恋の駆け出し記念日 ~23歳の地味処女にやたら優しいイケメンは、誰よりも真面目なワケありプレイボーイでした~

生津直

文字の大きさ
59 / 80
第4章 俺のライバル

59 過去

しおりを挟む
 大輝がトイレに立つと、クリリンが悦子を冷やかしに来た。

「旦那があんだけモテたら落ち着きゃしないよね」

「旦那って……」

 悦子はこそばゆくて仕方ない。クリリンは悦子が大輝の彼女であると信じて疑わない様子だ。早くに身を固めたクリリンにしてみれば、この年で女を連れて歩いているということは結婚を前提に付き合っているようにしか見えないのかもしれない。

「やっぱり、その頃から人気者でした?」

「そりゃもう。でも、モテるくせに女には見向きもしなくて、腹立つったらありゃしない」

 大輝が? 信じられない。

「やたら忙しい奴でね。バスケ部じゃ一年の夏過ぎてから入ったくせにキャプテンにまでなったし、生徒会でも何か役職やってて、何とか実行委員会の類は常連だし」

「へえ。いかにもって感じ」

 悦子はふと思い立ち、トイレの出口をちらりと見やりながらかまをかけた。

「もしかしたら……彼にとっては、学校が救いだったのかも」

 その言葉に、クリリンは神妙な面持ちになる。

「実は……彼のこと、前の苗字で呼ぶ人と会うのも初めてで」

「あ、そっか。たしか高校入学に合わせて変えたって言ってたかな。まあ、俺がそれ聞いたのはそのハタチの会ん時なんだけどね」

「そうですか……。家庭の話なんかは、学校ではあんまり?」

「まあ、さすがに噂にはなってたけどね。入学式からいきなりぐっわー青タンだもん」

とクリリンは目の周りを指し示す。悦子は思わず息を呑んだ。

(青タンって、殴られて……?)

「誰もが不良だと思って恐れをなしたけど、親父がアル中らしいって、親たちの間ですぐ噂になってさ。まさかDVだったとはね」

と、痛ましげに首を振る。ドメスティックバイオレンス。つまり、酒に溺れた父親から暴力を受けていたということか。悦子は動揺を隠し、何食わぬ顔で調子を合わせる。

「実は、今でもちょっとその影響っていうか……」

「まあ、髪は生えても、心の傷は残るもんなのかな」

「髪……?」

「あ、そこまでは聞いてなかった、かな?」

とクリリンが慌てる。ストレスで脱毛症にまでなっていたということだろうか。どころか、本人からは何一つ聞いていない。まるで婚約者か何かとでも思われているようだが、彼が昔ハッシーだったことすらつい先ほどまで知らなかった、単なる愛人なのだ。

「いつからなのか誰も知らなかったけど、五百円ハゲの話は少なくとも学年内じゃ有名でね。ま、ロン毛気味にしてうまいこと隠してたから、結局モテんだけど」

と苦笑する。悦子は急いでもう一つ尋ねた。

「大輝のお母様とは……会ったことありますか?」

「あ、もしかしてまだ会ってない? これがやけに若くてきれいなお母さんでさ。少しは見習えってうちのお袋に言ってやったら、あんたこそ大輝君見習ってたまには買い物ぐらい手伝いなさいよ、って。ほら、スーパーとかでよく見かけてたらしくて」

 そこへ大輝が現れ、悦子の聞き込みは打ち切られた。中学生の時点で母子家庭になったことは確実だろう。大輝がその後母親にまで勘当されたとは、クリリンは知らないようだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

処理中です...