爆弾拾いがついた嘘

生津直

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第2章 修練の時

27 ぶかぶか

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 翌日、一希はいつものジャージ姿で大机に待機した。

 新藤は十二時を少し回った頃に帰宅し、入ってくるなり、一希に向かって何やら包みをほうった。不意を突かれたが、何とかキャッチする。透明のビニール袋。中身の明るいオレンジ色には見覚えがあった。

「作業服、ですか?」

「何か別のもんに見えるか?」

「いえ……」

「一五二なんてサイズはないそうだ。これが最小だと。それでも在庫はなくて取り寄せになったがな」

「あ、私……の!?」

「それに着替えて半までには戻ってこい」

「はい。あ、ありがとうございます!」

 部屋に駆け込んで興奮をしずめつつ、目の前のオレンジ色を見つめる。本物の作業服だ。新聞や専門誌やテレビで何度となく目にし、夢にまで見たこの業界の象徴。胸をときめかせずにいられようはずもない。

 早速着替えてみると、確かに丈も幅も一希には大きい。そでと足元を折り返さないと動きにくかった。

 生地をたっぷり折り返した状態で土間に戻ると、新藤が露骨に顔をしかめる。

「やっぱ無理か……でかすぎるな」

「まあ、本当の現場に出る時には袖とすそは確実に切らないといけませんよね。でも、普通に手を動かす分には何とかなるんで、とりあえず今日のところは……」

 新藤は首を横に振る。

「ダメだ。これならお前のジャージの方がまだましだ。着替えてこい」

「……はい」

 せっかくの初作業服をすぐに脱がなければならなくなり、つい、しゅんとする。

「特注はバカ高いからな。受験の時には買ってやる」

「わあ、本当ですか! ありがとうございます!」

 特注を手配させるとは我ながらだ。少しでも早く自分で稼げるようになって恩に報いるしかない。

「それまでは手持ちのジャージで我慢しろ」

「はい。あの、先生、今着てるこれって私がいただけるものですか?」

「ああ、残念ながら返品はできんそうだ。とりあえず一着だけにしといて正解だった」

「わかりました。ありがとうございます」

 この時、部屋に戻る一希の頭には、ある考えが浮かんでいた。



 ジャージに着替え直した一希を待っていたのは、大きな爆弾の模型。住み込み前に遠隔操作を指示された時のものとはまた別だ。

「ザンピードですね」

「ああ」

 海中に設置または投下され、主に船を標的とするいわゆる機雷きらいの一種だ。海に近いこの町では、これが誤って陸上に投下されたまま不発弾となった例が結構な頻度で見付かる。この模型の全長は二メートルほどありそうだ。

「補助士になって最初のうちの実務といったら、まずは探査か道具渡しだ。その時点で処理士たちにいい印象を植え付けておけば、その後の仕事が格段に取りやすくなる」

 春休みにOB訪問をした時、処理士から指名を受けられると強い、という話は聞いている。そこは逆もまたしかりで、あいつはダメだという噂が一度立てば大打撃を受けるはずだ。

「道具渡しはデトンとザンピードが中心になるから大体パターンは決まってるが、場合によってはそれなりに機転も必要になる。まずは一個やってみよう」

「はい。よろしくお願いします」

 一希は胸をおどらせた。いよいよ新藤の実技指導が始まるのだ。
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