百鬼怪異夜行

葛葉幸一

文字の大きさ
37 / 42

第三十七夜 三目八面─ミツメヤヅラ─

しおりを挟む
 大学のある裏山。
 僕は最近気になって仕方がなかった。
 放課後、危険だとわかっていても身体は言うことを聞かずに山の方へ歩き出す。
 動物が分け入ったであろう獣道を通り、大きな木を見つけた。
 そこには夥しい数の朽ち掛けの御幣が貼られていた。
 鳥肌が立つ。足が竦む。身体は動かない。息ができない。
 御幣の先はきっと違う世界だ。
 僕の目には灼熱地獄が見える。
 その中で太古の妖怪が踊るように悶え苦しんでいる。
 人の形?蛇?
 僕にはどちらとも判断がつかなかったが、三つの眼と八つの顔が見えた。

 祖父曰く。
 山ってのは昔から神が住むと言われてる。
 神っつっても、讃え、感謝し、奉り、祈願をしなけりゃ人に害をなす。
 だからこそ、神にも匹敵するほどの怪異なんかもそこに閉じ込めておけるのさ。
 見つけたら逃げろ。
 それはもはや天災だ。

 僕はなんとか逃げ出せた。
 気になったのは御幣。今にも剥がれそうだった。
 もう封印の効力が弱まっているのかもしれない。
 
 後日、裏山が焼けた。
 広範囲に渡って燃え広がったが、幸い死者もなく大学にも被害は及ばなかった。
 僕は呆然として、また御幣があった場所まで来ていた。既に御幣など跡形もなく燃えて消えていた。
─ひた。
 後ろから足音が聞こえる。靴音ではない。裸足で歩く音だ。
 僕は振り向けない。声だけが聞こえる。

─ありがたいね。お前みたいな力を持つ奴が来てくれたお陰で封印が解けたよ。
 僕の所為なのか。
─勘違いして貰っちゃ困る。俺も何百年もアソコに閉じ込められて流石に悪さをするには懲りたところさ。
 ならば、封印から抜け出したこの大妖は今後なにをするのか。
─この山の火事も酷かったろう?しかし死者も出なかった。俺が助けたのさ。
 助けた?あの大火事からこの妖しが人々を守ったのか。
─昔より妖怪のことを信じる人間が少なくなって、俺らの力もだいぶ弱くなったのさ。 
 力をつけるには善徳を積むしかない。

 大妖が去っていく音がする。
 三つ目で、八つの顔持つ妖怪。
 彼は人を殺め、食うことを辞めて、人を助けることにしたのか。
 足元には一つ、お面が落ちていた。
─俺からの礼さ。厄除けくらいにはなるだろう。

 怪異が存在しにくくなった世界では、大妖も人を守らなければ姿形を保てないのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。 意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。 隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...