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スピードガールズ
83体目 スピードガールズトレーニングact.8
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四台のスポーツカーが深い森の中を疾走していた。
甲高いエンジンの叫び声が静寂を切り裂き、流線型の躯体が靄(もや)をかき回して艶やかに光りながら走り抜ける。鳥よりも速く、チーターよりも滑らかに駆動する。
煌々と輝くLEDライトが薄暗い空間を二対の刃となって切り裂く。
先の見えないブラインドコーナーとバンピーな路面が続いて車体が跳ね、精神状態は極限まで研ぎ澄まされていた。
刹那……。
「あああああああーーー……」
どこかでスピンし、コース外に放り出されたランエボがクラッシュする音が聞こえてきた。
「良ちゃんうるさい」
やる気と集中力が削がれ、全体の速度が落ちる。更に奈津美が苦言を呈した。
「んだと? 俺じゃなくて曲がんねえこいつが悪い」
「あー、車のせいにするとかカッコ悪ぅ。しかもエボに乗っておきながらそれはないよ」
「うっせえ」
失敗するのが不満で、良太郎はぶっきらぼうに返した。
「踏み込みはいいのですが、そのせいでハンドル捌きが明らかに間に合っていないのです。速度を落としてみてはいかがでしょうか」
「それがよくわっかんねえんだよなあ」
誠一郎が原因と解決案を提示してみるが、本人が意識できなければどうしようもない。
「アクセル緩めればいいんだよ」
「緩めてるはずなんだよ」
「じゃあブレーキ」
「踏んでんだよ」
「じゃあやっぱ遅いんだ」
「どっから踏めばいいのかよく分かんねえ」
「困ったなあ」
いくら奈津美と誠一郎で教えてもスピードを出しすぎてクラッシュするので、三人とも困り果ててしまった。
「怖いっていう感情はないの?」
「んなもん慣れた。本気で怖えのは死ぬ時だけだ」
機嫌も悪いのか、反省する気もなさそうだ。ランエボがスタート地点に現れても走る気は無く、その場に留まっている。
「んー……どう言えば分かってくれるのかなあ」
「分かんねえよ。分かんねえから覚えていくだけだ」
開き直る良太郎に奈津美は一つ、聞いてみることにした。
「ねえ、良ちゃんは……スナイパー、なんだよね?」
「は?」
「狙撃はどうやって覚えたの?」
「それと走りになんの関係があんだ?」
「何か共通点が見つからないかなって」
良太郎は奈津美の意図を理解したようで、次いであまり期待していなさそうな口調で、ただし自慢げに自らの能力を話し始めた。
「……あー、そうだな。言っちゃなんだが、俺の狙撃は天才だ。敵の未来位置が『視える』んだよ」
「見える?」
「そうだ。敵がいて、その先に、銃弾が届く時にいる敵の位置が別で視える」
「んんん? つまり、敵の実体とは別に未来の敵の位置が見えるってこと?」
一度では意味が分からなかった奈津美が反芻して聞き直すと、呆れたような声が返ってきた。
「そう言ってるだろ」
「はー……キモ」
「キモ……てめえケンカ売ってんのか」
「褒め言葉だよ」
思わず出た言葉を慌てて、ただしそんな素振りは見せずに訂正する奈津美。運よく良太郎は騙されてくれたようだ。
目だけは見えないのをいいことにキョロキョロと動かしていたが。
「本当か?」
「本当。てか、それ使えるじゃん」
「何にだ」
「何って、ドライビングテクニック」
軽く返ってきた言葉に、良太郎は眉をしかめ口を半開きにした。
「……イマイチわかんねえな。言っとくが、俺は自分の車の未来位置は見えてないぞ?」
「見えるように練習するんだよ」
「あー、悪かった。お前にマトモな答えを期待した俺が悪かった」
さも当然かのように言った言葉をマトモでないと評価され、奈津美は頬を膨らませる。
「なにさー。言っておきますけどね、上手い人ほど自分の車の未来位置を予測して動かすんだからねー。今からドリフト全種類できるまで帰れま10」
「無茶言うな」
良太郎が抗議するが、意に介さず今度は無言で走り続ける。落としていた速度も上げ始めた。
既にそこそこのスピードが出ていたにも関わらずスムーズに加速していく。地面に躯体を押し付けて、エンジンの回転数を上げて滑走する。
けたたましくは唸らない。周りよりも一段低く、豹のように。
獲物を狙う強気な女のように。
「……ちっ、分かったよ。言う通りやってやる」
奈津美が返事しないと見ると、良太郎は抵抗を諦めた。
二人の押し問答が終わると、今まで黙っていた緑と奈々が奈津美に言葉をかける。
「奈津美……」
「もうそろそろ……」
「ん? 何? ……あっ、もうこんな時間なんだ」
画面右上の時計は早くも16:30を示しており、食堂が開き始める事を告げていた。
「うむ。いい加減部屋に戻らねばならないと思う」
「あー、良ちゃんのドリフト見たかったのにぃー! えーもうー!?」
「仕方ないわよ」
奈々がごねる奈津美を宥めた。
「ぶー。分かったよ……終わり方は?」
「左上のメニュー開いて、シャットダウン」
「おけ。じゃあ良ちゃんだけ帰れま10だからね。絶対だからね!」
「ふざけんな」
奈津美は最後に釘を刺してゲームを終わりにする。三人の目の前が暗くなり、現実感が戻ってきた。
「……」
ヘッドセットを外し、天井を見上げても平衡感覚が戻るまでに数秒を要し、それから身体を起こして……。
「やっほー!」
「えっと……」
立ち上がろうとしたら、何故かそこに針金西がいた。終わるのを待っていたのだろうか。
「何でいるの」
「何でいるんだ?」
「何してるのよ」
「はいはーい! 疑問は色々あると思うんだけど、とりあえず一つだけ質問させて。……乗ってみて、不満があるのはどこ? 一人一つだけ答えて」
疑問を遮って質問で返す。三人は顔を見合わせた後、同時にこう答えた。
「「「馬力」」」
「オッケー! じゃあ馬力上げておくね! まったねー!」
西は変わらないハイテンションのまま、部屋から逃げるように出ていってしまった。
「待て! 速い……」
「結局、何してたのか良く分からなかったわね」
「……んー、まあいいや。それよりご飯食べよー?」
「……賛成」
「私も。お腹すいちゃったわ」
三人の少女は、疑問より空腹を優先して片付けることにしたようだった。
「ドリフト全種類できるまで帰れま10……か。ふざけてんな」
「できそうですか?」
「あ?」
良太郎は誠一郎の心配そうな声に、不満げに返事する。
「ったりめーだろお前。俺様を誰だと思ってんだ。マジで今日中に終わらせてやるよ」
「今度は自信がありますね」
「ふ……まあな」
良太郎は目の前にぼんやりと見える白い幽霊のような塊を意識しながら、顔に笑みを浮かべた。
甲高いエンジンの叫び声が静寂を切り裂き、流線型の躯体が靄(もや)をかき回して艶やかに光りながら走り抜ける。鳥よりも速く、チーターよりも滑らかに駆動する。
煌々と輝くLEDライトが薄暗い空間を二対の刃となって切り裂く。
先の見えないブラインドコーナーとバンピーな路面が続いて車体が跳ね、精神状態は極限まで研ぎ澄まされていた。
刹那……。
「あああああああーーー……」
どこかでスピンし、コース外に放り出されたランエボがクラッシュする音が聞こえてきた。
「良ちゃんうるさい」
やる気と集中力が削がれ、全体の速度が落ちる。更に奈津美が苦言を呈した。
「んだと? 俺じゃなくて曲がんねえこいつが悪い」
「あー、車のせいにするとかカッコ悪ぅ。しかもエボに乗っておきながらそれはないよ」
「うっせえ」
失敗するのが不満で、良太郎はぶっきらぼうに返した。
「踏み込みはいいのですが、そのせいでハンドル捌きが明らかに間に合っていないのです。速度を落としてみてはいかがでしょうか」
「それがよくわっかんねえんだよなあ」
誠一郎が原因と解決案を提示してみるが、本人が意識できなければどうしようもない。
「アクセル緩めればいいんだよ」
「緩めてるはずなんだよ」
「じゃあブレーキ」
「踏んでんだよ」
「じゃあやっぱ遅いんだ」
「どっから踏めばいいのかよく分かんねえ」
「困ったなあ」
いくら奈津美と誠一郎で教えてもスピードを出しすぎてクラッシュするので、三人とも困り果ててしまった。
「怖いっていう感情はないの?」
「んなもん慣れた。本気で怖えのは死ぬ時だけだ」
機嫌も悪いのか、反省する気もなさそうだ。ランエボがスタート地点に現れても走る気は無く、その場に留まっている。
「んー……どう言えば分かってくれるのかなあ」
「分かんねえよ。分かんねえから覚えていくだけだ」
開き直る良太郎に奈津美は一つ、聞いてみることにした。
「ねえ、良ちゃんは……スナイパー、なんだよね?」
「は?」
「狙撃はどうやって覚えたの?」
「それと走りになんの関係があんだ?」
「何か共通点が見つからないかなって」
良太郎は奈津美の意図を理解したようで、次いであまり期待していなさそうな口調で、ただし自慢げに自らの能力を話し始めた。
「……あー、そうだな。言っちゃなんだが、俺の狙撃は天才だ。敵の未来位置が『視える』んだよ」
「見える?」
「そうだ。敵がいて、その先に、銃弾が届く時にいる敵の位置が別で視える」
「んんん? つまり、敵の実体とは別に未来の敵の位置が見えるってこと?」
一度では意味が分からなかった奈津美が反芻して聞き直すと、呆れたような声が返ってきた。
「そう言ってるだろ」
「はー……キモ」
「キモ……てめえケンカ売ってんのか」
「褒め言葉だよ」
思わず出た言葉を慌てて、ただしそんな素振りは見せずに訂正する奈津美。運よく良太郎は騙されてくれたようだ。
目だけは見えないのをいいことにキョロキョロと動かしていたが。
「本当か?」
「本当。てか、それ使えるじゃん」
「何にだ」
「何って、ドライビングテクニック」
軽く返ってきた言葉に、良太郎は眉をしかめ口を半開きにした。
「……イマイチわかんねえな。言っとくが、俺は自分の車の未来位置は見えてないぞ?」
「見えるように練習するんだよ」
「あー、悪かった。お前にマトモな答えを期待した俺が悪かった」
さも当然かのように言った言葉をマトモでないと評価され、奈津美は頬を膨らませる。
「なにさー。言っておきますけどね、上手い人ほど自分の車の未来位置を予測して動かすんだからねー。今からドリフト全種類できるまで帰れま10」
「無茶言うな」
良太郎が抗議するが、意に介さず今度は無言で走り続ける。落としていた速度も上げ始めた。
既にそこそこのスピードが出ていたにも関わらずスムーズに加速していく。地面に躯体を押し付けて、エンジンの回転数を上げて滑走する。
けたたましくは唸らない。周りよりも一段低く、豹のように。
獲物を狙う強気な女のように。
「……ちっ、分かったよ。言う通りやってやる」
奈津美が返事しないと見ると、良太郎は抵抗を諦めた。
二人の押し問答が終わると、今まで黙っていた緑と奈々が奈津美に言葉をかける。
「奈津美……」
「もうそろそろ……」
「ん? 何? ……あっ、もうこんな時間なんだ」
画面右上の時計は早くも16:30を示しており、食堂が開き始める事を告げていた。
「うむ。いい加減部屋に戻らねばならないと思う」
「あー、良ちゃんのドリフト見たかったのにぃー! えーもうー!?」
「仕方ないわよ」
奈々がごねる奈津美を宥めた。
「ぶー。分かったよ……終わり方は?」
「左上のメニュー開いて、シャットダウン」
「おけ。じゃあ良ちゃんだけ帰れま10だからね。絶対だからね!」
「ふざけんな」
奈津美は最後に釘を刺してゲームを終わりにする。三人の目の前が暗くなり、現実感が戻ってきた。
「……」
ヘッドセットを外し、天井を見上げても平衡感覚が戻るまでに数秒を要し、それから身体を起こして……。
「やっほー!」
「えっと……」
立ち上がろうとしたら、何故かそこに針金西がいた。終わるのを待っていたのだろうか。
「何でいるの」
「何でいるんだ?」
「何してるのよ」
「はいはーい! 疑問は色々あると思うんだけど、とりあえず一つだけ質問させて。……乗ってみて、不満があるのはどこ? 一人一つだけ答えて」
疑問を遮って質問で返す。三人は顔を見合わせた後、同時にこう答えた。
「「「馬力」」」
「オッケー! じゃあ馬力上げておくね! まったねー!」
西は変わらないハイテンションのまま、部屋から逃げるように出ていってしまった。
「待て! 速い……」
「結局、何してたのか良く分からなかったわね」
「……んー、まあいいや。それよりご飯食べよー?」
「……賛成」
「私も。お腹すいちゃったわ」
三人の少女は、疑問より空腹を優先して片付けることにしたようだった。
「ドリフト全種類できるまで帰れま10……か。ふざけてんな」
「できそうですか?」
「あ?」
良太郎は誠一郎の心配そうな声に、不満げに返事する。
「ったりめーだろお前。俺様を誰だと思ってんだ。マジで今日中に終わらせてやるよ」
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