人外娘と真面目にファンタジーしちゃう本

葛葉幸一

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第1章 亡国の魔法騎士

元、英雄

森の中を走る。
追っ手の足音は…。
聞こえない。
どうやら、巻いたようだ。
大きな木の下にたどり着き、その根元に腰を下ろす。
大きなため息がもれる。

「あれから、2年、か」
彼の名君、第6代エルモワール王が倒れ、ミハエルが王となったあの日。
彼、エグゼ・トライアドは、なにもできなかった。
大いなる精霊王の洗礼を受け、身に余る強大な魔法力を身につけ、人類の守護神とよばれながら、だ。
2年たった今も、まだその屈辱は、忘れていなかった。

幾人もの追っ手に襲撃を受け、泥水をすするように、生き延びた2年。
人間相手には、まず後れを取ることはなくなった。
しかし、魔物が相手となると、やはり歯が立たない。
この調子で本当に、ミハエルを倒すことができる日などくるのだろうか…。
月明かりに照らされた森を眺め、小さくため息をつく。

敵に見つかる可能性もあるため、火を炊くことはできない。
その肌寒さに、身震いをして、エグゼは目を閉じた。
その時、遠くで何者かが争っている音が聞こえて来た。

(追っ手か…?)
エグゼはさらに神経を研ぎ澄ます。
多数の人間に、一人が囲まれているらしい。
気配を殺し、気付かれないよう、現場に向かう。
森の中、少し開けた場所の真ん中に、一人の男が立っている。
そして、そのまわりを取り囲むように、武装した男たちが、距離を詰めながら襲い掛かる機会を探している。

追い詰められながらも、月明かりを背に悠然と佇む男は、身軽な、-丈夫そうではあるが-服装で、武器すらその身に具えていない。
しかし、その男から発せられる気は、周りの男たちとは、比べものにならなかった。

1対多数ではあったが、その男が負ける姿が、想像できない。
周囲のならず者たちも、切り込む隙が見つからず、ただ、ただ様子を見ているだけだった。
「どうした?かかってこないのか?」
その場から動くことなく、男が声を掛ける。
「お前らが探していた、8桁の賞金首が、武器も持たずに突っ立ってるんだぜ?」
まるで、酒場で安酒でも浴びながら、隣の席の客に話し掛けるような気安さで、男は挑発をする。

「なら…」
ため息を一つ着き。
「俺からいくぞ」
瞬間。
世界が止まった。
それは一言で恐怖、と表現するのが余りにもチンケに感じる程の圧倒的な威圧感。
先ほどまで、むしろフレンドリーとも取れる態度だった男から、発せられる空気が一瞬で変わった。
それは、遠く離れたエグゼですら、死を覚悟する程だった。
男が、腕を一振りする。

「…。え?」
それが取り巻きの一人が発した、最後のセリフだった。
それは、いかなる魔術か。
甲冑を着こんだ屈強な兵士が、まるで紙を切り裂くかのような容易さで、二つに分かれる。
右腕を掲げ、男が言う。
「まだ、やるかい?逃げるなら、追いはしない。だが、戦うのなら、覚悟を決めろ!」
「ひっ!?」

そこには、プライドや、恥はなかった。
ただこの圧倒的な、死そのものような存在から、逃げ出したい。
ゴロツキたちは、声を出すこともなく、散り散りに逃げて行く。
しばしの静寂。
エグゼは動けないでいた。
男から発せられる殺意は、今だ解けていない。
エグゼの存在に気付いているからだ。
「お前、逃げないのか?」

明らか、エグゼに向けて話し掛ける。
声色こ、飄々としているが、貫くような殺気はそのままだ。
エグゼは敵意がないことを示すように、両手を挙げながら、男の前に姿を表した。
「悪い。ぼくも追われている身なもので、様子を見にきたんだ」
最も、武器を手に取ったところで勝てるとは思わなかったが。

「ほぅ。お前さんも狙われてるのか!
そいつは奇遇だな、こんな辺鄙な場所で」
エグゼが敵ではないとわかったとたん、男は旧友と久しぶりにあったかのような、親しげな空気を身にはらんだ。
「ぼくは、エグゼ・トライアド。新国に仇為す、お尋ね者さ」
「ははは!俺もだ!面白い夜だな。
敵は来るは、同じような人間と合うわ。
俺は、ソウマ。ソウマ・ブラッドレイだ。
お前さんは、行くところはあるのかい?」

「僕は、グランベルトを。ミハエルを倒さなきゃならないんだ。今は、根無し草さ」
つい、チカラが入ってしまう。
それを抜くように、最後、少しおどけて見せる。
「ふむ」
片目を閉じてエグゼを見る。

「その腕で、か?」
全てを見通すかの如き、鋭い視線が突き刺さる。
「みたところ、並みの人間レベルだが、魔物相手にはどうだ?」
正に、その通りだった。
歯がたたない。
まるで勝てる気がしない。
魔法を使えない魔法騎士は、全くもって、無力以外の何物でもなかった。

「さっきの技…」
腕の一振りで、人間を意図もたやすく切り裂いた、魔法のような技。
「魔法、なのか?」
しばしの沈黙の後。
「この大陸で、魔法が使えないのを、知った上での質問か?」
ソウマは、エグゼを値踏みするように見る。
「そうだ。このエグゼは、昔、聖エルモワールの騎士団長をしていた。
…。しかし、魔法が使えないと、この有様さ」

自嘲気味に笑う。
しかし。とエグゼは続ける。
「かならず、ミハエルは殺す。たとえ死んだとしても、だ」
その瞳には、悲壮な決意が浮かんでいた。
自分の未来など省みない、特攻にも似た悲しい決意。

「自分の死すらも、問わないと?その上で、俺に技を教えろ、というのか?」
ソウマは、エグゼの真意を覗き見るように、問いを発する。
それがわかったからこそ、エグゼは心をさらけ出し、答えた。
「もう一度いう。奴を殺せるなら、死んでも構わない!」
低く、小さく。
しかし決して否定できない、呪詛のような想いを込めて言い放った。

「交渉決裂だ。俺の仲間には、死ぬ覚悟のある奴はいらない。
新しい国を作った先にある、まだ見ぬ未来に生きる者しか、俺は認めない」
今まで見せた中で、一番真面目な顔をしていた。
どこか巫山戯た態度を崩さなかったソウマの本音がみえた気がした。

「!っお前になにがわかる!仕えるべき君主も殺され、愛する者も救えずっ!
ただ復讐のみにしか生きることのないこの僕の気持ちがわかるかっ!!」
ソウマの胸倉を掴み、力の限り叫ぶ。
誰にも言うことができず、知らず胸の奥に溜まった淀みがここに来て一気に爆発した。

「知るか。そんなもん」
素っ気なくいい、掴まれた胸の手を払う。
「もしお前に愛国心と言うものがあるなら、お亡くなりになった国主のために、その方の思いを代わりに成そうとするのが、忠誠だろう。
お前の主はなにを望んだ?
お前が死ぬことか?この国の民が死んで新しい国ができたとして、喜ぶか?違うだろ。
お前にもしまだ、この国のために尽くす気があるのなら、これ以上被害者を出さないよう、全員護りきってみせろよ」
エグゼはなにも言えなくなった。
初めて会った男に、自分でも知らなかった感情をさらけ出したこと。
男に言われた一言一句が、渇きなにも感じなくなっていた心に、なにかをもたらした。

様々な感情が渦巻く自分の胸中に、エグゼは混乱するように黙り込む。
「もう一度、良く考えてみろ。お前がこれからどうしたいのかを。
…。お前が知ってるかどうかは、わからんが、一つだけ言っておこう。姫は、生きてるぞ」
ソウマは、そう言いながら火を炊くために、木を組み上げる。
なるべく乾いた木を集め、火種をともす。

「姫が、生きている…?ミスティ様が生きているのかっ!?」
沈黙から立ち直ったエグゼは、再びソウマに向き直る。
火が燃える音が、静かな森に響く。
「俺も詳しくは知らないが、生きているそうだよ。
もっとも、どんな扱いを受けているか、わからないけどな。ただ、生きているのなら、必ず助け出す。この俺の名にかけて、な」

「お前は…。ソウマは一体、何者なんだ?」
「俺か?俺はこの国を解放するための戦いを起こそうとしている。メリクリウスのTOPだ。
俺の名にかけて、必ずこの国は救う」
その口調、その瞳には、確かな自信が感じられた。
そして、先ほどの戦闘で感じ取った、ソウマの戦闘力は、ミハエルが造り出した造魔など比べるべくも無い程強力だった。

「これは戦争だ。確かに犠牲を出さない、なんてことは無理だ。綺麗ごとでしかない。
でもな・・・。はなから死ぬつもりで戦って欲しくないんだよ。
俺たちは、平和な世界を作りたい。そして、その平和な世界に生きてほしいんだ」

すでにエグゼを試すような口調は無い。その言葉は気取らない、ソウマの素直な台詞のように思えた。
「・・・。もう、遅い。寝よう」
こうして、夜の森は深く更けて行く。
感想 3

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