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しおりを挟む結局俺は毛布にくるまってベッドとその足元にある壁との空いた隙間にはまるようにして寝た。そこしか場所がなかったのもあるし、とても良い隙間具合に落ち着いたのもある。
そして俺のベッドの上には昨日の不良が安らかな惰眠をむさぼっている。
──こいつ誰だ。
昨日の出来事を思い返してもなんでこうなったのか全然理由が思いつかない。本来であればいろいろ問いただして毅然とした態度でもって出ていってもらうべきであろう、だがしかし…………怖い。
ここは触らぬなんとかに祟りなしといった心持ちでそっとしておきたい。
まずは静かにダンボールの解体に取り掛かることにした。
「……なんで、隙間の寝心地よくしてんだ」
ベッドと壁の隙間にクッションを詰めていると飽きれるような声が聞こえた。
なぜお前に言われなくてはいけないのか。
しかし中身がなくなったダンボールを下に敷いたので多少のクッション性も期待できるだろうと俺の内心は少しご機嫌だ。
この不良──どんだけ寝るんだというほど俺のベッドで熟睡していた。最初は静かにダンボールを解体していたが最後の方は足で思いっきりダンボールを踏み抜いていても起きなかった。きっと落書きとかしても大丈夫だったのではないだろうか…………怖いからそんなことしないけど。
そして昨日の目付きの悪さが若干やわらいでいる、もしや寝不足だったのだろうか。
しかし俺は朝から片付けをしていたので少し休みたいし、この隙間の寝心地を確かめるのも重要だ。
ベッドの主の言うことは無視していそいそと毛布を身体に巻き付け隙間にはまろうとしたら毛布を引っ張られてベッドの上に引き倒された。
金髪不良に顔を寄せられ「腹減った」と言われる。
そうか、だからどうした──と、言ってやりたいところではあるが「はぁ?」と言ったら「あ゛ぁ?」と返されたので仕方なくパックご飯をレンチンした。
ばあちゃん秘伝の梅干しと共にお供えする。
「これだけ」
「今我が家にある食糧はそれだけです」
なぜ敬語になったし俺。
不良は意外にもそれ以外の文句を言わず日の丸パックご飯を食べた。
しかし、これで我が家の食糧はばあちゃん秘伝の梅干しのみになってしまった。買い出しに行かねばなるまい。
「あの…………いつまで……」
「だから一週間くらい」
そのだからはどっから来た。一週間も俺はベッドを占領されていなくてはいけないのか。それにこいつを残して買い出しとかセキュリティ的にどうなんだろう……。
「あの……もう食糧が尽きたので買って来たいんですが……」
「……ああ」
「この部屋鍵かけるので……ちょっと出ていって欲しいかなー」
「なんで?俺いるから行ってくればいいだろ」
──金目の物は何もないがお前一人残して出かけられんのだ──という気持ちを込めて不良を見つめていると「ついてきて欲しいの?」とわけのわからないことを言い出した。
「悪いけど俺いけないから、あーでもスーパーなら駅の方よりもあっちの大学に近い方のが安い」
まさか不良からお買い得情報を得るとは思わなかった。だがしかし、そんな事が聞きたいのではない。
「そうじゃなくて……見知らぬ人にお留守番させるのはちょっと……アレかなって」
「だから気にしないで行ってくればいいだろ。留守の間くらい守っておいてやるよ」
お前がなに守るんだよ、違うよ、そうじゃないよ。どうしよう通じないのか、正直に言うしかないのか。
「あのですね、俺はですね、君を知らないなーって思っていまして。その知らない人に留守はちょっと任せられないかなー」
なぜか正座の状態で、不良の顔を見ることができず自分の手の爪を見ながらやっとの思いで告白するもその後沈黙が訪れた。そして何やらガサゴソと鞄をあさる音が聞こえ目の前に小さな手帳が投げられる。
持ち歩いているのか学生証、不良のくせに。
俺はそれをおもむろにスマホで撮影し丁重に返却すると立ち上がった。
「それでは神谷……タロウくん。晩ごはんは焼きそばでいいかな」
「なんで『コ』勝手に取りやがった」
虎太郎は…………実家の犬と同じ名だ。あの愛らしい虎太郎の名を呼ぶ度にこの不良の顔が浮かぶのは嫌だ……。
ちなみに俺はいつもコタと呼んでいるのでタロウならギリセーフだろう。
「で?」
「はい?」
「お前の名前」
「……お前で結構です」
「……部屋荒らすぞ」
「上嶋八尋です」
「じゃあ八尋──」
……呼び捨てかよ。
「いってらしゃい」
そう言って、不良改めタロウくんはニヤリと笑った。
※
「なんで焦げてんのに野菜生なんだよ」
貴重な俺の初料理に文句をつけるな…………と心の中で訴える。
そもそも奢ってやってんのに何文句言ってんだこの不良、今日一歩も家から出てないぞ。なんだ、新手の引きこもりか? 押しかけ引きこもりか?
なんだ、押しかけ引きこもりって。
「なにひとりで笑ってんだよ、気持ち悪いな」
そんな事を言いながらタロウくんは食器を持って立ち上がった。意外だ、片付けはするのか。
このタロウくん、目付きの悪さが多少緩和されたからか昨日ほど怖くない。そして今日はほとんど人のベッドの上でスマホいじりながらゴロゴロしていた。それ楽しいのだろうか。
「八尋、洗剤とかないの?」
「せん……ざい?」
「食器洗うやつ」
「…………ないの?」
「……お前が買ってないなら、ないんだろうな」
あー、そういうのもいるのか。
「……スーパーで何買って来たんだよ」
「焼きそばの材料」
「それだけ?」
──頷く。
「明日のメシは?」
「…………明日またスーパーに」
「お前生活力ないの?」
「……これから身についていくかと」
「あ、そう……とりあえず洗剤とスポンジ……シャンプーとかは」
「買った記憶はございません」
「…………なんかメモ書けるやつよこせ」
そして俺は今タロウくんお手製のメモを持って近所のドラッグストアに来ている。タロウくんもしかして生活力ある子なのか、あの見た目なのに。
メモをみると洗剤やら歯ブラシやらに混じって油と書かれた項目にご丁寧に何重もの丸がつけられていた。そんなに油重要か…………油ないから焦げたのか。
メモには他にもいろいろ生活に必要そうなものが書かれている。
なんだろう、タロウくんもしかして結構便利な子なのかな。俺一人ならきっとアレがないコレがないと何度もコンビニやドラッグストアを往復していそうだ。
そして最後にお菓子と書いてあるのを見て思わず顔がニヤける、なんだ、まだ子供だな…………実は俺と誕生日一ヶ月も違わないけど。しかし学年が違えば先輩は先輩だ。この事実は隠し通すと心に決める。
両手にずっしりとくる重さにうんざりしながら来た道を戻る。コレは結構な重さだ、やはりタロウくんついてきてくれたらよかったのに。なぜか頑なに嫌がり最後は「こんなおつかいもできねーの」と蔑むように俺を見てきた。
部屋に戻るとタロウくんは見覚えのある服を着てやはりベッドの上でゴロゴロしていた。
「それ……俺の服」
「……借りた」
「パンツやシャツは……」
「そこに新品あったからそれ使う」
「……それ、俺の」
「洗濯機ないけどどーすんの? コインランドリー?」
「……当分そのつもりだけど」
「洗濯機はいるだろ。駅の方にリサイクルショップあるから明日見てきたら」
「…………そうする」
こいつは本当に一週間ここに居座る気なのだろう。しかし横暴ではあるが悪い子ではなさそうなので一週間程度なら別にいいかなーなどと思い始めている俺がいる。
実家は家族が多かったので人がいることに安心しているのもあるかもしれない。
調味料や洗剤を適当にしまいつつお菓子とジュースを部屋の机の上に置く。
「本当に買ってきた……」
「タロウくんもまだまだ子供だな。しょうがないから買ってきた」
「……ジュースなんて書いてなかったけどな」
そう言いながらタロウくんはベッドから降りてきた、楽しそうだ。
「そういう顔なら怖くないけどね」
「……ん?」
「俺不良ってあんまっていうか全然見たことないからさ……ついコンビニでジッと見ちゃったけど、今みたいな顔ならオシャレなお兄さんって感じかな」
「…………俺が不良?」
「違うの? 金髪でピアスしてる高校生って不良だろ、盗んだバイクで走り出したりするんだろ」
「……しねーよ、どんだけ偏見持ってるんだよ。金髪くらいいただろ」
「…………ガソリンスタンドのお兄さんは金髪だったけど──みんなお兄さんって呼んでたけどどう見てもおじさんだったし、若い頃バンドやってたとか……」
「どんな田舎だよ」
「中途半端な田舎なんだよ、すぐそばにまた中途半端に大きな町があるから合わない人はそっちに行っちゃう、人間関係が濃いから中にいる人たちは平和」
「……そんな中でお前は平々凡々に育ったわけだ」
まあ、その通りだ。
「だから平和ボケしてて得体の知れない俺みたいなやつも平気で部屋にあげるし、今みたいに仲良くダベるんだ」
「……違うよね、タロウくん俺脅して無理やり部屋の場所聞き出した上に俺押し倒したよね。タロウくんやっぱ不良じゃん。不良の引きこもりじゃん」
「なんだよ、危機感ないと思ってたら押し倒されたこと忘れてたのか。まーでも昨日はムシャクシャしてたけど、ぐっすり寝たし、まずい飯でも腹いっぱいになったからもうしねーよ」
「……やっぱ不良じゃん」
「……なんで隙間で寝るの嬉しそうなんだ」
タロウくんには理解できないかもしれないがなんかすごく落ち着くのだ。俺よりでかいタロウくんには理解できないかもしれないが。
隙間にいそいそと潜り込むと……なんだろうこのフィット感、落ち着く。
「タロウくんも寝てみたら? 落ち着くよ」
「嫌だよ」
そんなこんなで俺の新生活二日目は終了した。
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