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しおりを挟む生まれてこの方、不良というものを見たことがない。
地元は田舎で小学校も1学年1クラスしかなく、親同士もほぼ学校OBで知り合いという環境だった。これといったイジメもなく地味に平凡に過ごしてきた。グレたという噂の人もいたが、例外なく地元から出ていったのでグレてもこんなとこでは何もできないんだなと納得したりしていた。
高校も中の中といった学力の高校でグレると言ってもせいぜいタバコが見つかったという程度であり、盗んだバイクで走り出したりするような人達にお目にかかった事はない。
だから大学進学のために都会に出てきて徒歩で行けるコンビニに感動しつつ弁当を買った目の前に、金髪ピアスで学生服というあからさまな格好をした人間がいて、ついジーッと見てしまったことは仕方のないことだと思う。
「何見てんだよ」と言われ、本当にそんなこと言うんだと感動を覚えたことも付け加えたい。
珍しいものを見た。
さすが都会だなと思いつつ横を通り抜け、まだダンボールに埋もれている自分の部屋に帰ろうとしたところ腕を掴まれた。
そしてもう一度「何見てんだよ」と言われる。
確かに見ていた、しかし今はもう見ていない。
だが不良というものはこういった難癖をつけてくるものなのかもしれない、漫画で見たことがある。
俺は喧嘩というものをしたことがない。
口喧嘩程度であれば妹とするがたいてい理不尽な言いがかりに負ける。いいのだ、俺は勝つことにこだわりはない。戦いを好まない平和主義者なので目線を合わせずにすみませんと言うことに躊躇もない──たとえそれが年下であろうとも。
よって「すみません」という言葉と共に頭まで軽く下げ腕の解放を願ったが不良の腕が離れることはなかった。
──どうしよう。
「ごめんなさい……嫌だ……やめ、離し……」
「うるさい」
なんでこんなことになったのか、不良が我が家に唯一物がないベッドの上で俺を組み敷いている。
コンビニの前で無表情にただ腕を捕まれ、俺が頭を下げてもその腕は解放されず、仕方なく愛想笑いをしたらニヤリと笑い返された。思わず「怖えー」とひとこともらし解放を試みて腕を振るが、ただ掴む力が強くなるばかりで痛い。
家はどこかと聞かれ嘘をついたら派手な音とともにすぐ横にあったゴミ箱が凹んだ。それを見て、なぜ嘘がバレたのかと考える余裕もなくペラペラと家の場所を暴露し──現在の状況に至っている。
俺の両腕を片手で押さえつけて、太ももの上に座った不良はさっきからジロジロと俺を見ている。近い……顔が近い、怖い。顔をそらすと頬を掴まれ戻されて、また睨まれる。
この不良よく見ると顔は整っているようだがいかんせん目付きが悪い。その目に射抜かれるようにしてどれほど時間が経っただろう。「やっぱないな」という宣託がくだりようやく俺の腕が解放された。
──長かった。
ひとまず息をついた俺の横で不良は先ほど俺が買ったスタミナ弁当を食べている。
「……それ、俺の」と呟くと、俺を一瞥したあと箸でご飯がひと口分差し出された。口を開けると箸を突っ込まれること三回。残りはすべて食べられた。
これはありがとうと言うべきか怒るべきか……いや、ありがとうはおかしいよな。
──なに? この状況。
「テレビあんの?」
「……まだいるかどうかわかんないからない」
「スマホ充電したいんだけど」
「……この段ボールの中のどこかにケーブルがあるはず」
「なんでこんな片付いてないんだ」
「……今日引っ越してきたから」
「とりあえずこの段ボールよけないとお前寝るとこないよ」
「……え」
不良と俺が座っているベッドを指差すと「俺ここで寝るし」と意味不明なことを言った。
…………え?
「……ここ俺の部屋」
「知ってる」
「……俺のベッド」
「俺床で寝るの無理」
「……なんで」
「身体痛くなるの嫌だし」
「……いや、なんで君ここで寝るの」
「泊まるから」
「……だからなんで」
「……お前うるさいな、いいだろ。一週間ぐらいでいいから」
「は?」
「春休みだから」
「は?」
そんな感じで俺の都会での新生活一日目は終了した。
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