人の噂は蜜の味

たかさき

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お昼を食べる話(深見の教室)

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「あれ、塔野じゃん。どーしたの?深見いないよ」

 昨日自分の教室からまさかの出禁を食らった。
 仕方ないので、お昼を食べるため今日は深見の教室にやって来た。
 深見からは購買に行ったあと俺の教室まで迎えに行くと言われたが、さすがにそこまでする必要はないだろうと考え、自主的に俺はここにいる。

 そしていま、深見の教室の前でチャラいやつに絡まれている。

「知ってる、あとで来るから深見の席に──」
「あー、聞いた聞いた。自分の教室追い出されたらしいねマジウケる。で、今日こっちで食うの?」
「…………そう、だから深見の席──」
「なに、ここでもイチャイチャするの?」
「しないから、してないから。だから深見の席へ──」

「塔野俺のこと覚えてる?」

 そう言われてようやく目の前の男をじっくりと見る。

 見覚えはある。
 深見の教室に来るときに見かけるし、チャラいし目立つ。深見のチャラ仲間だろうか、チャラ仲間で知っているヤツといえば──

「──あっ、呼び出しの人だ」
「そうそう、二人のキューピッド」
「キューピッド?」
「キューピッドっしょ」

 そう言うと男は俺の肩に手を回し、そしてそのまま教室の中に連行する。
 なんだろうかこいつは、馴れ馴れしいうえに人の話をあまり聞かない。
 しかし、いまさら深見を待っていればよかったと後悔してももう遅い……。


「俺は深見の席──」
「塔野さぁ、深見と付き合ってんだよね」
「……いや、まだそこまでは」
「ウソだぁ、あれで付き合ってないとかおかしいって」

 ──そう思うなら聞くなよ。

「ちょっと深見の席が──」
「なに?どっちがどうとかあるの?」
「……どっち?」
「そう、塔野くんはどっちなの?」

 ──どっちってなんだ。

 男を見るとすごく興味津々といった感じで俺を見ている。

「……意味、わかんないけど」
「えっマジで、深見と付き合ってんじゃないの」
「だから、まだそこまでじゃないって」
「じゃあどこまでなんだよ」
「なんでそんなこと言う必要があるんだよ」
「深見何も教えてくれないから気になんだよ」

 男がそう言いながら俺を揺すってくる、脳みそが揺れる、やめていただきたい。

 なんで俺がこんな質問責めに合わなくてはいけないのだ。

 そういえば、深見は質問があっても答えないとか言っていたな。
 そのせいで俺は絡まれているのだろうか──おそらくきっとそうなのだろう、すべて深見のせいだ。
 そして深見が自分の教室でお昼を食べるのを嫌がっていたのはきっとコイツのせいなのだろう。

 そんなことを考えながら、なんとか男から逃げようともがいているのだがなぜか逃げられない。
 ジリジリとした攻防の末、気がついたら黒板の前まで追い込まれていた。

 そしていま、俺は黒板と男に挟まれて壁ドンされている状態だ──なんだかカツアゲでもされている気分だ。
 傍から見てもそんな構図になっているに違いない。
 誰か助けてくれないのだろうか──周りに視線を動かすがみな何事もないかのようにご飯を食べている。


 ──このクラスの人たち他人に興味なさすぎじゃない?


 深見も全然来ないし、ここは自分でどうにかするしかなさそうだ。

「お前もう離せよ。俺、深見の席で大人しくしてるから」

 俺がそう言うと男は「えぇーつまんないじゃーん」と言い放った。

 ──つまんないってなんだよ。

 同じ「つまんないじゃん」でも平野のやつなんて可愛いもんだなと現実逃避していると「とりあえず、塔野は深見のこと好きなんだよね」と、また話しかけてくる。

 ──その質問はいまさらすぎる気がする。

 かといってここで好きだなんて言うのもイヤだ、もう黙秘するしかあるまい。
 ……深見遅いな、あいつまた余ったアンパンでも買ってるのかな──などと考えていると「おい、黙るなよ」とまた揺すられた。

「もーなんだよ」
「俺が聞いてんだから答えろよ」
「いやだよ」
「なんでだよ」
「だからなんで答える必要があるんだよ」
「何言ってんだよ、俺と塔野の仲だろ」

 ──どんな仲だよ。

「俺がいたからこその二人だろ、俺に知る権利があると思わねぇ?」
「ねーよ、そんな権利は発生してねーよ」

 謎理論に呆れつつ、早く深見来ないかなーと思いながら揺られていると

「何やってるの」

 と、ようやく待ち望んだ声が聞こえた。
 ホッとして声のした方へ振り向くと──なぜか睨まれている。


 激おこ深見君がそこにいた。


「俺、塔野の教室に迎えに行くって言ったよね」
「…………はい、言ってました」
「何勝手に絡まれてるの」
「……子どもじゃないんでここに来るくらいひとりで平気かな~と思いまして」
「子どもじゃないんだったら言われたことくらい守りなよ」
「……すみません」

 深見はため息をついたあと男を一瞥し、踵を返すと背を向けて歩き出した。
 男が「怒られてやんの」と楽しそうに言ってくる

「お前が絡んでくるからだろ」
「塔野が深見の言うこと聞かなかったからじゃないの」

 …………確かにその通りだ。

「まぁいいからメシでも食おうよ」
「……お前と食べるの?」
「だって深見すげー怒ってんじゃん。怒らせたの塔野だろ」

 確かに……そうかもしれない。

 それでも未練がましく深見を見ていると腕を引かれて男の席まで連れて行かれた。
 
「食べないと昼休み終わるよ。俺が食べてやろっか?」
「食べるよ、なんでお前が食べるんだよ」

 仕方なく名前も知らない男の席で弁当を広げるがもうあまり食欲がない。
 ──なんで俺ここにいるんだろう。

「深見怒るとしばらく口聞いてくれないし、ウジウジしてても無駄じゃね」
「……だってそんなに怒らせたことないし……」
「んー、まえに俺が相合傘書いたときは──」
「はぁ?なんだよあれお前だったのかよ。あれはまだ許してねーぞ」
「そうなの?でもその時は全然口聞いてくれなかったぞ1か月くらい」
「……1か月」

 そんなことはないと思うけど、深見と1か月口聞かないとか…………。

「なんで泣きそうな顔してんの」
「……してないよ」
「してんじゃん」
「うるさいな、俺がどんな顔してても──」

「何でこんなとこで食べてるの」

 いつのまにか深見が横に立っていた。
 しかも無表情でどこ見てるかわからなくて怖い。
 ──というか、深見は怒って俺を無視してると思っていたのだが違うのだろうか?
 あんな状態で背中向けられたら拒絶されたと思うよな、普通。以前も不機嫌になって無視されたことあるし、それでもついて来いってことだったのか? 深見のホームだから? ホームだから俺様なの? ──と混乱していると、

「深見が怒ってるせいで塔野泣きそうなんだよ、代わりに俺が慰めてやってるんだろ」

 そんな事をチャラ男が言い出した、何を言い出すんだこいつは。

「泣きそうになってないし慰められてなんかないだろ、お前適当なこと言うなよ」
「泣きそうになってただろーが」
「なってないって、もういいよ俺自分の教室戻るから」
「でも塔野全然食べてねーじゃん、もったいないじゃん」
「後でこっそり食べるからいいんだよ」

「……何で、仲良くなってるの」
 深見が感情のこもらない声で変なことを言ってくる。

「はぁ? これのどこが仲良くなってるんだよ。こいつ全然人の話聞かないし」
「聞いてただろーが、塔野が俺の質問に答えなかったんだろ」
「なんであんな質問に答えなきゃいけないんだよ、だいたい俺がお前の質問に答える義理なんかないんだよ」
「だーかーらーお前らは俺に恩義みたいなもんがあんだよ、俺が塔野呼び出さなきゃ仲良くならなかったんだから」
「そんなもんはあの相合傘で帳消しだろーが、お前自分のやったことわかってんの? あれ完全にイジメだよ」
「結果オーライならいいだろ、よかったなラブラブバカップルになれて」
「お前人のこと馬鹿にしてるだろ」
「してねーよ、事実なんだろバカップル。それで自分の教室追い出されたくせに」

 …………く、悔しい、でも追い出されたのは事実だから言い返せない。
 俺が悔しがっているといつの間にか呆れた顔になった深見が「塔野、こいつの言うことにそんな必死に言い返さなくていいから。そもそも無視すればいいんだから」と慰めてきた。

「深見それひどくね、っていうかお前機嫌が悪くなるとすぐ人を無視するのやめろよ」

 それは確かに一理ある、俺も前から思っていた。
 深見の不機嫌無視に凹んだ事が何回かある。
 俺が深く頷いていると、「だよな、こいつひどいよな」と男が同意を求めてくる。
 その意見には同意するが、コイツに同意するのは嫌だ。それがもろに顔に出ていたのか「塔野もひどくね」と騒ぎ出す。

 そんなやり取りを見ていた深見が吹きだした。
「レベルが一緒」などと言っている。なんのレベルだ。

「そもそも深見がめんどくさいやつがいるって理由言ってくれれば俺ひとりで来なかったよ」

 そう言うと「ごめん、ごめん」と言って笑っている、どうやら深見の機嫌は治ったらしい。
 めんどくさいやつが「ひどくね」と騒いでいるがそれについては無視しつつ、結局3人で昼ごはんを食べることになった。

「で、深見は何であんな怒ってたんだ」

 そう、めんどくさいやつが楽しそうに言った。どういうことだ、俺のせいで怒ってたんじゃないのか。深見を見ると男を見て固まっている。

「マジかよ、ヤベーなお前」

 そう笑いだした男を今度は目を細めて見ている。
 なんだろう、まったく意味がわからん。チャラいもの同士何か通じているのだろうか。

 チャラ男は今度は俺を見て「まぁでもなんとなくわかる」と言った。

 何がだ、何がわかったんだ。俺は全然わからんぞ。そして何が何だかよくわからないが俺の頭をワシャワシャと撫でてきた。
 深見はただそれを見ている、そして──

「うわ、つまんねー」

 そう言って男が笑うと、深見も微かに笑った。


 ──なんなんだコイツら。





「塔野おかえり~。深見の教室で修羅場ってきたらしいな」

 自分の教室に戻ると平野が笑顔で出迎えてくれた──なんだろう、落ち着く。平野がこんなに落ち着く存在だとは思わなかった。
 それにしても──情報の伝達早いけど修羅場るって? 修羅場ってたのか俺たち。

「ねえ、修羅場るってナニ?」
「なんか深見をめぐって西田とバトルしたんだろ」
「……西田ってダレ?」
「え?ほら、深見の仲間のチャラいやつ」

 あいつ西田っていうのか。それにしても……

「あのクラスの人達噂話下手じゃない?」
「は?」

 あの雰囲気の中のどこに深見を奪い合う要素があった?一切なかったはずだ、何でそうなった。
 なんだろう、なんか……なんか色々モヤモヤする。

「深見の教室……なんか嫌だ」

 俺がそう言うと平野はとても微妙な表情をした。
 そして、俺たちの出禁は解除された。
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