百鬼怪異夜行

葛葉幸一

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第八夜 夢魔─インキュバス─

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憑かれているのは分かっている。
明晰夢の中で、そいつとあった。
─あんた、人間なのに器用なことできるな。
夢での怪異の避け方も祖父から教えてられていた。
その追い出し方も。
─まて。俺はまだ駆け出しでね、実績を作らなきゃならんのよ。悪いこと、いい事関係なくね。
今のひよっこの俺じゃあ、あんた相手には返り討ちだ。
だから少しでいい。俺に練習させてくれないか?
なんだったら契約をするよ。
悪魔との契約。一瞬無謀にも思えるそれは、抑止力にもなる。
契約内容を自分に有利な方に書く悪魔もいるが、それさえ防ぎ、逆にこちらが優位に立つように契約することもできる。
なぜなら西洋の悪魔は「契約を破棄できず、契約内容を変えられない」からだ。
契約の穴をついて人を貶めることはあっても、契約自体を勝手に破棄して人を襲うことができないのだ。

祖父曰く。
昔から口約束ですら正式な契約になったんだ。どんなに力があろうが、どんなに凶暴だろうが、どんなに頭が良かろうが、契約一つで蟻も殺せない人畜無害になるのさ。
あとは契約の仕方だ。穴を作るな。それだけだ。

その夢魔は夢の中で自分がどんなことをできるのか理解していなかった。
悪夢で人を苛むのか。
淫夢で人から精を奪うのか。
人の気を吸い尽くすのか。
僕を相手に試行錯誤していた。
─俺、夢魔向いてないのかな。
珍しく夢の外で僕に話しかけてきた。
僕は一つ気になったことがあった。
彼は「夢魔」だ「魔」なのだ。
だからと言って人に仇なすモノじゃなきゃいけないのか?
人を殺さないといけないのか?
魔とはいうが、彼は夢の中で人を幸せにすることも、人が持っていない才能を授けることもできるのだ。
今すぐ魂が欲しいならすぐ殺せばいい。
でも、僕はそんな急ぐことはないように思えた。
その後。夢魔は僕から離れていった。

ある日夢を見る。
昏睡状態のお年寄りの夢。あの夢魔がお年寄りに見せていた夢。
生まれ、育ち、病気やケガをし、結婚して老て死ぬ。
当たり前の人生。
でも、今見てる夢は幸せだった。
今は亡き母や父、兄弟との生活。
現実でも娘や息子が。孫やひ孫がありがとう、と叫んでいる。
─俺にはこんなんしか向いてないみたいだ。
そう言って夢魔は、僕に爪をくれる。
─触媒さ。困ったことがあったら呼べよ。
死ぬ時でもいい。最高の夢を見ながら逝かせてやるよ。
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