人外娘と真面目にファンタジーしちゃう本

葛葉幸一

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第4章 トール・ド・ルート

第8話 トール・ドライゼンという男

 トールは最後尾で戦況を見守っていた。
 相手は手負い。
 などと侮ってはいなかった。
 それほどの戦力を秘めた相手だ。


 しかし、こちらの戦力も、相手からしたら絶望的だ。
 もし『メリクリウス』の本隊が到着したとしても、その戦力差が埋まるとは思えない。


 殲滅戦覚悟での部隊投入だった。
 もしこの男が一人、万全の状況でここに立っていたら……。
 それだけで、『トール・ド・ルート』に勝ち目はなかったかもしれない。


 しかも、この男と肩を並べる程強い男がもう一人いるという。
 なんという脅威か!
 しかし、トールは戦慄で震えると供に、嬉しさに打ち震えていた。


 それは、戦士としてのトールの魂の震えだ。
 こんな男と心行くまで戦いたい。
 もし『トール・ド・ルート』を率いていなければ、正しくそうしたであろう。


 トールは元は、『聖エルモワール』に使える騎士であった。
 魔物からなる、獣王兵騎士団の団長でもあった。


 しかし、聖エルモワールが消えたあの日。
 王を守れず、敵の魔物になす術なく打ちのめされた。
 それが、ミハエルが作り出した「造魔」ーーある意味キメラーーだと知ったのは、戦後1年ほどたった頃だった。


 そこから、トールは魔物だけの組織、『トール・ド・ルート』を築いた。
 それは最初は、魔物でも勝てない相手に、人間如きが適うはずがない、という思いからだった。


 しかし、そこから組織が膨らみ始め、人間がいなくてもやっていける。
 むしろ、人間という足を引っ張るような枷が外れた方が、暮らしやすいのではないかと思うようになった。


 同時期に台等してきた、『クロス・クルセイド』の存在がさらに人間排斥に拍車をかけた。
 最大の敵はミハエルの造魔。
 ついで人間。


 だと思っていた。
 ここ半年余りで、メリクリウスがでてくるまでは。
 しかし、人間と魔物の共存を理想に掲げた国家が滅んだのだ。
 次も同じ理想を掲げて、また滅びないとも思えない。


 ……。
 ある意味クロス・クルセイドとは、話し合いで折り合いが付いたかも知れない。


 魔物と人間が生活圏を同じくしなければよいだけの話なのだ。
 クロス・クルセイドは、こちらから仕掛けない限り、向こうから戦争を仕掛けることはなかった。


 つまり、自分達の陣地さえ守れれば、その外のことはどうでもいい、という体制だった。
 それならば、いっそ王政グランベルトに対しては、共闘という形をとってもよかったかもしれない。


 そう思っていた矢先に、クロス・クルセイドは戦で負けた。
 根本的な敗因は、グランベルトの介入だが、それがなくてもメリクリウスには負けていたであろう。


 しかし、ある意味平和的に解決できたことを、このメリクリウスはつぶした。
 トールはそう考えていた。
 この男をこの目で見るまでは。
 トールは、この男にある種のカリスマを見た。


 それは、「ある男」にも通ずるものだった。
 トール自身が戦う前から敵対したくない、とある意味負けを認めていた男。
 それが、エグゼ・トライアドだ。


 あの攻城戦で死んだと思われたいた、旧国の英雄はしかし、汚泥を啜りながらも生きてたのだ。
 組織としての悪い知らせ。
 武人としてのよい知らせ。
 この国にとってはどちらになるか。
 また、自分がもし組織の長でなければ、どうしていたか。


 グルグルとめまぐるしく思考が重なった。
 しかし、真実、敵なのだ。
 それに気付いたトールは兵を動かした。


 万全の準備を整わせ、敵がもっとも弱ったときを狙い、必勝の布陣を作り挙げた。
 これなら、勝てる。
 勝って見せる。
 そして、この大陸に今一度平和をもたらすのだ!


 そのために、自身も鍛え上げた。
 強くなるために、自身も改造し、醜い合成魔獣(キメラ)と成り果ててまで、参戦した。
 今ここで、勝たなくてはならないのだ。


 そう決意して、一歩を踏み出す。
 「ソウマ殿、一騎打ちを申し出るっ!!」
 彼は武人であることを捨て、群の長としての命令を下した。
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