人の噂は蜜の味

たかさき

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ただ決意する話(平野視点)

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 ついに席替えが行われた。

 我がクラスの席替えはまず担任が黒板に席を書きランダムに番号をふる、その後番号が書かれたクジを引いて黒板と同じ番号の席に座るという単純かつ公平なものである。

 しかしそこは高校生、ただの席替えでも一大イベントのごとく盛り上がり「もう席につけー」という担任の声とともにそれぞれが各々の席に移動した。


 俺は窓側の一番後ろというなんかの主人公が座ってそうな素晴らしい席をゲットし、これは何か始まっちゃうんじゃないの? という軽い高揚感を持って新しい席についた。

 そして、塔野は廊下側の一番前といういいのか悪いのかよくわからない席に座り、こちらをジッと……………………捨てられた子犬のような目で見てくる。

 ──何故だ。

 あまり見たくないので窓の外を眺めていると隣のやつから「平野……すごくショック受けてるぞ」とわざわざ報告を受けた。何がとは言わずともわかるが……何故だ。


 最近は過保護だ過保護だと言われても開き直ってあまり気にしないでいたが、やはりここは子離れならぬ塔野離れをすべき時なのかもしれない。塔野ももう少し自立すべきだろう。


 塔野離れしよう──俺は熱い決意を持ってとりあえず大きく頷いた。



 そんなわけで休み時間、いつも塔野とダベっているが俺は次の授業の準備をしつつ自分の席で待機している。まぁいきなり離れるのも無理だと思うのでとりあえず塔野来るかなぁと軽い気持ちでいたのだがなかなかやって来ない。仕方なく塔野の様子を窺うと目があった。

 なるほど……あいつ俺が自分のほうに来ないかなとか思っているな。

 なんとなくしゃくに触るので俺は決してここを動かないという強い意志を塔野にスマホで伝える。すると塔野からもなぜ俺が動かなくてはいけないのかという意味の返信が来た。そっちがその気ならばこちらにも意地がある。そのまま同じ教室内で一言も発さずスマホでの会話でその休み時間は終わった。

 次の休み時間になりとりあえずおもむろにスマホを取り出す。すると塔野が今日深見をどこに座らせたらいいのかということを聞いてきたので隣借りたらといったやり取りをする。途中西田がフラフラと廊下を歩いているのが見えた気がするがきっと気のせいだろう。


 昼になり深見が教室にやってきた。


 なぜか塔野は立ち上がり廊下側の壁にへばりついている。あれは……隠れているつもりなのだろうか。
 深見はまず俺と目があい、何かに納得したようにキョロキョロしだした。そして目当ての人物を見つけると呆れた顔をする。見つけられた塔野はヘラヘラしながら隣の席を指さした。

 深見が隣の席に座ると塔野はなぜか少し驚いた顔をしてスマホを取り出した。そして俺のスマホが震える。見てみると塔野から『隣なんだけど』という謎の一文が送られてきた。

 ……何が言いたいんだろう。
 隣を勧めたのは自分だろうに……。


 その後、俺は隣の席のやつと軽く話しながら平和に弁当を食べる。ふと気になって塔野を見ると塔野が頭を抱えていた。

 ……最近はよくある光景なのでこのクラスではもうあれを気にするやつはいない。俺も気にすることなく弁当を食べているとスマホが震えた。
『深見が』とだけ書かれたやつを送ってきて俺にどうしろというのだろう。隣のやつにどうしたのかと聞かれたのでその画面を見せる。そして深見がどうしたのかそれぞれ勝手に予想し話を膨らませつつ昼休みが終わった。



 真相が気になる。さすがにスマホではやり取りがめんどくさいので次の休み時間に塔野の席まで赴いた。

「深見がどうしたの」
「え、なんのこと?」

 あからさまに目をそらせながら言う。
 なぜごまかそうとしているのだろう。


 俺たちの予想の結果、隣のやつは最終的にプロポーズされたに一票を投じた。さすがにそれはないだろうと言ったが可能性が0ではないのがこのバカップルの恐ろしいところだろう。
 ちなみに俺の予想は俺がそばにいないのをいいことに深見が恥ずかしげもなく愛の言葉を囁いた、である。これは可能性が高い気がする。こいつらならこれくらいきっと難なくやってのけるに違いない。

 しかし、よく考えたらプロポーズも愛の言葉も、もしされたとしても塔野がそれをそのまま人に言うのはハードルが高そうだ。
 それならばこちらから直接聞くのが一番手っ取り早い道な気がする。


 そんなわけで聞いてみた。


「プロポーズでもされたの?」

 塔野は一瞬何を言われたのかわからないというアホっぽい顔をした後みるみる顔を赤らめて「そ……そんなことされるわけないだろっ!」と言った。

 これは……逆にわかんないな。

「じゃあ愛の言葉でも囁かれたの?」

 そう聞くと顔を赤くしたまま「そんなの…………こんな所でするわけないだろっ!」と動揺した様子で叫んだ。

 ……こんな所じゃなかったらするのかと思いつつも結局なにが正解なのか判断がつかない。これはもう本陣に突入するしかこのモヤモヤを払拭する道はない。



 仕方なく塔野を迎えに来る深見を待ち伏せした。


「……なに?」

 訝しげな顔をする深見に無言でスマホを差し出し塔野とやり取りした画面を見せる。

「なんでテレビの感想とかをわざわざこんなので言い合ってるの」

 違う、それではない。

「この『深見が』ってのが昼休みのときに送られてきてそれが気になって仕方ないんだよ。塔野に聞いてもごまかすか顔を赤くするだけだしこのままじゃ安眠できない、何があった」

 深見に詰め寄る。



 すると深見の手がゆっくりとあがり深見の口元を覆った。
 そして深見は俺から目線をそらせるとわずかに顔を赤らめ「何もないよ」と、そう言った。



 ──何が…………あった。



 何もないわけないだろ、深見が顔を赤らめるってよっぽどだぞ何があった、っていうか何をした。
 俺が驚愕の眼差しで深見を見ていると塔野が顔をのぞかせた。そして深見と目が合うと顔を赤くして目をそらす。深見を見ると深見も何故か塔野から目をそらし廊下の窓から眩しそうに外を見ていた。どういうことだ、今日曇りだぞ。


 お前たち──何があった。


「何があったんだよ。そんな態度とられたら気になるだろ。お前ら今日の昼教室で恥ずかしげもなく何してたんだよっ!」

 俺の叫びに二人は揃って「何もしてないよ」と言うとはにかむように微笑み合った。そして、二人仲よく帰っていった……。



 …………本当に…………何があった。



 なんだアレ、超気になる。塔野にその後も何があったのかを何回も聞いたが『何もないよ』としか返ってこない。夜も……まぁ結局寝たけど、こんなことなら席替えせずに後ろの席から見守っているほうが俺の精神衛生上よろしい気がする。


「だから何があったんだよ」

 朝から塔野に詰め寄る。

 塔野はうんざりした様子で「何もないって言ってるだろ」と言うがそんな様子を見せるならもう言ってしまったほうが楽になるだろう。
 仕方ないので周りの席のやつにも聞いてまわる。しかし頭を抱える塔野などいつもの光景すぎて誰も気にしていなかったらしい。慣れ過ぎではないか?

 そして最終的に「平野……塔野離れしろよ」と言われた。

 ──何故だ。

 俺の昨日の決意はまだ失くしていない。しかしソレはソレ、コレはコレではないか?
 だが結局俺は仕方なく自席に戻り恨めしそうに塔野を見つめる。隣のやつから「一日でそんな寂しそうにするなよ」と言われるが違うそうじゃないと昨日の事を報告した。


「なんかもう……どうでもいいかな」

 えぇ、気にならないのか?なるだろ。

「バカップルのバカップルさを再確認したところで俺に彼女ができるわけじゃないし……」

 なんでそんな方向に行った。
 昨日一緒にバカップルの事を語り合った仲じゃないか。

「……平野もそろそろ塔野離れしたら」


 ──なんでそうなる!


「俺は塔野離れをする決意を昨日立てたんだよ。でも気になるもんは気になるだろ。ソレはソレ、コレはコレだろ!」
「一緒だろ、バカップルのイチャイチャの原因突き止めてどうするんだよ。そんなのただ虚しいだけだろ!」


 ──ぐうの音も出ない正論だ。


 もう俺はあの意味不明なメッセージをなかったことにして生きていくしかないのか……まぁ、その方がいいよな、俺の精神衛生上その方が絶対にいいに決まっている。何を俺はこだわっていたんだろう。


「俺、間違ってたよ。バカップルの事はもう無視するよ」


 俺が吹っ切れて爽やかな気持ちで言った目の前に──パックジュースを持った塔野がショックを受けた表情で立ちすくんでいた。


 ──何故だ。


 塔野は「……これ、慰謝料」と小さな声で言いパックジュースを俺の机の上に置くとショックを受けた状態のままフラフラと戻っていった。そしてショックを受けた状態のまま自分の席でボーッとしている。

 クラスの皆からのあーあ、やっちまったなぁーという生ぬるい視線が突き刺さる。ひどいとか可哀相といった小さな声も聞こえる。なんだよみんな塔野の味方かよ、このクラス塔野に過保護すぎだろ。


 そして塔野はショックを受けた状態のまま授業を受け。昼休みになり深見が教室にやって来た。

 深見は教室に入るなり何か異変を察したようだ。塔野を見たあとこちらを見てくるので流れるように視線を窓の外に移した。そしてゆっくり視線を戻すと半目で俺を見る深見と目があう……またそっと視線を外にやる。

 しばらく青い空と雲の流れを見ていると教室がざわついた。何が起きたのかと教室に視線を戻すと、深見がとても優しげな表情で塔野の頭を撫でていた。


 …………何してんの?


「ちょっと何してんの! それ教室ではやらないって話じゃないの」
 叫びながら近づくと「だって落ち込んでるから」と一切悪びれる様子なく深見が言い放った。

「落ち込んでるからじゃなくてお前が撫でたいから撫でてただけだろ」
「こんな落ち込んでて、しかも理由俺じゃなかったら頭撫でるくらいしか俺にできることないよね」

 真顔で言われた。ここまで堂々とされるとなんで教室で頭撫でるの禁止だったのかがわからなくなってきた。アレ? 俺も感覚おかしくなってきたのかな。
 いやいや、塔野だ。塔野が恥ずかしいからやめろって言ってたんだった。


 塔野を見ると塔野はジッと俺を見ていた。


 俺はまだ塔野離れを諦めたつもりはない。クラスの奴らも塔野離れしろと口々に言うくらいだから俺の決意は間違っていないはずだ、だがしかし──


「…………無視なんてしないから」
「……本当に?」
「俺が…………塔野を無視できるわけないから」
「……そうなの?」
「そうだよ」


 ──過保護だという自覚はあるのだから。


 結局三人で昼ご飯を食べている。俺としては今日だけの特別措置のつもりだ。

「──でも、頭撫でるの恥ずかしいから教室ではしないんじゃなかったの?」
「だって深見が……頭撫でたら平野が飛んで来るって言うから」

 塔野は深見を見ながらそう言うと今更羞恥が襲ってきたのかうつむき両手で自分の顔を覆った。
 機嫌よさそうな深見の手が再びあがる。それをはたき落としつつ今更これを阻止する意味があるのかと若干の疑問がわいた。

「もうお前たち……中庭戻ったら」
「えっ」
「中庭で存分にイチャイチャしてたら」
「…………イ……イチャイチャなんてしてないだろ」
「じゃあイチャイチャしなくてもいいから中庭に戻れよ、そして俺には心の平穏を戻せよ!」

 いるから、見えるから気になるのだ。俺の見えないところでもう存分にイチャイチャすればいいだろう。塔野は少し不貞腐れた顔をして「まぁ昨日そういう話したけど……」と呟いた。

「そうなの?」と深見を見ると「隣に座ったからね」と言ってパンを一口食べた。
 そうか、それであんな一文を寄こしてきたのか。じゃあもう俺のいない所で仲良くイチャイチャしてればいいだろう。


 何か一気に片付いた清々しい気持ちに浸っていると塔野から「でも深見が……」という呟きが聞こえた。
 …………コレは気にしたらダメなやつだ。俺は聞こえなかったことにした。コレは無視じゃない、聞こえなかったんだからしょうがない。

「じゃあ俺はもう自分の席に戻るから」


 なるべく塔野を見ないように自分の席に戻る。
 そして俺は、やっぱり塔野離れしよう──と熱い決意を持ってとりあえず大きく頷いた。
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