人外娘と真面目にファンタジーしちゃう本

葛葉幸一

文字の大きさ
10 / 68
第1章 亡国の魔法騎士

小さなギフト

「いい顔になったな、エグゼ」
朝一番、顔を洗いに出てきたエグゼに、ソウマが話しかける。
「そ、ソウマ!な、なんだよ、藪から棒に!」


慌てているのが何かあった証拠なのだが、エグゼは取り繕うことも出来ず、うろたえている。
「そう恥ずかしがるな!なにもからかいに来た訳じゃない!」
そう言って、ソウマはエグゼの肩を抱くと、耳元で呟いた。


「護る者ができることは、いいことだ。なにより自分が強くなれる。窮地に立たされた時に、その護るべき存在を思い出してみろ。絶対にあきらめなくなる。必ず立ち上がれる。必ず勝てる。


特に、お前は一度絶望を知っているからな。二度と同じ思いはしないだろう」
ソウマは、エグゼを離すと。
「さぁ、飯だ。飯!」
と大きな声を上げて、食堂へと歩いて行った。


「…。たたらは寝てるのに、朝ごはんはどうなったんだ?」
取り敢えずたたらを起こそう、と一度寝室に戻るエグゼだった。
食卓に並ぶ料理。
朝ーーすでに昼に近い時間だが-飯にしては、かなり豪華だった。
「この料理は、どこから掻っ払ってきた?」


開口一番、たたらが不穏なことを言う。
「なにを言ってるんだ、たたら。これは俺が腕によりを掛けて全部作ったんだぞ!」
エプロン姿のソウマが片腕を腰に当て、もう片方の手で、お玉を振りましている。
「なっ!?貴様がかっ?」


心底驚いたように、たたらが驚愕する。
「そう、この男、こういう所無駄に器用なのよね」
興味なさげに、髪をいじりながら呟くアーニャ。
「すごい!そーまは、なんでも出来るんだね!」
正反対の反応をしてくれるティアラ。


「戦場に長くいるとな、うまい飯が食いたくなるんだよ!飯は活力の元。しっかり食って、しっかり休んで、いつでも万全の体調で戦闘に臨める様にしないとな」
エプロンを外し、自分も席に着く。


「それに、お世話になってるんだ。これくらいのお礼はしないとな。じゃあ、頂きます!」
『いただきます!』
なんとなく、みんなで声を合わせて食べ始めてしまう。


「む…。うまい…」
憎まれ口でも叩こうと思ったのだが、悔しいかな、本当に美味しい。
「そーま、そーま!これすごいおいしいよー!それになんか、お祝いみたいだね!」
ティアラは専用の食器と、特別に小さく切り分け、盛り付けられた料理を嬉々として食べている。


「そう言えば、メインの肉なんかは、お祝いの時の料理ね。なにか、お祝い事なんかあった?
むしろ、絶体絶命と言っても、過言ではないんだけど…」
『お祝い』という言葉が出た途端、たたらとエグゼの顔が真っ赤になる。


「あっ」
二人の顔を見て、ティアラがなにかを察する。
「そうなんだ?!確かに、お祝いだね!」
といつも以上にニコニコと楽しそうな笑みを浮かべる。
「?なんなの?」


一人、訳が分からず、疑問符を浮かべているアーニャだった。
こうして、昼に近い朝食は、たたらとエグゼにとっては、せっかくの料理の味も分からない針のむしろ状態で過ぎて行くのであった。

日が高く登る頃。
エグゼとたたらは、加治場にいた。
溶鉱炉では、青白い火が音を立てて燃え盛っている。
幻想的とも思える光の中で、二人は精霊石を前に、佇んでいる。


「さて、これからこの精霊石を鍛えて行く訳だが、基本的に、貴様はなにもすることはない。最後の仕上げに、少し手伝ってもらうがな。それまで、お前はこの精霊石を丸く仕上げておいてくれ」
そう言って手渡されたのは、拳大の精霊石だった。


「これは?」
「新しい剣の、大事な部品だ。心を込めて磨いてくれ。精霊石は想いに反応する石だ。こちらの心をよく写す鏡の様なものだ。想いを込めたらその分だけ返してくれる、最高の鉱石だ。お前の素直な想いをぶつけてみろ。
私も、剣にありったけの想いをぶつけよう。昨夜二人で確かめ合った、この世界を救いたい、と思う気持ちをな」


恥も照れもない。純粋なたたらの心が、見えるかのようだ。
「わかった。でも、憎しみや恨みが入ってしまうかもしれない」
地獄の業火に身をやつすような、ミハエルに対する醜い感情。
世界を救う。
国を取り戻す。
ミハエルを倒す。
そこに目標を置くと、吹き出す黒い感情。


しかし。
「それがエグゼの素直な感情なら、それでいい。自分の生命に嘘をつく方がよほど醜いよ。ミハエルを倒すために必要ならば、その烈火の如き怒りもその石にこの剣に込めろ。その全てが剣の糧となる」


そう言ってたたらは、着物を襷で結ぶと、愛用の槌を手に取る。
何万、何億とこの槌で剣を打ってきた。
しかし、今回の仕事は、今までと明らかに異なる物だった。


はるか昔には、作ったことがあるが、この大陸に来てからは、なかった目的の剣。
戦争をするための剣。
絶対悪を打ち破るための希望の剣。
前回作り上げた『大いなる精霊王の剣』は、平和の象徴だった。精霊王のチカラを宿すことができる、という意味では、たたらの長い人生の中でも最高傑作と言ってもいい。


しかし「剣」としてはどうか。まだまだ、改良の余地があったと思う。
なぜなら、なにかを「殺すため」に作ってはいないからだ。精霊のチカラを使えれば、それだけで最強の剣なのだ。
今回は違う。魔法、7大精霊や精霊王のチカラを使えなくても、剣として最強でなければならない。


エグゼがミハエルに敗れた、と聞いたときから、たたらは思案していた。所詮は石である精霊石に、ミスリルや玉鋼にも負けない程の切れ味を持たせる方法を。
しかも、魔法が使えないこの状況下で、だ。そのうちの解決策の一つが、昨晩の房中術であり、これから行う技だ。


昨夜。
エグゼと魂の奥底で繋がったのには、房中術で気を高める以外にも、もう一つ理由があった。
エグゼの心を知ること。
今から作る剣の持ち主となるエグゼを、生命の深奥から理解すること。
それが目的でもあった。
今エグゼの魂は、正に地獄の業火に焼かれるが如き絶望の果てに立たされていた。


ただ、ミハエルに一矢報いる。そのためだけにこの日まで生き永らえてきたのだ。今現在、笑顔を作り、以前と変わらない様な状態で話を出来ていること自体が、正に奇跡なのだ。一歩足を踏み出せば、確実に地獄に堕ちる。そんな危うさの中をただひたすら歩き続けているよう生き方。


昨夜、エグゼと繋がったたたらは、その生命の有り様が、今は我が事のように感じられる。
だからこそ、『ミハエルを殺すため』に『人を殺す最強の剣』を作る決意をしたのだ。


あの日の、あの時の屈辱は忘れはしない。必ず。
自分の胸に去来する感情に流されないように大きく深呼吸をする。
この感情は必要な物だ。しかし、その感情に流されては行けない。手綱を握るのは、あくまでも自分だ。この感情を使いこなし、剣を作る糧とする。


手に握った、巨大な鉄槌を握る腕に力を込めると、たたらはその大きな一つ目を大きく見開いて、精霊石目掛け、己が魂の全てをぶつけるのだった。




ソウマは、平原に立っていた。
シスカの町に大軍を推し進めるなら、この道を通るしかない。
大きな渓谷を抜けた先にあるこの開けた大地。2日後、ここでミハエルの送り込む兵を迎え撃つ。


「ソウマ?。大丈夫?」
すっかり定位置と化した頭の上で、ティアラが心配気に聞いてきた。
「あぁ。大丈夫だ」
その穏やかな声には、緊張や、気負いと言ったものは微塵も感じられなかった。しかし、頭の中では、大軍と戦う自分の姿を、常にシミュレーションしていた。
兵の数。騎馬の数。動き。装備。陣形。戦略。どれをとっても、負ける気がしない。


しかし、不確定な要素が二つあった。
一つ目は、造魔の数と戦闘力。
先日手を合わせた程度の兵なら、幾ら数こようと、なんの問題もない。
同じ造魔の中でも、使い捨ての兵だろう。しかし、強さの上限がわからない。
最悪。最悪のことを考えると、自分より強い造魔が、いる可能性もある。


二つ目が、魔法かもしれない物の存在。
先日の戦闘終了後、留めを刺そうとした造魔が、不意に消えたあの事実。ティアラは魔法だと叫んだが…。
もしなんらかの理由で、ミハエルの軍勢のみ、魔法が使えるとしたら…?
それすらも折り込み済みで、頭の中で戦略を構築していく。


何一つ、失敗は許されない。
たった一つの過ちが、即、自身の死、またはシスカの町の滅亡につながるのだ。
今まで、自分が経験してきた、最悪の戦場を想い描き頭にインプットする。


あの一回の合戦だけで、何人が死んだことか。そこに、敵味方の区別などない。残された家族には、何の関係もない。
憎しみと悲しみと怒りとが混じり合い敵に向かう。また殺された者たちの家族が、友人が、同じ憎悪と憤怒を持って、戦場に立つのだ。
止められない負の螺旋。
何度、名も知らぬ兵士の尸を超えて来たのだろうか。


もう、犠牲は出したくない。
人とひとが憎しみあい、殺しあう様を見たくはない。
ならば。自分が強くなればい。
一万の兵が戦場に立たなければならないなら、その一万の兵のかわりにその戦に参加して、勝ち得るほどの強さを身につければいい。
そうして、ソウマは戦って来たのだ。
なんの濁りもない、少年のような純粋な心で。


「ソーマ…」
心に流れ込んでくる、悲しいまでのソウマの命。
エグゼとは違う、悲しみで満ちていた。
悔しいのだ。戦争が起こってしまう状況が。
悲しいのだ。そのせいで、人間同士が憎しみ合うのが。
ただ、楽しく。
辛いことも悩んだことも、苦しいことも、全部楽しめる国であってほしい。ソウマが目指したのは、そこだった。


たまらなくなって、ティアラがソウマの顔に抱きつく。
「ソーマ!」
その頬には、涙が流れていた。
ソウマの壮絶なる経験が。ソウマのそれでも失う事のなかったその綺麗すぎる心が。
全てが、ティアラの心に映し出される。


「どうした、ティアラ?何を泣いているんだ?」
優しく、一輪の花を手折らないように、そっと、ティアラをその武骨な手で包み込む。


ソウマの手に頬を寄せ、両手でその指を抱きしめる。
ソウマの朗らかな笑みは、暗闇の中で全ての者に安らぎと明日への希望を与える、月明かりのようだった。
ティアラは涙を拭う事もせず、子供の様に、ひたすらに泣いていた。


「ティアラは優しいな。こんな俺のために涙を流してくれるなんて」
不意にソウマがつぶやく。
「…優しいのは、ソウマだよ。こんなにも優しくて、暖かで、純粋な心は人間では、他に持ってる人いないよ…」
鼻をすすりながら、ティアラはソウマの手の中で甘え続けていた。


「わたしから、そーまにできる、ほんの少しのおうえんだよ!」
ソウマの体の中心に、ほんの少しあるぬくもり。
「わたしたち妖精の体液や鱗粉には、傷を治す能力があるの!それを、ソーマにあげたの!かな~り濃厚に体液注入したから、すこしくらいの傷ならすぐなおっちゃうよ!
そーまには傷ついてほしくないけど、戦争だもんね・・・。たたらちゃんには、手助けもだめっ!っていわれちゃったし・・・。これなら、ばれないもんね!」


ティアラは、ソウマの頭の上に戻ると、あくびを一つして、すぐに眠りについてしまった。
「ティアラ・・・。ありがとう」
小さい体に、誰よりも優しさをたくさん詰め込んだかわいい妖精に、ソウマは深く、深くお礼をするのだった。
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

その狂犬戦士はお義兄様ですが、何か?

行枝ローザ
ファンタジー
美しき侯爵令嬢の側には、強面・高背・剛腕と揃った『狂犬戦士』と恐れられる偉丈夫がいる。 貧乏男爵家の五人兄弟末子が養子に入った魔力を誇る伯爵家で彼を待ち受けていたのは、五歳下の義妹と二歳上の義兄、そして王都随一の魔術後方支援警護兵たち。 元・家族の誰からも愛されなかった少年は、新しい家族から愛されることと癒されることを知って強くなる。 これは不遇な微魔力持ち魔剣士が凄惨な乳幼児期から幸福な少年期を経て、成長していく物語。 ※見切り発車で書いていきます(通常運転。笑) ※エブリスタでも同時連載。2021/6/5よりカクヨムでも後追い連載しています。 ※2021/9/15けっこう前に追いついて、カクヨムでも現在は同時掲載です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?