人外娘と真面目にファンタジーしちゃう本

葛葉幸一

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第2章 剣聖の魂

第4話 むかし話


「まだ着いてないの?」
 名もなき森にて、7大精霊である『月の精霊』と会う宝玉を得たエグゼとアーニャ。
 

 それから5日経ち、2人はツクヨミの街に到着していた。
 背後に山がそびえ、前面に大きな湖を湛えた美しい街である。


 その名の由来は、天空に輝く月が湖にも映し出され、あたかも荘厳な月が二つあるかのごとく見えることからつけられた という。
 

 湖に映った月の微妙な揺らぎを読み解き、その年の吉凶を占っているという。
 そしてその湖の真ん中に『精霊の寝所』がある。
 

 月を司る7大精霊の1柱が、この地に眠っているのだ。
「は、はい。すでに本隊と合流していても、 おかしくはないのですが…」
 ソウマ、たたら、ティアラの3人は一度メリクリウスの本隊と合流。


 ソウマとティアラはこのツクヨミの街に。たたらはメリクリウス全体の武具を作るために本隊に残る、 という流れだったはずだ。
 しかし3人は、未だにメリクリウスの本隊と合流していないらしい。


 伝達係のハーピーの少女だけが一足先にその事をアーニャとエグゼに伝えるため、ツクヨミの街に来ていた。
「はぁ、いいわよ、放って置いて」
 ため息まじりにアーニャが言い放つ。


「だ、大丈夫なのか?」
 ソウマがいる限り敵と戦って負けたり、という心配はないが。
「いいの!どうせソウマの悪い癖が出ただけなんだから! ……でも、悪いことじゃないのよね……」


 斯く斯く然々。
 旅の道すがら人助けをして回っているソウマの話をエグゼにも伝え た。
「わたしと旅をしてる時もそうだったんだから!  まごう事なきトラブルメーカーよ!」
 そして旅は遅々として進まないのである。


「なら、心配ないね。僕たちは僕たちのできる事をしよう」
 エグゼ達にできる事。
 7大精霊と契約をする。
 それが今のエグゼとアーニャの使命だ。


 ソウマ達がただ遅れているだけなら、何の心配もいらない。
「あ、でもこの街には、メリクリウスのNO. 3のケンタウロスのビスタ・ブエナがいるのよ。
 彼女にも挨拶しなくちゃ!」


 いつかはミハエルの手下が7大精霊を奪いにやってくるのではない かと、この地に有力な者を置いているのである。
 そしてシスカの街しかりこの大陸の西南に向かいたいのなら、この街の裏の山を通るのが一番容易いのである。


 霊山でもあるこの山脈を超えるのは相当腕に自信のある者か、 精霊や土地神の加護でもない限り、不可能。
 そのためここを拠点にしておけば、大陸の1/ 4は配下に収めているようなものだ。


「ハピナが来たから、何かと思えば、アーニャではないか」
 街の奥から、豪華な鎧に身を包み、巨大なハルバートを手にしたケンタウロスがやってくる。
 声や体つきからして、女性のようだが。


「あ!ビスタ!久しぶり」
「うむ、久しいな。……。一緒にいるのはあの男ではないのだな」
 アーニャの後ろにいたエグゼに目をやる。


 あの男、とはソウマのことだろうか。
「あの男は、どうせどこかで道草を食っているのであろう。馬でもないのにな!ふふっ」
「あはは……」
 これさえなければ、とアーニャはいつも思う。
 容姿端麗、文武両道。


 ソウマが来るまで、 メリクリウスのTOPを張っていただけのことはある才女だが、いかんせん親父ギャグを飛ばす癖がある。
「で、あいつは?」
 くいっ、と顎でエグゼをさす。
「僕はエグゼ。エグゼ・トライアドだ」
 その途端、彼女の表情が変わる。


「……ほう。貴様が『あの』エグゼ・トライアドか」
 この大陸に住んでいる者なら、一度は聞いたことのある名前。
 稀代の英雄だ。知らないはずがない。
 そしてその末路も……。


「で? その英雄様がアーニャと一緒にこのツクヨミの街になんの用だ?」
 ビスタの視線は厳しく、矢のようにエグゼを射抜く。
 その意味は、 不甲斐ない魔法騎士団とその騎士団長であったエグゼの失態に対し てであった。


「まぁ、 所詮人間など魔法が使えなければ魔物に敵うはずがないのだ。 例外を除いてな」
 その例外とは、もちろんソウマのことである。
「ビスタ、そんな言い方……!」


「黙れアーニャ。この感情だけは 他の大陸から来たお前とソウマにはわからん。 この大陸に住む我々の問題だ」
「で、でも、エグゼだって、頑張って……!」
 正に一触即発の事態だった。
 ビスタは、己の武器に手をかけている。


「いいんだよ、アーニャ」
 しかし、エグゼは優しく微笑む。
「彼女の言う通りなんだから」
 数百年続いた聖エルモワールの栄光が、たった一夜。


 たったの一夜で灰燼に帰したのだ。
 それからは、正に地獄と呼ぶに相応しい政治が始まったのだ。
 牛馬人身道に倒れ伏し、疫病、飢饉が蔓延する。
 そうして滅んだ街や村を、ビスタはこの数年でいくつも見てきたのだ。


「貴様さえ……。貴様がもっと強ければ……!」
 ぎり、と歯ぎしりの音が、エグゼにも聞こえてきた。
「だからこそ、だよ」
 ぽつりと、微笑んだままエグゼがつぶやく。


「だからこそ、死んでも僕はミハエルを殺さなくては行けないんだ」
 顔は笑顔だった。
 しかし、その瞳は誰よりも深い地獄を見てきた者の光だった。


「今の貴様は本当に強いのか?あのミハエルの、あの造魔を倒すほどに? そして、強くなるのか? 神魔を倒せるほどにっ!」
 巨大な戦斧がエグゼの眼前に突きつけられる。
「試してみるかい?僕の今の強さを……」


 そういうと、エグゼは右腕の手袋を外すとビスタの顔に投げつける。
 貴族の間では、これは決闘の申し込みだ。ビスタは当然の如く、 それを頬で受ける。


「いいだろう。我が名は逆賊、メリクリウスがNo.3ビスタ・ブエナ!いざ尋常に、勝負!」
「……。ただのエグゼだ。参る!」
 が戦斧を振り回し、上段から切り掛かる。


 まだ様子見といった軽い一撃だ。
 エグゼは、剣も抜くことなく容易く交わしてみせる。
 ハルバートの斬撃の軌道が途中で変わり、エグゼから遠ざかると 今までの緩さが嘘のような速度で突きに変化した。
 ゆっくりとした大振りからの、小さく鋭い突き。 


 戦闘開始直後のこの動きに着いてこれる者はそうそういない。
 しかしそれすらも軽々と避けてみせる。しかも紙一重で、だ。
 それで終わる攻撃ではない。


 今のフェイントなど、ただの試しでしかなかったのだ。
 重量級のハルバートを容易く扱い、上下左右、あらゆる角度から連撃を繰り出してくるビスタ。
 

 それを顔色一つ変えず、紙一重でかわし続けるエグゼ。
「どうした、避けてるだけでは勝てんぞ? なぜ攻撃してこない?! 」
 少しずつ激昂し始めるビスタ。
 

その問いに、ニコリと微笑み返すエグゼ。
「き、貴様……!」
 かぁっ、と頭に血がのぼる。
 それまで綿密に展開されていた戦斧の


縦横無尽の攻撃が、 見る影もない力任せの大振りになる。
 その刹那。
 エグゼはゆるり、と流水のごとき足捌きで攻撃態勢に入る。


「!! しまった?!」
 しかしビスタもとっさに攻撃を変え、柄を上から下へと突き下ろす。
 とっさの攻撃すら読んでいたかのように交わしたエグゼは、納刀された状態の刀を素早く一閃する。


 ……。
 本来なら、高速の抜刀術で、敵を一刀両断していることであろう。
 しかし今は、鞘に納めたままの一撃。
 鎧で強固に守られているからこそ、無傷で済んだが、まさに痛恨の一撃だ。
「くっ!まさか、私が負けるとは……」


 ビスタの猪突猛進な性格も考慮しての戦略。 
 そして大振りの隙を逃さない洞察力。一振りで決める決定力。
 どれをとっても、文句の付けようがない。


「まさか、人間にやられるとはな……。あの男とも違う、また異質な剣だ。まるで、こちらの手の内を全て知っているかのような……」
 予知のごとき予測で、敵の動きを見切り、返す刀で斬りつける。


「まぁ、立ち話もなんだ。詳しい話は駐屯地にて聞こう」
 とりあえず三人はメリクリウスの駐屯地にむかう。


 逆賊という立場上、グランベルトの支配下の街は立ち寄ることが出来ないため、どうしても野宿が多くなる。
 エグゼとアーニャは久しぶりに屋内でゆっくり休むことができたのだった。





 昔の話。
 この村にいた大いなる魔女。
 村人を病から救い、外敵から助けていた英雄が如き魔女。


 しかし、時代と共にそれは人々から忌み嫌われる者となる。
 神の御名に置いて駆逐されていく邪教として民間信仰は消えていっ たのだ。


 魔女は英雄から、おとぎ話のような、人々に仇なす『魔女』になってしまったのだ。
 かつて怪我をすれば。病になれば。魔物が出れば。人々は魔女に頼った。


 しかし、村が栄え街道が通り衛生面が改善されると病は激減。
 さらに王都からの兵隊が近場に常駐することになってからは、魔物に襲われる心配もなくなった。


 魔女はただ、自分の出番はなくなった、と深い山に暮らしていた。
 無闇に姿をさらし、神を信じる人々に不快な思いをさせるでもないと。


 自分は嫌われ用無しになったとしても、村が平和で自分の力がなくても発展していくならそれに越したことはない。
 万が一にも自分の力が必要ならば、その時にこの魔力を使えばいい。


 そう、暗き洞窟の中で椅子に揺られながら悠久の時を過ごそうと決めていた 。
 しかし。
 人間とはかくも卑しいもので、真にチカラのある者を恐れるのだ。
 正教が広まるにつれ異端のチカラは悪しきチカラへと変わっていく 


 実際に魔女が何かをしたわけではない。
 しかし、この聖なる魔女は、異教の神を信じる不審徳者として、噂されるようになっていた。


 そして、この領地を治める正教者は敬虔だった。
 異端は排除せよ。
 それは、恐ろしくも正教を信ずる者にとっては当たり前で、兵士や近隣の村人たちは、我も我もと集い魔女の元へと進軍して行った。


 ……。過去の感謝も忘れ。
 自分たちの知らない術を行使するというだけで。
 今まで自分たちを助けてくれていた存在を排除しようというのだ。
 温厚だった魔女も、さすがに抵抗をした。


 ーー自分が何をしたのだ。
 ーーただ森の奥で静かに暮らしたいだけなのに!
 しかし、魔女の嘆願は聞き入れられない。


 敬虔な信者には、異端を排除する事こそが、神にその信仰心を示す見せ場なのだ
 多勢に無勢。魔女の抵抗も虚しく、魔女は死の刑台へと立たされていた。
 魔女は呪う。この世の全てを。


 死の際に立たされて、残りのチカラの全てを持って、自分を迫害した者全てに呪詛をかける。
 しばらく。魔女は火刑に処された。
 その魔女の灰からは、一本の杖が発見された。
 魔女が所持していた物だろうか?


 その杖は、異端の者を始末した戦利品として、領地を治める統治者の家に厳重に保管される事となった。
 それから、怪異が始まることも知らずに。


 満月になると、 人が消えるという事件が領内で発生するようになった。
 最初は1人そして2人と。
 その事態が統治者の耳に入る頃には、犠牲者は20を超えていた。
 それと比例するように、魔物の被害が増えるようになっていた。


 魔物の討伐と、行方不明者の捜索。
 この2つをこなしているうちに、大事件がおきた。
 とある町の住人が、一晩のうちに1人残らず消えてしまったのだ。
 草木も眠る満月の深夜のこと。
 だと、推測される。
 と同時に、その町には魔物が住み着くようになっていた。


 粘液生物。スライムだ。
 町に到着した兵士たちは、スライムを駆除しようと町に入り、そこで見てしまったのだ。
 文字を書くスライムがいることを。
 それを見た兵士長は、そのスライムとコンタクトを取ることにした。


 そして。
 このスライム達こそが、この町の住人だったことをしる。
 今回、この町に読み書きのできる識者がいたから発覚した衝撃の事実は、すぐに統治者の耳にも入った。


 なにせスライムが人の言葉を解し、あまつさえ文字を書きコンタクトを取ろうとするとは。
 前代未聞の事件である。
 そして、意思疎通の図れるスライムから、事態を聞き出すことにした。


 城の方から、なにやら光が見えた、その光は強烈で、真昼よりも明るく村を包み込んだのだという。
 そして気がつけば、村人は全員スライムと成り果てた、と。


 しかし、城に住む者にはまったくそんな光など見えていなかった。
 戦争がないとはいえ、領主の住む城である。


 夜間も交代で、警邏をしている。
 真昼の如き光などがあれば、気付かないはずがない。
 そこまで話したスライムは、なぜかいきなり襲いかかってきたのだ!


 外の今までおとなしかった元住人のスライムも、騎士団に突如攻撃を始めた。
 それは時間が経つと、人間としての自我や理性を失い完全にモンスターとなる、との見解だった。


 騎士達は、守れなかったのだ。
 愛すべき領民を。
 それ以上手がかりがないのも事実。
 城の中に怪し者怪しい物がないか、調べることとなった。


 そんな折、女中の中でも一番の古株は、呪いだ、といった。
 年老いた彼女は正教が広まる前に、 魔女にその命を助けられたことがあったのだ。


 今回の魔女狩りにも深く反対をしていたが、一老婆の言うことなど、誰が聞くと言うのだろうか。
 その死した魔女の怒りだと、老婆のは言う。


 確かに、あの杖を持ち帰ってから、この事件は起こり始めた。
 宝物庫にしまい込んでいた杖を持ってきて、監視をすることになった。
 すると、どうであろう。


 杖が鈍く光ると、領内でも比較的城に近い村が、目も眩むようなまばゆい光につつまれたのだ。
 すぐさま騎士団の精鋭が村に駆けつけたところ、やはり、村人はスライムと化していた。


 この事件を恐れた領主は、正教でも名の知れた大司教に連絡を取り、この杖のことを話した。
 魔導具の扱いや呪いの治療などを専門的に行い、大司教まで上り詰めたこの男の腕は確かだった。


 この領地の外れ。
 小さいながらも聖域とされる山の中にある小さな洞窟。
 そこにこの杖を祀り、封印を施すことによって、2度と同じような事件は起こらないだろう、 ということであった。


 領主は直ちに言われた通りの洞窟に杖を封印した。
 それ以降、同じような事件が起こることはなかったという。
 
 そういう御伽話。
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