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あんパンの話
しおりを挟む「深見って姉か妹いるよね」
「……言ったことあった?」
「ほら、開かずの深見の部屋の向かいにミユってプレートあったから」
「あぁ……姉だよ」
「似てるの?」
「…………まあね」
「……じゃあ…………美人かな……」
「笑いながら言うのやめてくれる」
俺たちは大人しく俺の教室でご飯を食べている。
普段の会話はだいたいこんな感じだ。
しかし──
「なにそれスゲー気になるんだけど、写真とかないの?」
最近……たまに一人増える。
「なんで西田いるの」
「いーじゃんたまには」
「自分の教室帰れよ」
「なんだよ塔野、そんなに深見と二人がいいのかよ」
そうニヤニヤしながら言ってくる。
こいつは性格が悪い。相手にしてはいけない──これが俺と深見の共通認識である。
しかし、つい話しかけてしまった。
いかんいかん、無視しなくては。
「それよりも写真ないの?」
「…………」
深見のスルースキルは完璧である。まるで西田などそこに存在しないかのようだ。
西田も俺にはしつこいが深見に対してはそこまで執拗に食い下がらない。
問題は俺である、無視しきれずについ答えてしまう。いっそここは試練の場だと割り切って以前習得を諦めたポーカーフェイスを手に入れるべく鍛錬したらいいのではと考えている。
「なぁ塔野、さっきの開かずの深見の部屋ってなんだよ」
無視、無視、聞いてはいけない。
「あーなるほどねぇ、そうやって二人で俺を無視するわけだ。ひっでーカップルだなぁ」
あからさまな挑発である、こんなのに乗ってはいけないと俺は学習した。俺は大人しく弁当を食べる。
「塔野の弁当って誰が作ってんの? ママ?」
──今、一瞬吹き出しそうになってしまった。なんでママ? もしかして西田母親のことまだママって呼んでんの? この見た目で?
そう思って西田を見ると嫌な笑みを浮かべていた───わざとか。
もうここは深見だけ見てればいいのだろうか。
──深見、今日もアンパンか……そんなに好きなのかな。
「深見も……好きだよね」
俺がそう言うと深見は一瞬眉を寄せたあと「好きだよ」と笑顔で言った。
「なんで?」
「……素朴な感じが……するから?」
「素朴……なるほど。でも毎日だよ、飽きない?」
「飽きないよ」
「なんで?」
「好きだから」
「……あぁそうか。俺、本当は仕方なくだと思ってた」
「なんでそう思ったの」
「だって……好きだって人ほかに知らないし……」
「塔野が魅力をわかってないだけだよ」
「……そうかな、言うほど魅力ってあるかな」
「あるよ、いっぱい」
「たとえばどんな?」
「そうだな、たとえば──」
「ハイ、ストッープ」
西田が突然割り込んで来た。
「なんだよ」
「なんだよじゃねーよ、いきなり好きだとかなんだとか、俺が居たたまれねーだろ」
「深見と話してるんだからお前には関係ないだろ」
「甘いんだよ、なんかっ、空気がっ」
西田はそう言ってなにやら空気を混ぜるように腕を振り回している。
深見を見ると西田に背を向けて肩を震わせている。そういえばこいつも性格は決してよくはない。
西田が「バカップルが……」などとブツブツ文句を言っているが文句があるなら来なければいいと思う。
引き続き弁当を食べていると「塔野、さっきの続きだけど──」と深見が言い出した。そんなにアンパンを普及したいのだろうか。
「なに?」
「とりあえず、甘いよね」
「まぁそうだね」
「でも甘すぎるわけではない」
「まぁ……そうだね」
「……ほどよく甘い」
「…………甘いしかないじゃん。本当は語るほどの魅力ないんじゃないの」
「まぁ……地味だしね」
「……確かに地味だよね」そう俺が同意すると、
「だけど……好きなんだよね」と天井を見ながら深見が言った。
「……そんなに好きなんだ」
「好きだね」
「飽きないんだ」
「飽きないね」
「3食でも?」
「……まぁ、いけるかな」
「よっぽどだね」
「本当にね」
「なぁお前らさっきからなんの話してるんだ?」
西田が訝しげな表情で聞いてきた。
「え、アンパンの話」
「アンパン?」
「深見が毎日アンパン食べてるから」
西田が深見を見て「へぇーそんなに好きなんだ」とからかうように言い出した。
「なるほどねぇ、そんな好きなら飽きないよなぁ。いやー甘いなぁ、甘いわ、どろっどろだなぁ」
そう楽しそうに言う。
しかし深見は我関せずを貫いている。
これは見習わなくてはいけないだろう、自分がされたら絶対嫌だけど。
「で、塔野は? 塔野も好きなんだろ」
「俺はアンパンはそうでもないけど」
「いや、アンパンの話なんかしてないじゃん」
「何言ってんの、さっきからアンパンの話しかしてないだろ」
「……お前マジかよ、お前が何言ってんのだよ」
「何のことだよ」
「さっきから深見はお前の事が好きだ好きだってほざいてんだろ」
「は? 違うだろ、ずっとアンパンへの愛を語ってただろ」
「うわ、ここまでくるとドン引きだわ、ニブすぎるだろ」
「違うって、西田が勘違いしてたのはわかってるから。深見は西田に勘違いさせつつアンパンへの愛を語り、西田をあざ笑ってたんだって」
「違うだろ、アンパンにかこつけて公衆の面前でお前のことを好きだ好きだ大好きだって恥ずかしげもなく喚いてたんだよ、なぁ」
二人揃って深見を見ると、深見は感情の読めないアルカイックな笑みを浮かべていた。
どうやったらそんな技術を習得できるのだろうか、俺もやってみたい。
「うっわ、ムカつく。なぁ」
「え、すごいじゃん」
「はぁ? 何が」
顔に出る癖をなおすためのお手本がこんな身近なところにいたとは。
どうしたらいいのだろう、口を閉じれば……まず食べ終わればいいのか、西田が話しかけてくるからダメなんだな──
──あ! しまった、さっきから西田と普通に話している、無視しなくては。
「なんだ、なんか忘れ物したのか」
そんな事を西田が言ってくるが無視だ、それになんの話だ…………なんで深見笑ってるんだ、何があった。
「深見なんでこいつ不貞腐れだしたの」
「あ、下向いた」
いちいち実況するのうるさいし嫌なやつだな西田──知ってたけど。
本当になんでここにいるんだ、俺はもっと深見と平和にご飯を──そうだ、もう深見以外見るのやめよう、もう外野はシャットアウトしよう。
「あ、顔上げた」
「深見見つめだしたぞ」
「塔野、どうしたの?」
深見が聞いてくる。でも別にどうもしてないしここで口を開くともうだめな気がする。
そのまま深見を見つめていると、深見がふわりと微笑んだ。
「うぜー、お前らなんでいきなり微笑みあってんだよ、また空気がっ甘っ」
そう言って西田が暴れ出したので──俺と深見は声をあげて笑った。
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