新生活始まりました

たかさき

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 朝からスマホを見て何してるんだろう。

 タロウくんは現代っ子なのかずっとスマホを見ている。いったい何を見ているのだろう。

「楽しいの」
「……ああ」

 楽しいらしい。
 俺は近所を散策する予定だったのだが……。

「タロウくんってご近所さんなの?」
「……ああ」
「近所になんかいいとこある?」
「……ああ」
「……そうなんだ」
「……ああ」

 律儀と言えばいいのだろうか、一応返事はするのだな。しかしもうこいつは放っておいて俺は旅に出よう。
 出かける事は言ったが、聞いていたのか謎だ。

 タロウくんに言われたリサイクルショップを見たり電気屋を見たり、すべて徒歩で行けることに感動してみたり。しかし、自転車くらいあってもいいかもしれない。大学まで地味に距離がある。

 そろそろお昼だがお昼ご飯はどうしよう、タロウくんに聞こうかと思ってそういえば連絡先を交換していない事を思い出した。適当に何か買って帰ればいいのだろうか。先ほど弁当屋を見つけたので嫌いな人はいないであろう唐揚げ弁当を2つ買って家に戻る。


 部屋に戻るとタロウくんは俺が出ていった時と同じ体勢で相変わらずスマホを見ていた。本当なにしてるんだこいつは。

「タロウくんご飯」

 そういうと顔をあげた。
 いま、一瞬虎太郎が見えた気がする。虎太郎もよくわからない何かに夢中になっていてもご飯と言うと顔をあげる。

「あー、ここの弁当美味しい」と言いながらタロウくんがベッドから這い降りた。机の前であぐらをかくタロウくんを見てつい──頭を撫でてしまった。

「何してんだ」
「あ……いや、なんか触り心地どうなんだろうとか気になって、髪痛むんじゃないかとか……ほら、ハゲないかとか」
「ハゲねーよ」

 思ったよりも……柔らかい触り心地だった。もっとガサガサしているかと思った。もう少し……触ってみてもいいだろうか。
 手を伸ばすと──弾かれた。

「鬱陶しい」
「……ごめん」

 唐揚げ弁当を食べているとタロウくんのスマホが震えた。タロウくんはスマホを見る。
「ご飯中に──」と言いかけてやめる、俺が実家で言われていた事だ。ただ、二人しかいない部屋では、確かにそれは寂しい。でも本来俺は今の時間をひとりで過ごしているはずで、この目の前の存在はイレギュラーだ。

「タロウくんなんでここにいるの」
「……なんだ、やっぱり聞くのか」
「聞いたら出ていくルールでもあるの」
「……あるって言ったら?」
「……じゃあいいや」

 なんでだろう、ひとりが寂しいのだろうか。
 どうせ数日後には出ていくのに。


「おい」

 隙間に嵌って寝ていると何者かに蹴られた……まあこいつしかいないが。

「買い出し行くんじゃねーの」

 そういえばそうだった。

「何食べよう……タロウくんお腹空いてる?どうせ動いてないでしょ」
「……お前の好きなのでいいだろ」
「焼きそばか……」
「そんなに焼きそば好きなの」
「……そんなことはないけど……それしか出来る気がしない」
「……昨日のもできてたとは言い難いがな」
「今日は油があるから、いける」
「……なんでもいいけど、パンと牛乳も欲しい」
「他には?」

 そう聞くとタロウくんは驚いた顔をした。なぜそんな顔をするのだろう。見つめると「別にいい」と言って顔をそらした。





「まあ、こんなもんだな」

 お前は何様だ。
 しかし今回は焦げてないし生でもない。レパートリーとして野菜炒めも出来る気がする。野菜炒めができればなんでも作れるのではないかと夢も広がる。
 しかし致命的なミスをおかしている事に気がついた。炊飯器を買っていない。明日は炊飯器を買って来ねばなるまい……テレビはいるのだろうか。

「タロウくんはテレビ見るの」
「見ない」
 即答だ、しかしあれば見るのだろうか。最初にテレビの有無を聞かれた気がする。

 ──と、そこまで考えて何故俺はタロウくん基準で考えているのかと気づいた。俺は今のところテレビを見る予定はない。

 もしかして、タロウくんはいないものとして扱うべきなのだろうか。それ故に彼はその存在感を消すためにろくにベッドから降りずただひたすらスマホを…………ないな、今見たらスマホ見てニヤついてたし。
 それに存在感を消してるならきっと──

「あ、八尋ひとりで何食べてんだよ。あるなら言えよ」

 ──こんなこと言わないもんな。

「タロウくん、ろくに動かず食べてばっかりいると太るよ」
「いつもは動いてるから大丈夫だろ」
「……いつもっていつ」
「お前に会う前」
「……元々引きこもりではないんだ」
「なんで俺が引きこもりなんだよ」
「……引きこもってるから」
「これは色々理由があるんだよ。あ、でも少し早まるかも」
「早まるって何が?」
「一週間って言ったけどもう少し早く出て行けそう」
「……そうなんだ」
「……なんだよ嬉しそうじゃないな。もしかして寂しいとか?」
「……うん」

 ぶっちゃけ寂しい、初日に一人暮らしの新たな決意をろくにせずタロウくんが押しかけてきたせいだろうか。
 タロウくんはうるさくないし話しかければ一応返事は返ってくるし食べ物があれば寄ってくるし…………いま一瞬犬っぽいって思ったけど、悪い子だとは思えない。
 飼っておくにはいいのか……飼っておくって変か、でもそんな感じだな。

「なんだよ、あ、もしかして俺に惚れたとか? あー悪いけど俺男はちょっと無理かな。最初いけるかなっとか思ったけど気のせいだ。やっぱ無理だな、悪いな」

 気のせいってよくわかんないけど、なんか……こういう馬鹿っぽいところも犬っぽいかな、違うか、そんなの犬に失礼か。
 でも虎太郎っぽくはあるな、虎太郎……。


「……会いたいな、虎太郎」


 沈黙が訪れた……やらかしただろうか。

 今現在俺は机に突っ伏して窓の外を眺めている。タロウくんはその向かいに座り俺の買ったお菓子をつまんでいる。そのままの体制で耳を澄ますとお菓子を食べる音が止むことなく聞こえているので、タロウくんも気にしてないのかと安心する。

 やはりいくらなんでも犬扱いはよくないだろう、タロウくんに犬っぽいねと言ってブチ切れられたら嫌だし、少し反省しよう。

 そう思って顔を上げたらタロウくんと目が合った。思わず「怖っ」とつぶやいてしまうほど目付きが悪い。なんで……内心犬扱いしてるのがバレたのか。

「誰……コタロウって、俺じゃないだろ」
「あ、タロウくんのことじゃないけどそんな気にしなくていいよ」
「そいつと同じ名前だから俺のことタロウって呼んでんのかよ」
「いや、まあそうだけど。タロウくんにもちょっと悪いかなとか思って……」
「悪いって何が、俺をそいつの代わりだと思ってるとか?」
「そんなことは……実は本当は少し思ったけど、でもタロウくんと虎太郎は違うってわかってるし……さっきも、反省したところだから……」

 まだ目付きは悪いがそれ以上の追及はなかった。
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