人外娘と真面目にファンタジーしちゃう本

葛葉幸一

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第1章 亡国の魔法騎士

決戦と大精霊との契約

兵の行軍は順調。
予想通りのタイミングでシスカの町から程よく離れた草原に、ミハエルの軍勢は現れた。


歩兵、弓兵、騎馬兵の人間の兵士たち。その後ろから、見たことの無い魔物ーーおそらく造魔だろうーーが控えていた。
そして、その一番奥。


これだけ離れていても、その存在感は圧倒的だった。
10mはあろうか。
頭に巨大な角を生やし、全てを噛み砕かんとするかの如く上下に生えた強大な牙。一つしか無い目は大きく、視野角も広く取れることであろう。


山のように盛り上がった筋肉は、鋼でできているかのように強靭で、その手に握られた武器は、武器と呼ぶのもおこがましい、その大きさ、重さだけで、一つの町を破壊できるのではないかという、金属の塊だった。


サイクロプス。一つ目の巨人は広く陣形をとる軍隊の最奥あってなお、一人立つソウマに、あり得ないほどの殺気を送り続けていた。
『やっと着きましたよ、ソウマ君。
…おや、エグゼ君の姿が見えませんが、せっかくの剣が、完成しなかったのですか?』


そのサイクロプスから発せられる声は、先日聞いた、ミハエルと同じものだった。
ただの怪力だけではない。
天才と賞された、ミハエルの戦術をそのまま大軍に伝えることのできる、知将でもあるのだ。
なんという恐ろしい敵なのだろうか。


「なに、この程度の兵力なら、俺一人で十分だから、エグゼには休んでもらってるだけさ」
不敵に笑うソウマ。
実際。
剣自体は出来上がっている。
あともう少し。
この地にいる、日の精霊、サニーとの契約をしなければならない。


果たして、この戦いが終わるまでに、間に合うのか?
『さて、お手並み拝見と行きましょうか、ソウマ君』
数千にも届く大軍を前に、ソウマはただ一人、その孤独な戦いを開始した。




森を走る。ただひたすらに。
背には、出来上がったばかりの剣がある。
あらたな『精霊王の剣』を携え、エグゼは先日行った、『精霊の寝所』に急いでいた。


この先にいる、『日の精霊サニー』と再び契約をかわさなければならないのだ。
その時は2日近くかかった道のりを、今は数時間で踏破しなければならない。そうしなければ、戦が終わってしまう。


「エグゼ、こっちを通ろう!私たち妖精が使う、秘密の抜け道だよ!」
ティアラがエグゼを誘う。その先にいる7大精霊の元へ。
「ここから先、私は行けないから、エグゼだけで行って。
私は、先に町にもどってふたりの無事をいのってるよ」


ティアラは、下唇を噛み締め悔しそうに言うと、エグゼに背を向ける。
何もできない。何のチカラにもなれない。無力が、恨めしい。
「ティアラ、ありがとう!」
そんなティアラのこころの内を見透かしたように、エグゼが微笑む。
ティアラは無力なんかじゃない。
その存在自体が、今戦っている戦士たちのチカラになるのだ、といわんばかりの笑みだった。


たったそれだけのことで、ティアラの心が軽くなる。
「負けないで、エグゼ!」
小さな、でも大きな応援を背に、エグゼは『精霊の寝所』へ急ぐのだった。


「待ってたよ?、エグゼ」
森の中の開けた原っぱに、先日と同じようにサニーは佇んでいた。
しかし、その表情は、この間と違い決意に満ちていた。
『日を司る精霊』であるサニーにとって、戦さは得意なものでは、決してない。


爽やかな朝の、希望に満ちた活力を与え、1日を健やかに過ごすための加護を授ける。
生きとし生けるもの、全てに平等に降り注ぐ、まさに陽の光のように穏やかで優しい精霊なのだ。
本来。


しかし、一度その力を戦に使えば、この世の全ての水分を枯渇させ、砂に変えることも、強力な日差しのごとく、生物に致命的なダメージを与えることも可能なのだ。
恐らくサニーは、エグゼが再びこの地に訪れるまでに、様々な葛藤をしながらも決意したのだろう。
その力を、戦争のために使うことを。


「覚悟はいい??今までの契約とは、訳が違うよ?
今までは、エグゼの魔力で私を自由に呼び出して、エグゼの魔力を使って、この世界で実体を得ていたの。
でも、今はそれができないのぉ。私たちレベルの精霊が『聖地』でもない場所で、実体を保つには、とてつもない程大量の『存在するために必要な力』が必要なの」


つまり、サニーと同等の精霊。七代精霊以上の存在は、代償なしにこの世界に姿を現すことができないのである。
そして、それを可能にする方法。
「それは、この世界で、肉の身体を得ることなのぉ」
「この世界で、肉体を?どうやって、そんなことが…」
「エグゼ、あなたの身体を借りるのよぉ」
「僕の、身体を…?」
「そぅ。貴方と私の魂を一つにして、能力を使うのよ」


魂ごと一つに。
そうなった時、その存在はエグゼと呼べるのか。
「大丈夫。必要ない時は、また私は貴方の魂から離れるわ」
「で、でも、一度離れたら、呼び出せないんじゃ?!」


魂の結合が離れ、エグゼという肉体を無くしたら、サニーはまた精霊界に戻るしかない。聖霊界に戻ってしまった聖霊を再びこの世界に呼び出すための魔力は、使えない。
「大丈夫。たたらは、貴方に聖霊石で球を作らせなかった?普段は、私はそこにはいるわ」


「これか…」
そして、出来上がった新たな『大いなる聖霊王の剣』には、その球がはまるような、窪みが7つある。
「この球に私たち7大聖霊が入り、この剣に取り付ける、さらにこの剣を媒介にして、私たちと貴方の魂を繋げるの。そうする事によって、魔法が使えなくても、聖霊の力をダイレクトに、使う事ができるわ」


でも。とサニーは付け加える。
「気をつけなきゃ行けないのが、私たちと、魂を結合させ続ける事」
今までよりも、タイムラグ無く聖霊の力を自分に反映させやすいが、聖霊と魂を、生命を一つにするにあたって、デメリットがある。


「魂という枠組みの中にあって、人間の魂より聖霊の魂の方が強いのよ。長く私たちと魂ごと結合してると、エグゼの魂は私たち聖霊の魂に、取り込まれてしまうの」
取り込まれる。それとも、別のなにかになるのか。


「そうなると、君たちの力を借りるのは、最後の手段にした方がいいのかな?」
もしくは、その状況に応じた聖霊のみと結合するか。
「この方法は出来れば教えたくなかったし、使って欲しくなかったわ…」


「大丈夫だよ、サニー」
悲痛な面持ちのサニーに相対して、エグゼはいつもと変わらない、陽だまりのような笑顔を浮かべる。
「せめて、ミハエルに一矢報いるまでは、僕は死ぬつもりはない。たとえ、この魂が砕け散ったとしても、ね」
言葉と表情が釣り合わない。
心のどこかが、欠けてしまっているのだろうか。


今日までのエグゼは、笑顔の意味を忘れる程凄惨な日々を送ってきたのだろう。
「じゃあ、契約をするよぉ。今までより深い、魂の契約を…」
サニーが、グッと近づいてきたかと思うと、エグゼの意識が不意に途切れる。
そのまま、エグゼの精神は深い闇の底に沈んでいった。
 



「弓兵、一斉掃射。次列、前へ!」
人間兵の命令が飛び交い、ただ一人戦場に立つソウマに、矢が雨のように降り注ぐ。
しかし、ソウマはその場から動かない。
矢がまさにソウマに刺さらんとする、その刹那、ソウマの右腕が動いた。
素早く振られた腕。そこから放たれる衝撃波は飛来する矢を、全て吹き飛ばしていた。


兵士たちに動揺が走る。
次列の弓兵など、必要ない。今の一斉掃射で決まるはずだった。
しかし、目の前にいる男はたった一人で、迫り来る矢をかわすでもなくその場から動くことなく片腕でなぎ払ってみせた。


「じ、次列!一斉掃射!その後直ちに歩兵進撃!」
指揮官の命令が一瞬遅れる。
さらに、次列の弓兵の動きにも刹那の隙が出来る。


とはいえ、訓練された兵隊たちである。
その隙など、瞬きする程でしかない。その間に、ソウマは指揮官の前に立っていた。


「なっ?!」
指揮官が気がついた時にはもう遅く、矢より鋭く、鉄槌よりも強力な一撃が腹部に突き刺さる。
たったそれだけのことで、兵隊たちは烏合の衆と化す。


指揮官を失い、圧倒的な戦力を見せつけられた人間兵など、物の数ではく、まるで単純作業かのように、ソウマが屈強な戦士たちを薙ぎ倒していく。
一振りの拳が。
振り上げた脚が。
放たれた衝撃波が。
突き刺さるような刺突が。
それは、いかなる神秘か。
その一つひとつが、強力な破壊力を帯び数十の人間を必倒させる。


ーーこの世界は、魔法が使えない筈ではなかったのかーー
その場にいる兵士たちの胸に去来したのは、どれも目の前の光景を否定する物ばかりだった。
いや、中には、羨望の眼差しを向ける物さえいた。


たったひとつの肉体が、数千の軍勢に匹敵する奇跡の如き現実。
少年の頃、毎晩のように読み返した冒険譚の主人公のような、圧倒的な強さ。
見る間に、倒れた兵たちの山が築かれて行く。


その中にあって、命を落としたものは誰一人として、いなかった。
「ま、こんなものかな?」
息を切らすでもなく、一息ついたソウマの前には、この大陸。いや、この世界どこを探しても見当たらないような魔物達が控えていた。


ーー造魔ーー
ミハエルが生み出した、新しい生物。
自我を持たず、ミハエルの命令のみを聞き入れる忠実なる下僕。
そして、幹部クラスの造魔は、ミハエルが直接操れるという。


まさに、ミハエルの分身となって、戦場に立ち、すべての造魔にダイレクトに命令を聞かせることができるのだ。
それが魔法なのかは、皆目見当もつかないが…。
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