百鬼怪異夜行

葛葉幸一

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第三十六夜 産女─ウブメ─

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 一人暮らしをしているアパートの側で、最近交通事故が多発している。
 投稿中の児童の集団に車が突っ込む。体育の時間に子供たちが次々と倒れる。公園の遊具から落ちる。車内に放置され、亡くなる。学校での集団食中毒。
 大なり小なり様々な原因の事故だが、子供に関連したもの。しかも重症になるケースがほとんどだ。
 亡くなった子供たち。
 僕もその霊を見たことがある。
 自分が死んだことに気がついてない場合以外、だいたいの人が死後に霊として現世に留まることは稀だ。
 でも。
 子供の霊は、まるで誰かに呼ばれたかのように一ヶ所に向かっていた。
 僕の足も自然とそちらに向かう。
 村はずれの小さな御堂。
 その御堂に夥しい数の子供の霊が集まっていた。
 悲しみ、苦しみ、悔やみ、恨み、飢え、泣き叫ぶ。
 子供の霊は怨念によって塊り絡み合って、また別の怪異となってさらに他の子供を呼び寄せる。
 僕はどうしようもなく、途方に暮れながらその場で立ち尽くしていた。
 気がつくと隣に女性が立っていた。
 血塗れの服を着て、息絶えた子供を抱えている。
 女性は子供の霊に近づくと、ゆっくりとその霊を観察していた。
──違う。
──私の子じゃない。
──どこに行ったの?
──私の、坊や。

 祖父曰く。
 昔は妊婦が亡くなった時は、腹を掻っ捌いて子供を取り上げ、妊婦に抱かせる形で荼毘に伏したという。
 産女になる。からな。
 ……。
 悲しいもんさ。悲惨なのに悲しい。
 たとえ現世に留まらなくても行き着く先は、血の池地獄さ。

 産んであげたかった。育ててあげたかった。共に生きていたかった。
 母の子に対する愛情。
 行き過ぎたその愛は狂気となって、この地の子供を殺してここに集めている。
 どこかに自分の子供がいるかも知れない。
 どこにいるかもわからない子供を探して。
 でも、こんなことが続いて良いわけがない。
 産女のためにも、ここで悪霊と化した子供たちの魂のためにも。
 御堂の扉を開けるとひび割れた御神体があった。
 後日、その御神体が復元されると不可解な子供の怪我や病気は少なくなった。
 親より先に死んだ子は、賽の河原で石を積み上げ続ける。
 子を産めなかった母親は血の池地獄に落とされる。

 どちらも本意ではないはずなのに。




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