間と時間がかかる。それでも、頑張って書き連ねる。
書けば書くほどに分かる緑の辛さ。どんな思いで書いてくれたのか、自分がどれほど酷いことをしてしまったのか、一文字毎に強く感じてしまい次第に前も見えなくなってくる。
「ごめんなさい……緑……ごめ……」
手が止まり、涙で紙が駄目になってしまう。
結局、菜々がその手紙を書き終える事は無かった。
七日目。もう一度、直接緑に会いにいく。
インターホンを鳴らす。当然の様に出ないが、今日は違った。菜々はどうしてもこの日で決めたかった。緑に全てを伝えて、真実を知って欲しかった。
何度も何度でも、鳴らす。気持ちとは裏腹に楽しげな音が鳴り響き、神経を逆なでする。
何十回目か、遂に折れたのか中から音がして扉が開いた。
「菜々……」
「緑……」
顔を合わせるのさえ数日ぶり。何を話していいか分からなくなり、固まってしまう。
先に沈黙を壊したのは緑だった。
「なぜだ……そんなに、私は酷いことを言ったのか……」
「み、緑?」
「会いに来たということは! 直接私を叱咤したかったからだろう!」
てっきり緑が怒っているか、嫌っているかのどちらかだと思っていた菜々は面食らう。とんでもない。彼女は……怯えていたのだ。
キツい言葉を投げつけられると思っていたのに、実際には僅かな温情にもすがる様な切羽詰まった声が肺を締め付ける。
「嫌われているのは良くわかった! 何を言われてもいい! ……だけど、だけど最後だけ! ……あの言葉が菜々をどれだけ……傷付けてしまったのか……それだけ……教えて……くれないか……」
途中から涙を流し、嗚咽と共に言葉を吐き出す。
菜々の考えてきた謝罪の言葉など吹き飛んでしまった。胸がいっぱいになり、張り裂けそうなほど痛くなる。
自分の行動がどんな思いをさせていたのか、この瞬間に、やっと本当に理解した。同時に愕然として何も言えなくなり、緑を抱きしめた。そうするしか無かった。そうすることしかできなかった。
「菜……々……?」
「緑、もう……いいの、もういいのよ……」
「菜々……菜々ぁ……っ! うああああああー!」
胸に抱いた緑の目からは次々に涙が溢れ出し、胸元を濡らしていく。菜々はそれに構うこと無く、まるで聖母のように長い間緑を優しく抱いていた。
「落ち着いた?」
「……ん、落ち着いた」
部屋に入った二人は、ベッドに腰をかける。
緑は先よりも幾分か安心しているようで、このまま許すだけでも何の疑いもなく喜んでくれるだろう。
そう、菜々に自分が何をしたのかを言う必要は決して無かった。甘い誘惑に引かれそうになる。このまま、何を恐れることもなく幸せになれる。
「ねえ、緑。一週間も経ったけど、反省してくれたのよね」
「もっ、もちろんだ! ……本当にすまなかった」
「いいのよ。許してあげる」
ほら、何も疑わずに笑顔を見せた。チョロいにも程があるってものよ。
「ありがとう……私、どうなるかと思って……怖くて……」
「……」
許して「あげる」ですって?
いつも通りの「上に居なきゃ落ち着かない」自分が出てるのがよーく分かるってものよ。あんたも少しは疑いなさいよね……。いいわ、誘惑なんかに、負けない。
「これで、私達元通りに……」
「緑」
「……菜々?」
決意を固めた表情の菜々を見て、不思議に思う緑。
「今度は、私が謝る番よ」
「菜々は何もしてな……」
純粋に、ただ自分だけが悪かったと思い込んでいる緑の言葉を強く遮る。
「私はっ! ……自己中って言われた時、そこまで怒っていなかったの。次の日には許してた。けど、色々反省してもらいたくて、一週間口を聞かないって決めたの」
「……それは私が悪いんじゃないか」
菜々は首を横に振る。
「でも、あの手紙で全部……許せた……はずなのに、私は……緑の書いた手紙を破って……何でそんなことしたのか自分でも分からないけど……」
いつの間にか握りしめられていた拳がブルブルと小刻みに震えた。
「きっとその時は虐めてやろうって……緑より上にいるのが気持ちよくって……緑が悪いんだからって……どう? 軽蔑した? 自分が悩んでる間、私がそんな風に思ってたって!」
自白をしている間、ずっと肺を締め付けられるような感覚が菜々を襲う。身体全体が寒気に当てられたように震え、力を失っていく。
「……菜々」
「いいわ、分かってる。あんたが……緑がした事なんか私のやったことに比べたら、責めるのもちゃんちゃらおかしいって事くらい……っ!」
我慢しきれずに大粒の涙が零れ、カーペットに染みを作っていく。
「本当に謝るのは……私の……方よっ!」
自分はなんて酷いことを言ってきたのだろうか。これから何を言われるのだろうか。どんな仕打ちを受けるのだろうか。
叩かれるかもしれない。忌み嫌われるかもしれない。ずっと陰口を言われるかもしれない。なにより、もう友達に戻れないかもしれない。一生、ずっとこの先、死ぬまで。
次々に想像できてしまうそれらにあごが震え額に汗が浮かぶ。泣いたら許してもらえるとか、そういうものでは無いと分かっていても涙が止まらない。
罪悪感で満たされた心はズキズキといつまでも悲鳴を上げ続けている。まるで内蔵まで冷たいメスが入れられたような痛みがギリギリと身体を締め上げる。
何秒、何十秒経ったろうか。何年かにも思えたそれは、不意に終わりを告げた。
目の前が暗くなり息苦しさを感じる。それでいて、柔らかくて暖かくて、凄く優しかった。
「緑……?」
若干掠れた声で、彼女の名前を呼ぶ。
「ありがとう、菜々」
気がつけば胸の中に抱かれていた。
「なんで……」
「全部、勇気を出して言ってくれたから。辛かったことを全部吐き出してくれたから。だから、そう、ありがとう」
「別に私……感謝されるような事っ……してない……っ!」
「隠しても私は分からなかった。それを言ってくれたんだから、私は嬉しい」
そう言われてからは涙が止まらなかった。ついさっき泣いていた緑よりも激しく泣きじゃくりながら、これまでの辛さと寂しさを晴らすように、泣いた。
子供に戻ったかのように、いつまでも泣いていた。
しかし菜々を見た瞬間泣き出し、周りの人間を押しのけ逃げ去ってしまう。菜々もその様子を見て、罰が悪そうに下を向いた。
「菜々くん、何したの……」
「いきなり重症ね……だねえ……」
「二回目の喧嘩ですか?」
元々喧嘩して元気は無かったとは言え、あまりの変わりように全員驚く。
「……昨日、緑が手紙を書いてくれたの」
(ああ、あのアドバイスを実行したのか)
楽は、それで余程手紙に不備があって菜々が何か怒ったのかと思い、僅かな思案ののち問いかけた。
「良かったじゃないか。それだけ反省してくれてるって事だろう?」
「……」
菜々は答えず俯いたままだ。その姿に全員の不安が募る。
「菜々……ちー、まさかとは思うけど……」
「……」
「菜々さん。何をしたかは知りませんが、言わないと」
「……わ、私……頭の中ぐちゃぐちゃになって……気づいたら……て、手紙……を……破って……あいつの……部屋の前に……」
怒られる子犬のように震えながら、恐れるように言葉を紡ぐ。自分で自分のした事に驚いているようだった。
楽たち三人は一瞬だが絶句した。
「菜々くん!」
「菜々、本気で怒ってるなら別だけど、そうじゃないんでしょ? それは酷くない?」
「それは菜々さんが反省するべきですね」
「うっ……」
三人に責められ、菜々まで目に涙を浮かべてしまう。楽は慌てて次の策を提示した。
「できる事なら、今日謝りに行った方がいいよ。……じゃないと、一生このままになっちゃうかも」
「そっ……!」
最悪の可能性を目の前で言われ、怯える菜々。
「それは……やだ……! 一週間なら我慢できるけど……それ以上は一日でも我慢出来ない……なのに一生なんて……」
「尚更早く行くべきだね」
「いっ、今すぐ行ってくる!」
楽の言葉が効いたのか、足早に食器を下げて食堂から出ていく。
「……これで緑が許すかどうかになってしま……なっちゃったわね……」
「立場逆転……面倒な事になったぞ……」
「大丈夫ですかね……」
三人は心配そうに菜々を見送った。
「緑、緑出てきて!」
インターホンを何度も鳴らす。しかし傷ついてしまった彼女は出てこない。気配すら隠しているように、ただ虚しく電子音が空へと消えていくだけだ。
「……だめ、なの?」
菜々は諦め、日を改めてもう一度訪問する事にした。
五日目。緑は食堂に来ることさえなく、部屋に閉じこもっているようだ。
「……昨日、出てこなかったのかい?」
「ええ……どうしよう……」
「寝てたとか、気を紛らわすために音楽聴いてたとか、そういうのもあるからもう一度やってみよー?」
「そ、そうね。そうかもしれないわね。……でも、食べに来ないのは心配……」
「なら、ご飯を持って行ってあげれば良いんじゃないですか? 気持ちも伝わりますよ!」
「ありがとうレモン。そうするわ」
良き友に感謝し、菜々は食堂から緑の分の食事を持ち出し部屋の前に立つ。インターホンが軽快に鳴るも、反応は無い。
「緑……お願い……緑!」
昨日と同じく何度も鳴らすが、返事は帰ってこなかった。
「嫌われたのね……当たり前よ、あんな事して……緑、ご飯だけここに置いておくわ……」
震える声を振り絞って、聞こえるかどうかは分からないが食事を置いておく事だけは伝える。そうして菜々は立ち去った。
「……なんで」
散々泣き喚き、菜々に顔も合わせられなくなった少女は、自分の部屋の前に置かれた食事を見て疑問を持つ。
怒られた、嫌われた、憎まれた。そのはずなのに、なぜ食事を持ってきてくれたのか。
意味が、分からなかった。
六日目。菜々は手紙を返す事を決意する。
自分が手紙と共に引き裂いてしまった仲を直すために、何を書けば良いか分からないまま筆を取る。
全て携帯で済ませるご時世、手紙など書きなれていないので恐ろしく手間と時間がかかる。それでも、頑張って書き連ねる。
書けば書くほどに分かる緑の辛さ。どんな思いで書いてくれたのか、自分がどれほど酷いことをしてしまったのか、一文字毎に強く感じてしまい次第に前も見えなくなってくる。
「ごめんなさい……緑……ごめ……」
手が止まり、涙で紙が駄目になってしまう。
結局、菜々がその手紙を書き終える事は無かった。
七日目。もう一度、直接緑に会いにいく。
インターホンを鳴らす。当然の様に出ないが、今日は違った。菜々はどうしてもこの日で決めたかった。緑に全てを伝えて、真実を知って欲しかった。
何度も何度でも、鳴らす。気持ちとは裏腹に楽しげな音が鳴り響き、神経を逆なでする。
何十回目か、遂に折れたのか中から音がして扉が開いた。
「菜々……」
「緑……」
顔を合わせるのさえ数日ぶり。何を話していいか分からなくなり、固まってしまう。
先に沈黙を壊したのは緑だった。
「なぜだ……そんなに、私は酷いことを言ったのか……」
「み、緑?」
「会いに来たということは! 直接私を叱咤したかったからだろう!」
てっきり緑が怒っているか、嫌っているかのどちらかだと思っていた菜々は面食らう。とんでもない。彼女は……怯えていたのだ。
キツい言葉を投げつけられると思っていたのに、実際には僅かな温情にもすがる様な切羽詰まった声が肺を締め付ける。
「嫌われているのは良くわかった! 何を言われてもいい! ……だけど、だけど最後だけ! ……あの言葉が菜々をどれだけ……傷付けてしまったのか……それだけ……教えて……くれないか……」
途中から涙を流し、嗚咽と共に言葉を吐き出す。
菜々の考えてきた謝罪の言葉など吹き飛んでしまった。胸がいっぱいになり、張り裂けそうなほど痛くなる。
自分の行動がどんな思いをさせていたのか、この瞬間に、やっと本当に理解した。同時に愕然として何も言えなくなり、緑を抱きしめた。そうするしか無かった。そうすることしかできなかった。
「菜……々……?」
「緑、もう……いいの、もういいのよ……」
「菜々……菜々ぁ……っ! うああああああー!」
胸に抱いた緑の目からは次々に涙が溢れ出し、胸元を濡らしていく。菜々はそれに構うこと無く、まるで聖母のように長い間緑を優しく抱いていた。
「落ち着いた?」
「……ん、落ち着いた」
部屋に入った二人は、ベッドに腰をかける。
緑は先よりも幾分か安心しているようで、このまま許すだけでも何の疑いもなく喜んでくれるだろう。
そう、菜々に自分が何をしたのかを言う必要は決して無かった。甘い誘惑に引かれそうになる。このまま、何を恐れることもなく幸せになれる。
「ねえ、緑。一週間も経ったけど、反省してくれたのよね」
「もっ、もちろんだ! ……本当にすまなかった」
「いいのよ。許してあげる」
ほら、何も疑わずに笑顔を見せた。チョロいにも程があるってものよ。
「ありがとう……私、どうなるかと思って……怖くて……」
「……」
許して「あげる」ですって?
いつも通りの「上に居なきゃ落ち着かない」自分が出てるのがよーく分かるってものよ。あんたも少しは疑いなさいよね……。いいわ、誘惑なんかに、負けない。
「これで、私達元通りに……」
「緑」
「……菜々?」
決意を固めた表情の菜々を見て、不思議に思う緑。
「今度は、私が謝る番よ」
「菜々は何もしてな……」
純粋に、ただ自分だけが悪かったと思い込んでいる緑の言葉を強く遮る。
「私はっ! ……自己中って言われた時、そこまで怒っていなかったの。次の日には許してた。けど、色々反省してもらいたくて、一週間口を聞かないって決めたの」
「……それは私が悪いんじゃないか」
菜々は首を横に振る。
「でも、あの手紙で全部……許せた……はずなのに、私は……緑の書いた手紙を破って……何でそんなことしたのか自分でも分からないけど……」
いつの間にか握りしめられていた拳がブルブルと小刻みに震えた。
「きっとその時は虐めてやろうって……緑より上にいるのが気持ちよくって……緑が悪いんだからって……どう? 軽蔑した? 自分が悩んでる間、私がそんな風に思ってたって!」
自白をしている間、ずっと肺を締め付けられるような感覚が菜々を襲う。身体全体が寒気に当てられたように震え、力を失っていく。
「……菜々」
「いいわ、分かってる。あんたが……緑がした事なんか私のやったことに比べたら、責めるのもちゃんちゃらおかしいって事くらい……っ!」
我慢しきれずに大粒の涙が零れ、カーペットに染みを作っていく。
「本当に謝るのは……私の……方よっ!」
自分はなんて酷いことを言ってきたのだろうか。これから何を言われるのだろうか。どんな仕打ちを受けるのだろうか。
叩かれるかもしれない。忌み嫌われるかもしれない。ずっと陰口を言われるかもしれない。なにより、もう友達に戻れないかもしれない。一生、ずっとこの先、死ぬまで。
次々に想像できてしまうそれらにあごが震え額に汗が浮かぶ。泣いたら許してもらえるとか、そういうものでは無いと分かっていても涙が止まらない。
罪悪感で満たされた心はズキズキといつまでも悲鳴を上げ続けている。まるで内蔵まで冷たいメスが入れられたような痛みがギリギリと身体を締め上げる。
何秒、何十秒経ったろうか。何年かにも思えたそれは、不意に終わりを告げた。
目の前が暗くなり息苦しさを感じる。それでいて、柔らかくて暖かくて、凄く優しかった。
「緑……?」
若干掠れた声で、彼女の名前を呼ぶ。
「ありがとう、菜々」
気がつけば胸の中に抱かれていた。
「なんで……」
「全部、勇気を出して言ってくれたから。辛かったことを全部吐き出してくれたから。だから、そう、ありがとう」
「別に私……感謝されるような事っ……してない……っ!」
「隠しても私は分からなかった。それを言ってくれたんだから、私は嬉しい」
そう言われてからは涙が止まらなかった。ついさっき泣いていた緑よりも激しく泣きじゃくりながら、これまでの辛さと寂しさを晴らすように、泣いた。
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