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第1章 亡国の魔法騎士
決戦前日
「あら?」
たたらの家に戻ったソウマとティアラ(寝てる)は、居間で手持ち無沙汰なアーニャと出くわした。
「ソウマ、その体の光・・・。ティアラの特殊能力かなにか?」
ソウマをちらりと見たアーニャはポツリとつぶやいた。
「傷を治す。妖精の・・・。体液?」
アーニャが六つの目を細め、ソウマをジッと見つめる
アーニャの能力。
それがどんなものなのか、本人も説明しずらいらしいのだが、「物事の本質を見極めること」ができるらしい。
その人物の生命の奥底で起こったことすら、彼女の複眼は見えてしまう。
この時ソウマの身体に、ティアラの能力が付与されたことを一目で看破したのは、この能力のためだ。
そしてソウマは、このアーニャの能力こそ、ミハエルの展開している、「魔法を使えなくしている、謎のチカラ」を打ち破る秘策だと考えている。
「魔法とは違う、妖精に備わる能力かしら?それなら、大概の傷は瞬時に癒せそうね」
「さすがだな。見た目になにか、違いがあるのか?」
「ソウマの見た目には変わりはないわよ。ただ、その奥の魂に、普段ない光が見えただけ。で、それがティアラの魂と同じ色をしてたのよ。
そのティアラの色を詳し?く見てみると、なにかの能力だ、っていうのがわかるの!」
この辺からは、もうソウマとティアラにとっては、想像の世界でしか、なくなってしまう。
「わぁ!あーにゃちゃんは、バカヂカラだけじゃないんだね!」
「ティアラ。私のこと、なんだと思ってたの?」
「バカヂカラのあらくねさん!」
なんのためらいもなく答える。
ちなみに、昨夜、うまい酒をかけて、エグゼ、ソウマ、たたら、アーニャで腕相撲をしたところ、みんなの予想を覆し、優勝したのは、アーニャだった。
「…逆に、ここまではっきり言われると、清々しいわね。まぁいいわ。戦場、見に行ってきたんでしょう?」
アーニャはソウマのほうへ、居住まいを正すと、本題に入った。
「あぁ。山に囲まれた平原で、戦いやすそうな場所だ。迂回してこの町を目指すとなると、相当遠回りになる上に、労力も半端ないだろうな。
そんなことで、兵や馬を疲れさせ、時間を食うぐらいな、正面突破した方がマシだ」
「罠とかは、仕掛けないの?人死にが出ないような罠なら…」
「いや。これは、たたらから俺への挑戦だ。受けるなら、この拳一つでやってやるさ」
「…そんなくだらない見栄を張って、負けたりしたら承知しないわよ!だいたい、私だって、あなたがどれだけ強いのかまだ分かってないんだから!」
アーニャが、ソウマの戦いをみたのは、ただ一度だけ。メリクリウスの当時のトップとの一騎打ちでだ。
攻撃力、守備力の総合力で、メリクリウス内では右に出るものがいなかった彼女を、一撃の元に打ち倒した、あの拳。
その破壊力は、筆舌に尽くしがたいものだった。
彼女が持てる限りのチカラと技を用いた渾身の攻撃を、真正面から打ち破ったあの技。
アーニャの瞳には「なにも」映らなかった。特別な能力などなく、単純なる戦闘力と、研ぎ澄まされた武技で、打ち勝ったのだ。
たかが、人間が。
あそこまで己を鍛え上げた、魔物を。
この男なら、たった一人でもミハエル率いるグランベルトに勝ち得るのではないか、と思わせる一撃のだった。
「エグゼとたたらは、ずっと鍛治場にこもりきりか?」
「えぇ。ずっと、たたらが剣を叩き続ける音が聞こえてるわ。でも、剣を作るに当たってエグゼは役立たずなわけだけど、一緒に鍛治場に居て、なにをしてるのかしら?」
「今朝のあの感じだと、エグゼが側にいることに意味があるんだろう。なにか見えなかったか?」
「…二人の魂に繋がりが見えたけど…。それは中のいい者同士なら、誰にでも見えるものよ。街中とかでも、よく見かけるし。それよりは、強いかな?って思ったけど…」
それは、絆と言い換えてもいいものだろう。しかし、まだ幼いアーニャには、それが、友情なのか、男女の愛情なのかの区別がついていなかった。
「それ以外にも、二人の気の高まりが感じられた。魔法は使えなくても、あの膂力を使えば、それに匹敵するチカラで、剣を鍛えることができるだろう」
「その、「魔法」と「気」の違いが今一わからないのよね…」
「俺も魔法は使えないから違いは、はっきりとはわからないな。ただ、この大陸に来て、俺が「気」を使えているということは、なにかしらの違いがあるんだろう。ま、この戦が終わったらエグゼにでも聞いてみるか!」
「そうね。…でも、私もティアラも」
アーニャは深いため息をついて。
「この町が存亡の危機に瀕しているのに、ただ待つことしか出来ないなんて」
グッと腕に爪が食い込むほどのチカラを込め、歯を食いしばる。
「な?に!俺が勝つ事を祈っとけ!
それが、最後の力になる!」
ソウマは底抜けに明るく、悔しがるアーニャの肩を叩いた。
「祈る、ってそんな!なんの役に立つのよ!」
「俺の役に立つのさ」
一転、真面目な顔つきになるソウマ。
「闘う俺のために祈る人間がいるという事は、その戦で俺が負ければ、傷つく誰かがいるという事だ。なら、俺は負ける訳には行かないんだ。どんな窮地に立たされようが、どんな傷を負おうが、な。
俺に託されたその想いこそが、俺の最後の力になる」
「ソウマ…」
「と、そういう事だ!おれの双肩には、この町の、この大陸の未来がかかってるんだ!負けはしないさ!
それに、例え俺が負けても、エグゼがいる。再び、『大いなる聖霊王の剣』を手にし、聖霊を使えるようになった、英雄がな」
ソウマが鍛治場の方へ、視線を向ける。
それにつられるように、ティアラとアーニャも鍛治場へ。その奥にいるエグゼに視線を送るのだった。
精霊石を高炉に入れ、溶けたら鉄槌で叩き、不純物を取り除き、鍛え、また高炉に入れる。この時点で、剣の中心となる精霊石は、折れないために柔らかく作る。
その上に、切れ味を良くするため、曲がらないために、硬い精霊石でくるみ、更に鍛え上げる。
中に浮く鳥の羽根をも両断する切れ味と、鉄を切断しても折れず、曲がらない柔軟で強靭な剣を打ち上げる。
不純物をどれだけ取り除き、剣を作るに値する精霊石のみを残す。
この技術は、何百年と剣を作り続けてきた、たたらをもってしても、未だに困難な作業だ。
しかし、これだけではただの切れ味のいい剣で、終わってしまう。
特に、素材が「石」である。
そんなものから、鉱石から作るどのような剣にも勝る剣を作らなければいけないのである。
そのため、今までは魔法力を使い、剣に強化魔法を付与した鉄槌で、鍛えていた。
しかし、今回は魔法は使えない。
その対策としての房中術だ。
今まで。
エグゼが倒され、ミハエルが政権を取るようになってからたたらは、この日が来ることを予見していた。
エグゼなら、必ず生き延びて、ミハエルに反旗をひるがえすだろう、と。
今日、この日。この時のために、たたらは気を溜め続けた。
剣を作り続け、更に質の良い武器を作る試行錯誤を重ね、気を練り、房中術をマスターした。
昨夜エグゼと交わった気は今までの魔法力を、遥かに上回る強大なチカラとなり、たたらの体内で渦巻いている。
それを、あらん限りの力を込めた両の腕に託し、鉄槌を打ち下ろす。
その度に火花が散る。
その輝きは、正に命の煌めきそのものだった。
一つ打ち、気を込める。
二つ打ち、人生の集大成を掛ける。
三つ打ち、その生命全てを捧げる。
二人いる鍛治場に、言葉はなかった。
あるのは、この大陸を救うために、今まさに生まれ落ちんとする、伝説の剣の産声だけだ。
…。一方。
そんな中エグゼにできる事といえば、たたらから渡された精霊石をひたすらに磨いていた。
たたらに指定された大きさの球形にするために…。
夜の帳が降りる頃。
台所には、鼻歌を歌いながら夕食を作るソウマの姿があった。
たたらからお金を預かり好きに使っていい、と了承を得ていた。
朝、日が昇る前からこの時間で、たたらとエグゼは、ずっと鍛治場に籠りきりだった。
「ふたりはごはん。食べないのかなぁ?」
ティアラが不安そうな声をだす。
「お腹が空いたら、そのうち出てくるわよ」
アーニャは、節足の先でティアラと遊びながら答える。
「あの様子だと、たたらは出てこないだろう。エグゼはそろそろ出て来そうだけどな」
煮物を作っている間に、パンをテーブルに運び、メインディシュの仕上げに入る。
料理も仕上がる、という時に、エグゼが鍛治場から出て来た。
「えぐぜ?!」
嬉しそうにティアラがエクゼに飛び寄る。
「もういいのか?」
「あぁ。僕が出来ることはもう終わったよ。あとは剣が出来次第、サニーと契約しに行くだけだよ」
エグゼはご飯を今か、と待ち構えているアーニャに目を向ける。
「姫…」
ぽつりと呟いて、席に座る。
そんなエグゼの様子に気づくことなく、アーニャは運ばれてきた料理に手を出すのだった。
「おい、アーニャ。ちゃんと頂きますしたか?女の子なんだから、女の子らしくしとけよ」
「あんたは、私のパパか!しかも、女だから女らしく、とかなに?差別?そんなの今時流行らないわよ!」
お肉を口いっぱいに頬張りながら、アーニャが口答えをする。
「差別、というか、女の子が女の子らしくするのは、女の子の特権だろ?
男が女の子らしくしたって、吐き気がするだけだ。特権は使えるなら使わないとな」
エプロンを外し、自分も食卓に着く。
「特権、ね…」
そう言われると、なんとなく納得してしまった。
「ところで、ソウマはなにか予定はあるのか?」
「僕か?僕は明日、この町の町長に、状況の説明をしに行かなきゃいけないんだ。町は、必ず守る、ってね」
「なるほど。それには、俺もメリクリウスの代表として、着いて行くか。
そして、空いた時間は、最後の悪あがきをするか!
とりあえず、飯を食ったらまた鍛錬だ!」
「ちょっと、あんたはなんでそんなに元気なのよ!帰ってきてから、さっきまで、散々馬鹿みたいに筋トレしてたのに、まだ運動する気?
いい加減やすんだら?」
信じられない、と言った表情で、たたらはソウマを睨みつけた。
「それに、エグゼさんだって、疲れてるわよ」
「ありがとう、アーニャ。確かに疲れてるけど、でも、身体を動かしていた方が気がまぎれると思うんだ。今の僕にできることなんて、ないからね」
エグゼは、そう言って少し寂しそうに優しく微笑む。
その笑顔をむけられたアーニャは、少し頬を染めて、
「ま、まぁ、エグゼさんがそう言うならいいけど…。でも、この筋肉バカに付き合ってたら、明後日も満足に戦えなくなるくらいしごかれるから、気をつけてね」
と言った。
「うん。その辺は自分の限界はわかってるから、大丈夫だよ。あ、あと、僕のことはエグゼ、でいいよ」
エグゼは、アーニャに手を差し出しながら、答える。
「う、うん!改めてよろしくね、エグゼ!」
「こちらこそ」
頬を紅潮させるアーニャと、それを爽やかスマイルで返すエグゼ。
「なんと言うか、アーニャは乙女だな…」
「え?。エグゼが、天然のおんなたらしなんだよ?。あーにゃも純粋でかわいいけど」
そんなふたりを、ソウマとティアラはニヤニヤとしながら、見ているのだった。
翌日。
エグゼとソウマは二人、このシスカの町の代表に会いに来ていた。
「儂が、この町の町長をしている、ドワーフのルドルフだ」
「お久しぶりです、ルドルフさん。エグゼ・トライアドです」
「はじめまして。メリクリウス代表のソウマ?ブラッドレイです。以後、お見知り置きを」
「エグゼに、ソウマ。エグゼはさすがに知っている。精霊王と契約し、たたらが作った剣を使いこなす、稀代の英雄。だったか…。エルモワール王が死んだ時、一緒に死んだと思ったが…」
「おめおめと生き残りましたよ。しかし、どうせ拾ったこの命。最後に、ミハエルに一矢報いてから、散らせてみせます」
「ふむ…。まぁ、儂等は特にお前さんに恨み辛みは抱いていないがな」
口元に蓄えた立派なヒゲを、片手で撫でつけながら、ルドルフは答える。
「もともとこの町はミハエルに攻められ、落とされそうになったらどういう対処をするか、もう決めてある。二人の英雄が勝てなかったとしたら、 儂等も諦めて最後の切り札を使う。だから、後ろにいるこの町の住人のことは気にせずに戦ってくれ」
ルドルフは、そういうと奥に引っ込もうとする。
「待ってくれ!」
特に言葉を発しようとしなかったエグゼに対して、ソウマはなぜかルドルフを呼び止めた。
「もし。もしも、だ」
立ち止まりはしたものの、振り返ろうともしないルドルフの背中に、ソウマは語り続ける。
「俺たちが、たたらとの約束を守り、敵味方の『普通の者たち』に死者を出すことなく、この戦闘を終わらせることができたら、ぜひこの町の力を貸して頂けないか?
この大陸を救い出すために、あなた方の能力を、ぜひ!」
振り返りもせず。
「奴等が従える、造魔以外の死者を出さなければ、か。そんなできもしない約束を、よくもしたものだ。いいだろう。もし本当に成し遂げたのなら、チカラを貸そう。できたら、な」
ルドルフはそういうと、今度こそ奥の部屋へと戻って行った。
エグゼとソウマは、町を歩きながら、明日の戦いについて、話をしていた。
「たたらの作る剣は、間に合うのか?」
「僕も門外漢だから、なんとも言えないな…。とはいえ、間に合うような口振りではあったよ。
できてくれないと、僕もこの戦いでは、何もできないんだけど」
自重気味に笑うエグゼ。しかし、普通の剣を携えたエグゼでは、ソウマの足手まといにしかならない。
「自分でも、魔法と精霊のチカラを借りられないと、こんなにも無力だったとはね」
空の精霊が常に敵の位置を把握し、風の精霊がその身を疾風の如く走らせ、大地の聖霊の剛力がどんな魔物をも凌駕し、天の精霊が常に体力と傷を癒し、精霊王が森羅万象、すべての戦術と体術を授けてくれる。
エグゼはただ、それらの流れに、身を委ねるだけでよかった。
その数、そのレベルの精霊を同時に呼び出し、使役するだけでも、人間の域を遥かに超えているのだが…。
「できないことを嘆くのは、それこそ子どもでもできる。できなくとも足掻こうとする意思力こそが、未来を拓く糧となる。
なぁに、焦るな!とりあえず、お前が完調するまでの間くらい、俺がなんとかしてやるよ!」
「しかし…!」
「今は、牙と爪を研いでおけ。お前のチカラが必要になるまでは、な。焦りは隙を生み、致命的なミスとなる。
そういう時こそ、一息ついて、自分がなにをしなければならないのか、確かめろ。今、お前ができることはなんだ?」
「少しでも強くなること、だ」
「そう、わかってるじゃないか!
それでいい。今夜はぐっすり眠れるよう、ビシバシ行くぞ!」
「あぁ…!」
そして。
そして、ついに。
シスカの町に、今までにない危機が訪れる。
たたらの家に戻ったソウマとティアラ(寝てる)は、居間で手持ち無沙汰なアーニャと出くわした。
「ソウマ、その体の光・・・。ティアラの特殊能力かなにか?」
ソウマをちらりと見たアーニャはポツリとつぶやいた。
「傷を治す。妖精の・・・。体液?」
アーニャが六つの目を細め、ソウマをジッと見つめる
アーニャの能力。
それがどんなものなのか、本人も説明しずらいらしいのだが、「物事の本質を見極めること」ができるらしい。
その人物の生命の奥底で起こったことすら、彼女の複眼は見えてしまう。
この時ソウマの身体に、ティアラの能力が付与されたことを一目で看破したのは、この能力のためだ。
そしてソウマは、このアーニャの能力こそ、ミハエルの展開している、「魔法を使えなくしている、謎のチカラ」を打ち破る秘策だと考えている。
「魔法とは違う、妖精に備わる能力かしら?それなら、大概の傷は瞬時に癒せそうね」
「さすがだな。見た目になにか、違いがあるのか?」
「ソウマの見た目には変わりはないわよ。ただ、その奥の魂に、普段ない光が見えただけ。で、それがティアラの魂と同じ色をしてたのよ。
そのティアラの色を詳し?く見てみると、なにかの能力だ、っていうのがわかるの!」
この辺からは、もうソウマとティアラにとっては、想像の世界でしか、なくなってしまう。
「わぁ!あーにゃちゃんは、バカヂカラだけじゃないんだね!」
「ティアラ。私のこと、なんだと思ってたの?」
「バカヂカラのあらくねさん!」
なんのためらいもなく答える。
ちなみに、昨夜、うまい酒をかけて、エグゼ、ソウマ、たたら、アーニャで腕相撲をしたところ、みんなの予想を覆し、優勝したのは、アーニャだった。
「…逆に、ここまではっきり言われると、清々しいわね。まぁいいわ。戦場、見に行ってきたんでしょう?」
アーニャはソウマのほうへ、居住まいを正すと、本題に入った。
「あぁ。山に囲まれた平原で、戦いやすそうな場所だ。迂回してこの町を目指すとなると、相当遠回りになる上に、労力も半端ないだろうな。
そんなことで、兵や馬を疲れさせ、時間を食うぐらいな、正面突破した方がマシだ」
「罠とかは、仕掛けないの?人死にが出ないような罠なら…」
「いや。これは、たたらから俺への挑戦だ。受けるなら、この拳一つでやってやるさ」
「…そんなくだらない見栄を張って、負けたりしたら承知しないわよ!だいたい、私だって、あなたがどれだけ強いのかまだ分かってないんだから!」
アーニャが、ソウマの戦いをみたのは、ただ一度だけ。メリクリウスの当時のトップとの一騎打ちでだ。
攻撃力、守備力の総合力で、メリクリウス内では右に出るものがいなかった彼女を、一撃の元に打ち倒した、あの拳。
その破壊力は、筆舌に尽くしがたいものだった。
彼女が持てる限りのチカラと技を用いた渾身の攻撃を、真正面から打ち破ったあの技。
アーニャの瞳には「なにも」映らなかった。特別な能力などなく、単純なる戦闘力と、研ぎ澄まされた武技で、打ち勝ったのだ。
たかが、人間が。
あそこまで己を鍛え上げた、魔物を。
この男なら、たった一人でもミハエル率いるグランベルトに勝ち得るのではないか、と思わせる一撃のだった。
「エグゼとたたらは、ずっと鍛治場にこもりきりか?」
「えぇ。ずっと、たたらが剣を叩き続ける音が聞こえてるわ。でも、剣を作るに当たってエグゼは役立たずなわけだけど、一緒に鍛治場に居て、なにをしてるのかしら?」
「今朝のあの感じだと、エグゼが側にいることに意味があるんだろう。なにか見えなかったか?」
「…二人の魂に繋がりが見えたけど…。それは中のいい者同士なら、誰にでも見えるものよ。街中とかでも、よく見かけるし。それよりは、強いかな?って思ったけど…」
それは、絆と言い換えてもいいものだろう。しかし、まだ幼いアーニャには、それが、友情なのか、男女の愛情なのかの区別がついていなかった。
「それ以外にも、二人の気の高まりが感じられた。魔法は使えなくても、あの膂力を使えば、それに匹敵するチカラで、剣を鍛えることができるだろう」
「その、「魔法」と「気」の違いが今一わからないのよね…」
「俺も魔法は使えないから違いは、はっきりとはわからないな。ただ、この大陸に来て、俺が「気」を使えているということは、なにかしらの違いがあるんだろう。ま、この戦が終わったらエグゼにでも聞いてみるか!」
「そうね。…でも、私もティアラも」
アーニャは深いため息をついて。
「この町が存亡の危機に瀕しているのに、ただ待つことしか出来ないなんて」
グッと腕に爪が食い込むほどのチカラを込め、歯を食いしばる。
「な?に!俺が勝つ事を祈っとけ!
それが、最後の力になる!」
ソウマは底抜けに明るく、悔しがるアーニャの肩を叩いた。
「祈る、ってそんな!なんの役に立つのよ!」
「俺の役に立つのさ」
一転、真面目な顔つきになるソウマ。
「闘う俺のために祈る人間がいるという事は、その戦で俺が負ければ、傷つく誰かがいるという事だ。なら、俺は負ける訳には行かないんだ。どんな窮地に立たされようが、どんな傷を負おうが、な。
俺に託されたその想いこそが、俺の最後の力になる」
「ソウマ…」
「と、そういう事だ!おれの双肩には、この町の、この大陸の未来がかかってるんだ!負けはしないさ!
それに、例え俺が負けても、エグゼがいる。再び、『大いなる聖霊王の剣』を手にし、聖霊を使えるようになった、英雄がな」
ソウマが鍛治場の方へ、視線を向ける。
それにつられるように、ティアラとアーニャも鍛治場へ。その奥にいるエグゼに視線を送るのだった。
精霊石を高炉に入れ、溶けたら鉄槌で叩き、不純物を取り除き、鍛え、また高炉に入れる。この時点で、剣の中心となる精霊石は、折れないために柔らかく作る。
その上に、切れ味を良くするため、曲がらないために、硬い精霊石でくるみ、更に鍛え上げる。
中に浮く鳥の羽根をも両断する切れ味と、鉄を切断しても折れず、曲がらない柔軟で強靭な剣を打ち上げる。
不純物をどれだけ取り除き、剣を作るに値する精霊石のみを残す。
この技術は、何百年と剣を作り続けてきた、たたらをもってしても、未だに困難な作業だ。
しかし、これだけではただの切れ味のいい剣で、終わってしまう。
特に、素材が「石」である。
そんなものから、鉱石から作るどのような剣にも勝る剣を作らなければいけないのである。
そのため、今までは魔法力を使い、剣に強化魔法を付与した鉄槌で、鍛えていた。
しかし、今回は魔法は使えない。
その対策としての房中術だ。
今まで。
エグゼが倒され、ミハエルが政権を取るようになってからたたらは、この日が来ることを予見していた。
エグゼなら、必ず生き延びて、ミハエルに反旗をひるがえすだろう、と。
今日、この日。この時のために、たたらは気を溜め続けた。
剣を作り続け、更に質の良い武器を作る試行錯誤を重ね、気を練り、房中術をマスターした。
昨夜エグゼと交わった気は今までの魔法力を、遥かに上回る強大なチカラとなり、たたらの体内で渦巻いている。
それを、あらん限りの力を込めた両の腕に託し、鉄槌を打ち下ろす。
その度に火花が散る。
その輝きは、正に命の煌めきそのものだった。
一つ打ち、気を込める。
二つ打ち、人生の集大成を掛ける。
三つ打ち、その生命全てを捧げる。
二人いる鍛治場に、言葉はなかった。
あるのは、この大陸を救うために、今まさに生まれ落ちんとする、伝説の剣の産声だけだ。
…。一方。
そんな中エグゼにできる事といえば、たたらから渡された精霊石をひたすらに磨いていた。
たたらに指定された大きさの球形にするために…。
夜の帳が降りる頃。
台所には、鼻歌を歌いながら夕食を作るソウマの姿があった。
たたらからお金を預かり好きに使っていい、と了承を得ていた。
朝、日が昇る前からこの時間で、たたらとエグゼは、ずっと鍛治場に籠りきりだった。
「ふたりはごはん。食べないのかなぁ?」
ティアラが不安そうな声をだす。
「お腹が空いたら、そのうち出てくるわよ」
アーニャは、節足の先でティアラと遊びながら答える。
「あの様子だと、たたらは出てこないだろう。エグゼはそろそろ出て来そうだけどな」
煮物を作っている間に、パンをテーブルに運び、メインディシュの仕上げに入る。
料理も仕上がる、という時に、エグゼが鍛治場から出て来た。
「えぐぜ?!」
嬉しそうにティアラがエクゼに飛び寄る。
「もういいのか?」
「あぁ。僕が出来ることはもう終わったよ。あとは剣が出来次第、サニーと契約しに行くだけだよ」
エグゼはご飯を今か、と待ち構えているアーニャに目を向ける。
「姫…」
ぽつりと呟いて、席に座る。
そんなエグゼの様子に気づくことなく、アーニャは運ばれてきた料理に手を出すのだった。
「おい、アーニャ。ちゃんと頂きますしたか?女の子なんだから、女の子らしくしとけよ」
「あんたは、私のパパか!しかも、女だから女らしく、とかなに?差別?そんなの今時流行らないわよ!」
お肉を口いっぱいに頬張りながら、アーニャが口答えをする。
「差別、というか、女の子が女の子らしくするのは、女の子の特権だろ?
男が女の子らしくしたって、吐き気がするだけだ。特権は使えるなら使わないとな」
エプロンを外し、自分も食卓に着く。
「特権、ね…」
そう言われると、なんとなく納得してしまった。
「ところで、ソウマはなにか予定はあるのか?」
「僕か?僕は明日、この町の町長に、状況の説明をしに行かなきゃいけないんだ。町は、必ず守る、ってね」
「なるほど。それには、俺もメリクリウスの代表として、着いて行くか。
そして、空いた時間は、最後の悪あがきをするか!
とりあえず、飯を食ったらまた鍛錬だ!」
「ちょっと、あんたはなんでそんなに元気なのよ!帰ってきてから、さっきまで、散々馬鹿みたいに筋トレしてたのに、まだ運動する気?
いい加減やすんだら?」
信じられない、と言った表情で、たたらはソウマを睨みつけた。
「それに、エグゼさんだって、疲れてるわよ」
「ありがとう、アーニャ。確かに疲れてるけど、でも、身体を動かしていた方が気がまぎれると思うんだ。今の僕にできることなんて、ないからね」
エグゼは、そう言って少し寂しそうに優しく微笑む。
その笑顔をむけられたアーニャは、少し頬を染めて、
「ま、まぁ、エグゼさんがそう言うならいいけど…。でも、この筋肉バカに付き合ってたら、明後日も満足に戦えなくなるくらいしごかれるから、気をつけてね」
と言った。
「うん。その辺は自分の限界はわかってるから、大丈夫だよ。あ、あと、僕のことはエグゼ、でいいよ」
エグゼは、アーニャに手を差し出しながら、答える。
「う、うん!改めてよろしくね、エグゼ!」
「こちらこそ」
頬を紅潮させるアーニャと、それを爽やかスマイルで返すエグゼ。
「なんと言うか、アーニャは乙女だな…」
「え?。エグゼが、天然のおんなたらしなんだよ?。あーにゃも純粋でかわいいけど」
そんなふたりを、ソウマとティアラはニヤニヤとしながら、見ているのだった。
翌日。
エグゼとソウマは二人、このシスカの町の代表に会いに来ていた。
「儂が、この町の町長をしている、ドワーフのルドルフだ」
「お久しぶりです、ルドルフさん。エグゼ・トライアドです」
「はじめまして。メリクリウス代表のソウマ?ブラッドレイです。以後、お見知り置きを」
「エグゼに、ソウマ。エグゼはさすがに知っている。精霊王と契約し、たたらが作った剣を使いこなす、稀代の英雄。だったか…。エルモワール王が死んだ時、一緒に死んだと思ったが…」
「おめおめと生き残りましたよ。しかし、どうせ拾ったこの命。最後に、ミハエルに一矢報いてから、散らせてみせます」
「ふむ…。まぁ、儂等は特にお前さんに恨み辛みは抱いていないがな」
口元に蓄えた立派なヒゲを、片手で撫でつけながら、ルドルフは答える。
「もともとこの町はミハエルに攻められ、落とされそうになったらどういう対処をするか、もう決めてある。二人の英雄が勝てなかったとしたら、 儂等も諦めて最後の切り札を使う。だから、後ろにいるこの町の住人のことは気にせずに戦ってくれ」
ルドルフは、そういうと奥に引っ込もうとする。
「待ってくれ!」
特に言葉を発しようとしなかったエグゼに対して、ソウマはなぜかルドルフを呼び止めた。
「もし。もしも、だ」
立ち止まりはしたものの、振り返ろうともしないルドルフの背中に、ソウマは語り続ける。
「俺たちが、たたらとの約束を守り、敵味方の『普通の者たち』に死者を出すことなく、この戦闘を終わらせることができたら、ぜひこの町の力を貸して頂けないか?
この大陸を救い出すために、あなた方の能力を、ぜひ!」
振り返りもせず。
「奴等が従える、造魔以外の死者を出さなければ、か。そんなできもしない約束を、よくもしたものだ。いいだろう。もし本当に成し遂げたのなら、チカラを貸そう。できたら、な」
ルドルフはそういうと、今度こそ奥の部屋へと戻って行った。
エグゼとソウマは、町を歩きながら、明日の戦いについて、話をしていた。
「たたらの作る剣は、間に合うのか?」
「僕も門外漢だから、なんとも言えないな…。とはいえ、間に合うような口振りではあったよ。
できてくれないと、僕もこの戦いでは、何もできないんだけど」
自重気味に笑うエグゼ。しかし、普通の剣を携えたエグゼでは、ソウマの足手まといにしかならない。
「自分でも、魔法と精霊のチカラを借りられないと、こんなにも無力だったとはね」
空の精霊が常に敵の位置を把握し、風の精霊がその身を疾風の如く走らせ、大地の聖霊の剛力がどんな魔物をも凌駕し、天の精霊が常に体力と傷を癒し、精霊王が森羅万象、すべての戦術と体術を授けてくれる。
エグゼはただ、それらの流れに、身を委ねるだけでよかった。
その数、そのレベルの精霊を同時に呼び出し、使役するだけでも、人間の域を遥かに超えているのだが…。
「できないことを嘆くのは、それこそ子どもでもできる。できなくとも足掻こうとする意思力こそが、未来を拓く糧となる。
なぁに、焦るな!とりあえず、お前が完調するまでの間くらい、俺がなんとかしてやるよ!」
「しかし…!」
「今は、牙と爪を研いでおけ。お前のチカラが必要になるまでは、な。焦りは隙を生み、致命的なミスとなる。
そういう時こそ、一息ついて、自分がなにをしなければならないのか、確かめろ。今、お前ができることはなんだ?」
「少しでも強くなること、だ」
「そう、わかってるじゃないか!
それでいい。今夜はぐっすり眠れるよう、ビシバシ行くぞ!」
「あぁ…!」
そして。
そして、ついに。
シスカの町に、今までにない危機が訪れる。
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