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第三十七夜 三目八面─ミツメヤヅラ─
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大学のある裏山。
僕は最近気になって仕方がなかった。
放課後、危険だとわかっていても身体は言うことを聞かずに山の方へ歩き出す。
動物が分け入ったであろう獣道を通り、大きな木を見つけた。
そこには夥しい数の朽ち掛けの御幣が貼られていた。
鳥肌が立つ。足が竦む。身体は動かない。息ができない。
御幣の先はきっと違う世界だ。
僕の目には灼熱地獄が見える。
その中で太古の妖怪が踊るように悶え苦しんでいる。
人の形?蛇?
僕にはどちらとも判断がつかなかったが、三つの眼と八つの顔が見えた。
祖父曰く。
山ってのは昔から神が住むと言われてる。
神っつっても、讃え、感謝し、奉り、祈願をしなけりゃ人に害をなす。
だからこそ、神にも匹敵するほどの怪異なんかもそこに閉じ込めておけるのさ。
見つけたら逃げろ。
それはもはや天災だ。
僕はなんとか逃げ出せた。
気になったのは御幣。今にも剥がれそうだった。
もう封印の効力が弱まっているのかもしれない。
後日、裏山が焼けた。
広範囲に渡って燃え広がったが、幸い死者もなく大学にも被害は及ばなかった。
僕は呆然として、また御幣があった場所まで来ていた。既に御幣など跡形もなく燃えて消えていた。
─ひた。
後ろから足音が聞こえる。靴音ではない。裸足で歩く音だ。
僕は振り向けない。声だけが聞こえる。
─ありがたいね。お前みたいな力を持つ奴が来てくれたお陰で封印が解けたよ。
僕の所為なのか。
─勘違いして貰っちゃ困る。俺も何百年もアソコに閉じ込められて流石に悪さをするには懲りたところさ。
ならば、封印から抜け出したこの大妖は今後なにをするのか。
─この山の火事も酷かったろう?しかし死者も出なかった。俺が助けたのさ。
助けた?あの大火事からこの妖しが人々を守ったのか。
─昔より妖怪のことを信じる人間が少なくなって、俺らの力もだいぶ弱くなったのさ。
力をつけるには善徳を積むしかない。
大妖が去っていく音がする。
三つ目で、八つの顔持つ妖怪。
彼は人を殺め、食うことを辞めて、人を助けることにしたのか。
足元には一つ、お面が落ちていた。
─俺からの礼さ。厄除けくらいにはなるだろう。
怪異が存在しにくくなった世界では、大妖も人を守らなければ姿形を保てないのかもしれない。
僕は最近気になって仕方がなかった。
放課後、危険だとわかっていても身体は言うことを聞かずに山の方へ歩き出す。
動物が分け入ったであろう獣道を通り、大きな木を見つけた。
そこには夥しい数の朽ち掛けの御幣が貼られていた。
鳥肌が立つ。足が竦む。身体は動かない。息ができない。
御幣の先はきっと違う世界だ。
僕の目には灼熱地獄が見える。
その中で太古の妖怪が踊るように悶え苦しんでいる。
人の形?蛇?
僕にはどちらとも判断がつかなかったが、三つの眼と八つの顔が見えた。
祖父曰く。
山ってのは昔から神が住むと言われてる。
神っつっても、讃え、感謝し、奉り、祈願をしなけりゃ人に害をなす。
だからこそ、神にも匹敵するほどの怪異なんかもそこに閉じ込めておけるのさ。
見つけたら逃げろ。
それはもはや天災だ。
僕はなんとか逃げ出せた。
気になったのは御幣。今にも剥がれそうだった。
もう封印の効力が弱まっているのかもしれない。
後日、裏山が焼けた。
広範囲に渡って燃え広がったが、幸い死者もなく大学にも被害は及ばなかった。
僕は呆然として、また御幣があった場所まで来ていた。既に御幣など跡形もなく燃えて消えていた。
─ひた。
後ろから足音が聞こえる。靴音ではない。裸足で歩く音だ。
僕は振り向けない。声だけが聞こえる。
─ありがたいね。お前みたいな力を持つ奴が来てくれたお陰で封印が解けたよ。
僕の所為なのか。
─勘違いして貰っちゃ困る。俺も何百年もアソコに閉じ込められて流石に悪さをするには懲りたところさ。
ならば、封印から抜け出したこの大妖は今後なにをするのか。
─この山の火事も酷かったろう?しかし死者も出なかった。俺が助けたのさ。
助けた?あの大火事からこの妖しが人々を守ったのか。
─昔より妖怪のことを信じる人間が少なくなって、俺らの力もだいぶ弱くなったのさ。
力をつけるには善徳を積むしかない。
大妖が去っていく音がする。
三つ目で、八つの顔持つ妖怪。
彼は人を殺め、食うことを辞めて、人を助けることにしたのか。
足元には一つ、お面が落ちていた。
─俺からの礼さ。厄除けくらいにはなるだろう。
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