爆弾拾いがついた嘘

生津直

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第1章 弟子入り

12 事故

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※作者注:数行の残酷(事故現場)描写があります。
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 約束の木曜日。一希は、今朝知ったニュースに胸をざわつかせながら新藤宅を訪れた。

 ブザーに応じた新藤は、案の定いつも以上に浮かない顔をしていた。

「聞いたか?」

「はい。朝刊で読んで……学校も一日この話で持ち切りでした」

「昨日、他の仕事の帰りに現場を見てきた」

「事故の後……ですか?」

「ああ、ほぼ直後だ。お前にも見せてやりたかった」

「私に?」

「記事を読んだんだろ? どんな風だか想像つくか?」

「接触した状態で、ってことでしたから、ご遺体はほとんど残らないんじゃ……」

 新藤は重々しく首を振った。

「固まりかけた血の海に、膝から下とその他の肉片らしきものが飛び散ってるだけだ」

 一希はその光景を想像しかけて、思わず手で口を押さえる。

「頭の一部が中途半端に残っちまって、却って気の毒だった」

 そんな遺体とも呼べないような遺体を、新藤はこれまでに何度目にしてきたのだろう。一希は、死亡事故の確率など低い、という話をちょうど昨日クラスメイトとしたばかりだが、起きる時には起きる。そう認めざるを得なくなった。

「処理士の方は重傷で運ばれたが、命に別状はないらしい。もう一人の補助士と立ち会いの軍員たちは軽傷で済んでる」

「どうしてこんなことに……。信管周りの老朽化、ですか?」

「まあ内戦時代の遺物だから老朽化してる方が普通なんだが、事前点検で中の致命的な亀裂を見逃したか、回した衝撃で思いがけず破損が広がったか……。信管の本当の状態ってのは、回してみて初めてわかることも多い。油を差して日数をおくなり、爆破に切り替えるなりの対処が必要だったのかもしれんな。いずれにしても公式には彼の責任じゃないが、自分で気付きさえすれば、監督の処理士に知らせることもできたろう」

 一希もそう思う。新聞には監督役の処理士が責任を問われるだろうと書かれていたが、複数名で作業をするのには二人以上の目で確認し合うという意味合いもある。最終的な責任は処理士にあるとしても、直接手を下した補助士が危険を見逃した、あるいは見付けていながら報告しなかったとすれば、補助士自身にも落ち度があったと言わざるを得ない。

「こういうことがあると、防爆衣ぼうばくいやら何やらを売りつけようとする奴が必ず出てくるが、あの状況なら何を着ていたところでまず助からん」

「亡くなった方……上級に昇格して間もなかったとか」

「ああ。俺も何度か一緒になったことがあるが、手際は悪くないし前向きな好青年だった」

「ご家族はいらしたんでしょうか?」

「将来を誓った相手がいると言ってたな。あれは半年ぐらい前だったか」

 となれば、新婚だったか、あるいはまだその手前だったか。

「死んだ本人は何を思う暇もなかったろうが、残された方はたまったもんじゃない。どうだ? こんな事故が起きても、まだ爆弾の世話をしたいと思うか?」

 不意を突かれたが、一希の答えに迷いはなかった。

「はい。その気持ちは変わりません。もちろん、そんな最期を平気な顔で迎える覚悟ができてるわけじゃありませんけど……でも、私なら両親もすでに他界してますし、兄弟もいないし、家族を持とうとも思ってませんから、そういう意味では向いてるというか……」

 新藤は顔の右半分にわずかにしわを寄せ、苦笑いらしきものを見せた。

「つまり、そういう意味では俺も向いてるってことになるな」

「え? あ……」

 確かに、家族がいないのはお互い様だ。新藤が独身であることは先日檜垣ひがきに確認済みだし、父親の隆之介は妻を早くに亡くしたことをインタビューで公言していた。そして五年ほど前、隆之介の死去はニュースでも取り上げられた。業界や軍から見れば歴史を大きく変えた人物。葬儀場と火葬場での関係者の集合写真を、一希も業界誌で見た記憶がある。

「いえ、新藤さんはほら、もう人類全員の資産っていうか、悲しいとか以前に、保護されるべき貴重な記念物っていうか……」

 言いながら、あなたには技術しかがないと聞こえかねないことに気付き、一希は後悔した。

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