百鬼怪異夜行

葛葉幸一

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第四十二夜 笑般若─ワライハンニャ─

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 夢を見ていた。幼い頃の記憶。夢というよりは過去の追体験か。
 鬼が笑っている。
 生まれたばかりの妹を捕まえている。
 このままでは妹が食べられてしまう。
 般若のような恐ろしい顔をした鬼は、それでも楽しげに笑っていた。
 足元には沢山の人骨。一体何人の子供を食べてきたのだろう。
 でもこれは夢。足掻いても身体の自由は効かずにただ立ちすくむだけだ。
 般若は笑いながら妹の首を掴む。
 幼い頃の僕は、ふと目に入った小さな影に気づく。
 小さな鬼。
 笑う般若の子供?
 その子鬼は痩せ細り、自身の足で立つこともできないほど明らかに飢餓状態だった。

─祖父曰く。
 高位の怪異になると自我を持つ。中には伴侶や子供を持つあやかしもいる。
 人間を格下に見てるから襲うだけで、仲間意識が強かったりするのさ。

 明晰夢。
 夢の中で、これは夢だ、と気付くことによって自由に動き回れる夢のこと。
 僕はチカラを入れることより、念じることに意識した。
 これは夢だ。
 僕の好きにできる。
 過去の体験でも変えられる。
 そして僕は幼い僕と魂が繋がるのを感じた。
 尖った人骨を手に、般若の子供の喉元にそれを突きつける。
 笑っていた般若は途端、怒りの形相を浮かべる。
 幼い僕─大人の僕─は叫ぶ。
 
 家族を思う気持ちは人間だって同じだ!
 お前が子供を大事に思うように、僕だって妹が大切なんだ!
 人を喰う以外に子供を救うことだってできるはずだ!

 般若は悲しみの表情を浮かべる。
 阿修羅のような三面。
 泣きそうな顔のまま般若は妹を僕に差し出す。
 言葉はない。あったとしても人間の僕には聞こえないのかも知れない。
 般若は自分の子供を抱えると、煙のように消えていった。
 
 夢から覚めた僕は自分が泣いていることに気がついた。
 扉が開く音がしてそちらを向くと、妹が泣きながら立っていた。
 その手には一枚の絵が握られていた。
 二人でその絵を眺める。
 鬼子母神。
 悪鬼から子供を守る般若は、恐ろしい表情ながら自分の子供も人間の子供も悪霊から守っていた。
 人を襲う妖怪には恐ろしい顔を。
 自分の子供と人間の子供には慈愛に満ちた菩薩のような顔を向けている。
 人の子供も守る善神となった般若は、その功徳で自分の子供も守ることができたのだ。
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